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ヴァンパイア・クエスト  作者: タロー
1章 高貴なるエルフ
16/29

エルフ魔法

前回の「地の魔法使い」ですが、後半部分を書き直しました。前回を読んでくださった方には大変申し訳ありませんと思いつつ、突然の改稿は何度もやっていることなので、今更かなーって感じもします。

「エルフ魔法……? それを他種族に伝授することって、そんなにやばいことなのか?」


 答えの代わりに、ゴーレムの右足が向かってきた。アベルはバック宙返りでひらりとかわし、勢いで前のめりとなったゴーレムの背後をとった。

 がら空きの隙だらけ。しかし手元にバスタードはない。拳を受け止めた時に落としたっきりだ。剣でも効かないというのに、素手の攻撃なんて通るはずがない。そう考えるのが自然のはずだが、アベルはこの鉄のような硬さを貫き、中にいる魔法使いを串刺しにできる気がした。


「うらっ」


 アベルの手刀は黒い波動を噴出させながら、ゴーレムのうなじに突き刺さった。それきり、ゴーレムは動かなくなった。


 アベルは無言で右手を引いた。深々と粘土をえぐっていたのは異様に長い爪だった。吸血鬼ならば牙も伸びれば爪も伸びるものだろう。と、村を襲った吸血鬼を思い出しながら小剣のように伸びた五本の爪を見つめた。

 するすると引き抜いてゆき、アベルの掌ほどの長さまで爪が現れたあたりで、アベルは目を見開いた。べっとりと血がついていたのだ。


「殺ったの……?」


 テッサはおそるおそる近寄り、真紅に染まる小剣に気付いたのか、ごくりと唾を飲んだ。


「す、凄い……ね」


 信じられない出来事に、テッサは生存した安心や喜びというよりも若干引き気味であった。

 それはアベルもおおよそ同じであった。無論、殺すつもりで刺したことに変わりはないが、まさか本当に貫けてしまうとは。


(しかし参ったな。こいつが本当にエルフだった場合……俺はエルフを殺した悪魔ということで、二度や三度の死刑では済まなくなるな。それに、エルフ魔法云々も気がかりだ)


 何故アベルが「爪ならいける」という判断に至ったかと言うと、きっかけはゴーレムの拳を受け止めた時にある。彼は両手を広げ指の腹で衝撃を吸収していたのだが、ずっと剣を握っていたためか、右手の親指だけが唯一開き切らず、指の腹ではなく爪で支える形になった。この時彼は、親指の爪が伸び、拳を貫いているような感触を覚えた。本当に貫通していたかはわからなかったが、今ならわかる。確かに彼の爪はゴーレムを貫いたのだ。

 

 ピシッと音を立て、爪痕から亀裂が入った。その範囲は徐々に広がり、ゴーレム全体がヒビだらけになったかと思うと、ボロボロと崩れ落ちた。


 アベルはぎこちなく着地し、欠片をかきわけた。伸びていた爪はいつの間にか元の長さに戻っていた。

 テッサはしばらく目を反らしていたが、意を決したように欠片を一つ掴んだ。


「大丈夫か? テッサにとってはショッキングすぎるかもしれないぞ」

「あなたにとっての方がショッキングな結果になっているかもしれないでしょ」


 確かに、と引きつった笑みを浮かべる。魔法使いの男はうつ伏せに倒れており、ゴーレムの破片をかき分けていく内に足、背中、頭とおおよその位置が明らかになっていった。背中の辺りから赤黒くべっとりとした血が広範囲に及んでいる。

 それを見た時、アベルの中で何かが震えた。

 飲め、吸い尽くせ。

 誰かが語りかけている。


(ふざけるな、俺は絶対に人の血は飲まないと決めたんだ。飲んでたまるか!)


 アベルは一瞬、苦悶の表情を浮かべたのだが、隣の少女の意識は魔法使いの男だけに向いていたため、気付かれることはなかった。 


「フードをとるぞ」

「……うん」


 アベルは頭を覆う布地を掴み、持ち上げた。潤いを失った、短く整えられている白髪が現れた。


「顔を見るぞ」

「……うん」


 アベルは慎重に男を横に転がした。年輪のような皺が刻まれた顔の老人が、冬眠に入ったかのように目を閉じていた。


「村長!?」


 テッサが驚愕の声を上げた。


「マジで」

「……でも、彼の行為は許されざる行為……例えアベルが部外者のヒューマンであったとしても、問題はないはず……多分」


 フォローをしようと言葉を繋げていくテッサ。しかし「殺人」という事の重大さが彼女までをも押し潰していた。


「で、でも! まだ生きているかもしれない! アベル、もう一度うつ伏せにして、傷口の周りの衣服を剥いで」

「わかった」


 アベルは言われた通りに老人をうつ伏せになるように転がし、短刀でローブの一部を切り裂いた。痩せた背中には五つの穴が空き、そこから滾々と血が流れ出ていた。


「回復魔法をかける。でも、わたしの魔力は本当に弱いから、期待はしないで」

「構わない。頼む」


 テッサは傷に手をかざした。


「キュアー」


 緑色の光が彼女の手から放たれ、傷口を包むように光った。徐々に血が止まっていくのが見て取れる。アベルはそのさまを見て、こっそり胸をなでおろした。これで、本能に負けて吸血せずに済む……。治癒は一分ほど続き、光が消えるとテッサはその場に座り込んだ。


「疲れた……もう空。ごめん、この程度しかできなくて」

「いや、充分だ。俺は魔法を使うことすらできないからな……」


 アベルは老人の心臓を触れた。生命の鼓動は絶たれていた。


「駄目だな、死んでいる」

「……そっか」


 テッサはアベルの思っていた以上に、冷静だった。意外に人の死に対して慣れているのかもしれない。


「死体はどうするの? 埋める?」

「いや、村へ持って帰る」


 アベルは慎重に老人を持ち上げた。


「でも、それじゃああなたはエルフ殺しとして殺されるかもしれない」

「出来ればそうならないことを信じたいし、もしなったとしたら全力で逃げる。こいつがどれだけ悪人であろうと、俺が村の仲間を奪ったことには変わりない。そこは……正直に伝えなくちゃな」

「……そっか」


 その時アベルは翼が跡形もなく消えているのに気付いた。


「あれ? テッサ、俺の翼はいつから消えていた?」

「そう言えば、なくなってる……。でもそっちの方が好都合」

「そうだな」


 アベルは老人の死体を背負い、二人は村を目指し歩き出した。


「彼の悪行についてはわたしから説明する。それと……絶対に、吸血鬼だってバレないようにすること。エルフにとっても悪魔は忌むべき存在だから」

「わかった。でも……あまり無理するなよ。いざとなったら泣きながら俺に脅されたとか言って誤魔化すんだぞ」

「そんなみっともないことをするぐらいだったら死を選ぶ」

「……命はもっと大切にしろよ、テッサ」


 死を選ぶ、という言葉が冗談には聞こえなかったため、アベルは真剣になって、2秒ほど考えてから訓辞を述べたのだが、テッサはまるで聞こえないと言わんばかりに、大股でアベルの追い越して行った。


「なあ、テッサ。さっきこいつが言っていた、エルフ魔法の伝授っていうやつは、そんなにまずいことなのか?」

「エルフの掟の中でも最も重い制裁が科せられる……ことになっている。今は」

「今は?」

「……ごめん、この件に関しては……これ以上は何も言えない」

「それもエルフの掟ってやつか」

「うん……ごめん」

「謝ることなんてないだろ。テッサは掟に従っているだけなんだから。それより……ペラペラと喋ったこいつの方が責任あるぜ。よくもまあ、エルフ魔法の伝授だなんて、機密事項らしいことを言ってのけたもんだ」

「あなたを当事者だと思い込んでいた……のだと思う」

「俺とオーギュストが共犯ってことか」


 オーギュストはエルフ魔法を伝授する交換条件として、ヒューマンに対しエクソシズムドラゴンを討つための戦力を求めたのだろう。イーアリウスの人間がどれほどエルフ魔法を欲しているかはわかりかねるが、テッサや村長の話を聞く限りでは相当な魔法であることは確かだ。ひょっとしたら、喉から手が出るほど欲しいものなのかもしれない。


 まあ、俺には関係のないことだ。


「アベル」

「何だ?」

「あなたはわたしとお姉ちゃんのことを、本気で考えてくれている」


 一瞬何のことかと戸惑ったが、少し前に「何故吸血鬼である自分にこうまで良くしてくれるのか」と問うたことを思い出した。


「ヒューマンってのはな、嘘の塊みたいなもんだ。簡単に信じない方がいいぜ」

「あなたはヴァンパイアでしょ」

「ヴァンパイアなら尚更だ」

「そうかなー?」


 テッサはにこにこと笑いながら言った。アベルが彼女の笑顔を見たのはこれが初めてだった。可愛いな、というのが率直な感想だったが、反応に困るだろうと思い口には出さなかった。それにしても死を目の当たりにした直後にこうして笑えるとは、彼女の精神構造はどうなっているのだろうか?


「それと……ありがとう。オーギュスト殺害の犯人を倒してくれて。意外に強かったんだね」

「いや……今回は運が良かっただけだ。下手したら二人揃って死んでいた」


 アベルは右手を見た。悪魔のような(実際悪魔だが)爪は元通り、ヒューマンの可愛らしい爪に戻っている。まさか吸血鬼の爪があれほど鋭利とは知らなかった。村を襲ったヴァンパイアが村人を切り裂くのを見たが、ゴーレムも例外ではないとは。アベルは自分のことでもありながら、ヴァンパイアという種としての恐ろしさに恐怖した。


「その右手……黒いオーラを放っていたように見えたんだけど……アベル、魔法を使えるの?」

「黒いオーラ?」

「爪が刺さる直前、真っ黒な煙みたいに。いや、真っ黒と言っても、本当に真っ黒なわけじゃないでしょ? 黒煙って言ったって、灰色や白も混じってる。でもアベルの黒は井戸の最深部みたいな黒で、他の色が入ることを一切許さないような……そんな黒」


 とにかく黒いことはわかった。


「俺は魔法なんて使ったことないし、魔力もないぞ」

「見間違いだったのかな……」

「多分な」


 テッサは突然足を止めた。どうしたと尋ねる前に、アベルも彼女と同じ理由で足を止めた。


「三人……いや、四人かな。どうやら村長さんの死を感づかれたらしいな」

だいぶ間の空いた更新となりました。


遅れた理由としては個人的な事情もあるのですが、僕自身の物語を作る能力が足りず、執筆速度が落ちたことにもあります。


そうして苦悩しながら書きあげた14話(15話かな?)ですが、面白いでしょうか。どうでしょうか。僕としてはイマイチです。もっと面白い話が書きたいなあ。

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