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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
100/129

100話 我は御影。魔術を操る者なり

 今日も今日とて土曜日がやってくる。

 部活は休みの日。

 場所は千歳家所有の道場。

「一体なんじゃこりゃーーー!?」

 そこで本日数回目となる御影の悲鳴が響き渡った。

「あーー」

 頬をポリポリと掻きながら気まずそうにするのは千歳。

 明後日の方向を見ながら自身がやったことを見なかったことにする。

「ち、千歳君。今もこれが現実だと信じれないよ」

「そ、そうなんですか……」

 ちょっと引き気味に応える千歳。理由は簡単。

 御影の目が血走っているからだ。尋常な様子ではない御影の様子を見て、千歳は御影が何故こんなヒロインの皮を脱ぎ捨てるかのような形相をするのかわからないからだ。

 あと、純粋に怖い。

「ち、千歳君。き、君はこれが魔術界の常識を覆すものかわからないのかい?」

 一呼吸して御影は幾分か冷静になった後、千歳に聞いた。

「そんなに凄いのですか?」

「凄いってものじゃないよ」

 御影は知らず出ていた汗を拭い説明する。

「まず、この道場から規格外だ。空間改変? 物理法則すら変えているので、世界改変と言う方が適切だね。魔術とは世界を誤魔化すものだと言うけれど、これは違う。塗り替えるものだ。世界を塗り替え、一個の世界として独立している」

 千歳の道場は広い。三方壁に囲まれているが一方だけ果てがない。

「そんな凄いのですか? 魔術でも似たようなものがあるって聞きましたけど」

「金メッキと金塊くらい違うね。前者は見せかけ、魔力が尽きればその世界は消滅してしまうんだ。まぁ、金メッキと言っても魔術師にとって奥義みたいなものだけどね。使えない魔術師がほとんどだよ」

「ほぇ。初代が滅茶苦茶やって創ったとか聞きましたが、そこまで凄いのですね」

 会えるなら、一度会ってみたいよと御影は小さく呟いた。

「そして、それすら霞んで見える千歳君の存在」

「はは……」

 愛想笑いをする千歳を御影がキッと眉を寄せ睨む。

「攻城級、いやそれ以上の魔術が唱えられるのに、何で初級の魔術が唱えられないんだぁぁぁぁ!」

 やまびこのように御影の悲鳴が道場に響き渡った。

 道場の正面、果てのない床が続く先。そこには燃え盛る火炎の渦があった。

「使い道ないんですけどね、この魔術」

「ポンポンと使われたら世界が滅びるよ……」

「あはは……」

 放った後も鎮火するどころか、生き物のようにうねる火の渦。

 それはまるで大火の祭典とも言える様相だった。

「普通は魔術って積み重ね、研鑽と修練によって発動するものなんだけどね。何で私にも唱えられない魔術を使えるのに生活魔術とかはまるっきし唱えられないんだ、千歳君は……」

「初代が九条院の始祖と仲が良く? それを見て覚えたとか言ってましたね。二代目と同じ感じで習得したから、使えるのと使えないのがあるとかなんとか」

 そうか、初代の技かと御影が小さく呟いた後、一呼吸。

「それでもおかしいけどね。わかりやすく言ったら、四則計算すら満足に出来ないのに連立方程式どころか微分積分をバンバン使って自力で法則を作り上げてるようなもんだよ」

「はは……と、ところで、火を消しちゃいますよ?」

 御影が微かにだが頷いたことを確認すると千歳は魔力を練る。

 すると、火がなかったかのように消えた。これも実は高等技術。

 その様子を見て、御影が無表情で言う。

「千歳君。少しイラついたから、頬をつねっていいかな?」

「ええっ! っていひゃいです! ふぇんじの前にやっふぇます!」

「はは……許せ千歳君。持たざるものの嫉妬だよ」

 御影は千歳の頬から手を離す。千歳は赤くなった頬をさすりながら頬をふくらます。

「目が笑ってないんですが。というより、それだったら僕もですよ。使い道ない魔術だらけで便利なの一個も使えないんですよ。御影さん、教えてくださいよ!」

「私が?」

 目を丸くしながら御影は聞き返す。千歳は真面目な顔で頷く。

「はい。御影さんにです。魔術を教えてください」

「ええっ、大学教授に勉強教える感じで気が引けるんだけど。別な人のがいいんじゃないかな?」

「御影さんが良いんです!」

 力強く宣言される。千歳の真っ直ぐな目線に気恥ずしさを覚え、目を逸し頬を掻きながら御影は、

「な、なら仕方ないかな。教師役としては不十分だけど、頑張るよ」

 千歳の師となることを了承した。

「やった! 代わりに僕が使える九条院の魔術教えますからね」

「えっ?」

「さっきの魔術見て驚いてましたけど。あれはきっと九条院では喪失した技ですよね」

「……そうだね。実はそうなんだ」

 神代に負けず劣らず九条院の歴史は古い。古いこともあるのだが、初代の技は桁外れとされており、その技量、逸話故実在したか定かでないと言われている。

 その初代の技を使える者は九条院家には存在しない。

 教えられるものなら教えてほしいが、自身に使えることが出来るのかと不安になる。

「御影さんなら大丈夫です」

 御影の不安がわかるのか、千歳は大丈夫だと宣言する。

「千歳君?」

「大丈夫。大丈夫です」

 優しく、繰り返す千歳の言葉に不思議と御影の胸中は霧が晴れたようにすっきりした。

「なら、頑張ろうかな」

「はい!」

 こうして教え教え合う先生生徒の不思議な関係が出来た。

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