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王と王妃の結婚の話  作者: さなみさぎめか
ギルバートの混乱
9/17

 適当にドレスを選んで以来、ギルバートとトマスの仲は冷え冷えとしていた。

 トマスは必要最低限の事しか口を利かないくせに、時折物言いたげな視線をギルバートに向ける。ギルバートはそれに気づきながらも、全て受け流し黙殺した。

 だいたい、エミリとて侯爵家の娘だ。ドレスが気に入らなければ適当な理由をつけて、自分のドレスを着るはずだ。まるごと違うものではなく、ショールでごまかすなり贈った宝石だけ活かすなりするだろう。そんな風に心の中で何度もトマスに反論し、ギルバートはただひたすら仕事に没頭した。


 そんな日々も今日で終わり。


 夜会の支度をして目の前に立ったエミリを見て、トマスは首を傾げた。

 彼女にはまったく似合わない紫と赤のドレス。体の線をくっきりと映しだすピタリとしたデザインは、艶めかしいと言うより下品な印象だ。それに、ドレスにまったく似合わないチープな宝石もいただけない。ただ大きいだけのフェイクダイア。散りばめられたビーズが哀愁を誘う。

 一目見て、自分が適当に選んだ衣装そのままだと分かった。

 しかし、何故エミリは何のアレンジもせず、この衣装を身につけたのだろうか?

 頭は悪くないエミリならば、この衣装がまったく夜会に向かないとすぐに気づいたはずだ。

 それとも、ギルバートに異を唱えず完全服従を示しているのか?

 いや、それも違う気がする。

 俯いているエミリの表情を見ることはできない。


 ギルバートは、何の含みもなく本心から疑問をぶつけた。


「何故、その娼婦のような装いを?」

 単純に、疑問だけだった。

 軽い気持ちで口にした言葉だった。


 しかし、ギルバートの言葉を聞いたエミリは、一度弾かれたように顔を上げ、そして再びうつむいた。

 一瞬、彼女の目に涙が光るのに、ギルバートは気がつく。


「……、申し訳、ございません……」

 エミリは震える小さな声で告げ、一歩後退した。

 何を謝るのか理解できないギルバートは、混乱してエミリを見る。

 彼らを囲むように控えている使用人達も、ギルバートの後ろに佇むトマスも、誰も、何も言えなかった。

「申し訳ございません……っ」

 静寂を破るようにエミリは叫び、くるりと体を反転させた。

「そ……」

 ギルバートが疑問を挟む余地もない。

 彼女はそのまま、王宮の奥へと走り去った。


 何がどうなったのか。

 全くわからない。


 呆然と立ち尽くすギルバートの前に、エミリの侍女リリーが進み出た。

「あんまりでございますっ」

「え?」

 どうやら、リリーはひどく怒っているようだ。

「リリー、控えなさい」

 興奮したリリーをトマスが諌める。

 しかし、リリーは止まらなかった。

「あんまりでございます、陛下。エミリ様の事情を何もわかってくださらない。そこまでエミリ様を追い詰めて、何が楽しいのでしょうか。エミリ様は、あのドレスを着る他なかったのです! それを、あんなお言葉で……!」

「リリー、おやめなさい。これ以上は、不敬罪で処罰の対象になりますよ」

 トマスがギルバートをかばうように、二人の間に入り込んだ。

「……」

 リリーの声が止む。

 彼女の顔は見えないけれど、ギルバートには、リリーが『不敬罪でも構わない。こんな王様に、仕えることはできない』と、はっきり決断した気配が伝わってきた。


「王妃様が心配です。リリー、お側に行ってあげて下さい」

「……、はい」

 トマスの説得に、ようやくリリーがその場を立ち去る。


 また、場がしんと静まり返った。


「トマス、お前はあの侍女が何を言わんとしたか、知っているんだな?」

 ギルバートは、確信を持ってトマスに問うた。

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