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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
15/129

15話 縁は異なもの味なもの

「オーッホッホッホッ。皆様、わたくしが来たからにはご安心を。すぐに危機を救ってみせますわ」

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 セルミナ・フォー・ストラグルはその場所で高らかに声をあげた。

「なんだこいつは……」

 少し離れた場所で珍獣を見るような感じで緋鞠は千歳に問いかけた。

「うん、新入部員だよ。けんぽう部に入ってくれるって」

 対する千歳。緋鞠の少し引いた態度にどうせず、セルミナについて答えた。

「彼女はF組の留学生だね。私達のクラスから離れているのでひーちゃんが知らないのは変ではないね」

 腕を組み、説明する御影。

「いやいやいや、存在は知ってるぞ。男子どもの噂になってたやつだろ」

 特徴のある金色の髪型。スラっとしながらでる所はでるというモデルのような体型。セルミナを見ようと他のクラスの男子がこぞってF組に押し寄せたのだ。

「そんなことより……」

「ですわ!?」

 緋鞠が話している途中、セルミナが一際大きい声をあげた。

 そして、ギンと千歳を睨みつけ、ズカズカと千歳の元へ歩いてきた。

「ちょっと、千歳。どういうことですの?」

指を一本ピンと立てて千歳に抗議をする。

「貴方がわたくしに助けて欲しいと言ったんですよ。危機はどうしたの!?」

 恩人の危機とあって、意気揚々と来たら先程アリアに危機は免れたと知らされたのだ。

「うん。この部活、けんぽう部は人数不足で廃部の危機だったんだ。セルミナさんが入ってくれたおかげで存続できるよ。ありがとう」

「………えぇぇ、え?」

 千歳はセルミナのすれ違いが微笑ましく思う。この吸血鬼の少女は危機が何なのか聞かずにこの部活に入ってくれたのだ。



 時は遡る。

「わたくしに助けて欲しいですって!?」

「ええ。偶然なのか運命なのか、千歳様とセルミナ様は一緒の学校のご様子」

「「ええっっ!」」

 アリアの言葉に驚く千歳とセルミナ。アリアは主人を無表情で眺める。無表情ながら千歳を非難しているかのように思えた。

「千歳様ともあろうものが、セルミナ様みたいな美少女をチェックしていないとは何事ですか。それとも、美少女には萌えられねーとかおっしゃるのですか」

「いやいやいや、そんな趣味ないからね僕」

 否定の言葉はどちらに対してのものなのか。ついぞ語られることはなかった。

「では千歳様、アリアの言いたいことはわかりますね」

「…………そういうことなんだね。アリアの言いたいことがわかったよ。僕もその通りなんだと思う」

 千歳はセルミナの方に向く。

 その顔は今までにないくらい真剣だった。瞳には力があり、射抜くような視線でセルミナを見る。

「っ…………」

 その迫力に押され、セルミナは緊張で頬を微かに紅潮させる。異性が強く自分を見るという経験がセルミナにはなかったのだ。それも普段は平和そうにしている少年が。

「な、なんですの……」

 反発する言葉を述べたのは虚勢か。その語気はあまりに弱かった。

「セルミナさんに頼みが有るんだ。僕が入っている部活、けんぽう部に入って欲しい」 

「…………貴方が入ってる部活に?」

 少しの沈黙の後、どこか拍子抜けした感じでセルミナは尋ねる。

「うん。セルミナさんが入ってくれないと困るんだ」

「私が入れば危機は解決するのですね?」

「うん」

「わかりましたわ。セルミナ・フォー・ストラグルは貴方のためにけんぽう部に入りましょう」

 セルミナは気高く宣言をした。それはまるで自分に言い聞かせるように。

「えっとね、けんぽう部はね……」

「待って。危機の内容は入ってから聞きますわ」

「それではセルミナさんのこれからの食生活を決めましょうか」

 会話が進み、言う機会が逃れてしまう。千歳とセルミナには危機の内容が食い違ってるようなのだ。千歳は人出不足のための廃部の危機、セルミナは文字通りの危機として捉えてしまったのだ。

「まぁ、でも…………」

 どのような部活で何の危機なのか構わず、入部を決めたセルミナの強さを千歳は好ましく思った。

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