幸せになってほしい人
夏休みが終わった
ミーンミンミンミーン
「まだ暑いな…」
「まだ残暑だよね」
まだ日照りがキツく、早く教室に行きたい気分だ
「よぉ。小岩、城崎っちゃんおはー」
「おはー」
「おはよう小月君」
と後ろから小月が声を掛けてきた
「今日もお前らはイチャラブだなぁww」
「イチャラブじゃねぇよ。いつもの光景だろうが///」
「そんなことないよ。イチャラブなんて…///」
「………お前ら、何で顔赤いの?ww」
「う…」
俺は雪未を見ると頬が赤くなっていた
「こ、これはあれだ…残暑が厳しくて」
「どこぞの小学生の言い訳だよww」
「くっ………///」
テクテク
「小岩。ちょっと気になることがあるんだが…」
「なんだ?」
歩いている途中、小月が雪未に聞こえないように小声で喋り始めた
「いや…この前勉強会の時、尾久の様子なんだが…」
「………お前も気付いてたか」
小月も気付いてたのか…卒業アルバムを見た時の様子のおかしさを
「俺もおかしいと思ってたよ。いつもは騒ぐ尾久が黙るんだからな」
「それは…俺が雪未の話をしたから?」
「それもあり得るが、どうなんだろうな…」
小月はそう言うのも分かる。普通ならヤキモチするか拗ねるとかするはず
でも、あの時の顔はいつもと違っていた
「あ、尾久…」
すると前を歩いている尾久を見つけた
「声、掛けるか?」
「あぁ…」
「お、尾久…」
ビクッ!
「お、おはよう…小岩」
「おはよう。」
「……………」
「……………」
お互いに黙り込んでしまった。俺も尾久も気まずい
「え…と、先に行くね。今日日直だし!」
「あ…」
尾久は慌てたように先に行ってしまった
「やっぱり何かあったんだろうな…」
「小月、何か心当たりはあるか?」
「何だろうな…」
いつもは無駄に察しがいい小月も分からないとなると実際問題俺も分からなかった
~~~~~~~~~~~
授業中
『で、ここは…習志野。答えてみろ』
「……………」
俺はどうしても気になっていた。尾久のあの様子が気にかかって仕方ない
………なんだか俺って、どっちにも気に掛けてばっかりだな
どうしてだろう?なんで俺は尾久の事心配してるんだろう…
友達だから?いや…違う気がする。もっと別の理由がある気がする
俺はふと尾久の席に目をやると
「……………」
ちょっと暗い顔してる
すると
ぺいっ
「?」
いきなり俺の机に小さく折り畳まれた手紙が飛んできた
誰に渡せばいいんだ?俺は手紙を取ると
「………俺宛?」
手紙には俺の名前が書いてあった。俺は手紙を開いてみると
『尾久の様子がおかしい理由。何か分かったか? 小月』
小月からの手紙だった
カリカリ
『いや、まだ分からない』
ぺいっ
『そうだな………あのさ。小岩ってさ、城崎っちゃんと尾久。どっちが好きなんだ?』
「ぶっ!?」
俺は思わず吹き出してしまった。
「どうした?小岩?」
「いえっ!!何でもないっす!」
「そうか」
これは…どういう事だ?
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放課後
ガタッ…バタン…
「はぁ…」
俺はため息をついた。なんだか複雑だなぁ…なんでモヤモヤすんだろう。
「おい、小岩」
「あ、小月」
小月が俺を呼び止めた
「どうした?」
「やっぱりお前、心当たりがあるんじゃないか?」
「だからないって。というか、さっきのメールはなんなんだよ?」
俺はあのメールについて聞くが
「………お前はやっぱりエロゲの主人公だな」
「は?またお前はそんなこと…」
「だがな。そろそろケリを付けたいとは思わないのか?」
「!?」
その言葉を言った小月は今まで見たことない真剣な目をしていた
「こ…小月…?」
「小岩、もう一度聞くぞ。城崎っちゃんと尾久どっちが好きだ?」
「っ……………」
俺はすぐに答えられなかった。
俺は雪未と尾久どっちも気になっていた。いつもそばにいて恋愛対象として見ていなかった雪未
でも、俺の家にメイドとして仕える頃にはお互い気にするようになった。
そして尾久は俺と急接近してから、俺も気にするようになっている。前に化学室での仕草だけでもドキッとした
でもそれは…
「小岩、お前は分かるか?お前のその優柔不断さが尾久。そして、城崎っちゃんまで苦しめているのが」
「っ……………」
「…分かるな?」
確かにそうだ。俺は2人の間で迷ってる、それは2人の想いを無下にしていたことを…
「確かにお前にとっては簡単な決断じゃないかもな。でも、決めないのは彼女達を苦しめる事であることだからな」
「……………」
そうだ。そうなんだ…俺は…俺は…
「悪い!!俺、行ってくる」
ダダダダダ…
小岩は外履きを投げ出して走り出した。
「……………」
ニヤリ
「頑張れよ。主人公」
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「沙紀ちゃん…どうしたの?」
私は、沙紀ちゃんに誰もいない教室を呼び出された
「……………」
「沙紀ちゃん?」
「………卒業アルバムを見た時…」
「え?」
沙紀ちゃんはいきなり話し始めた
「小岩と雪未ちゃん…すごく楽しそうだった」
「私ね。小岩には『幸せになってほしい』と思うの…」
「……………」
私もそう思う。裕吾には『幸せになってほしい』そう思ってる
それを沙紀ちゃんも思っている
「でもね…私には無理かも…」
「え…?」
私は耳を疑った。無理?
「沙紀ちゃん…どうしてそんなこと…」
「見ちゃったんだもん。小岩と雪未ちゃんが部屋で寄り添ってるの」
「!?」
そう、それは家で裕吾が寒いと言ってた時に私が寄り添っていたとき…
「なんかそれを見てたらね。私は2人には適わないって…思っちゃったの」
「……………」
「私の将来の夢は知ってる?」
「え…?」
「私ね。将来は新聞記者になりたいの、多くの人に真実を伝えたい。今、それになるために小岩に練習台になってもらってるの」
「それで…裕吾の事を…?」
「うん。でもね、新聞記者は『ネタ』を追いかけるとき、特別な感情は持っちゃいけないの」
「……………」
「でも…好きになっちゃったんだよね。『ネタ』に。これじゃ、新聞記者なんてなれっこないもんね」
「そ、そんなこと…」
「だから…ね。雪未ちゃん、あなたが幸せにさせてあげて」
「え………」
「小岩を…幸せにさせてください」