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昼の休憩を終えて、ギルバートは城内の視察に出た。
トマスに指摘されたように、要はただの散歩だ。
後ろにしかめっ面のトマスがひかえて居ることを除けば、一時息抜きの時間になる。
しかし、ギルバートは散歩に出たことを後悔した。
「ギルバート様っ」
食堂へ続く廊下の奥から、大きく手を振ってエミリが走り寄って来たのだ。
使用人の手前、冷たくあしらうわけにはいかない。
ギルバートはぼんやり王妃が近づいて来るのを見ていた。
朝は下ろしていた髪を後ろで束ねている。
服装はドレスではなく、簡素なものだ。しかも、使用人と同じエプロンまでつけているではないか。
ギルバートは思わず、目の前で切れた息を整えるエミリに声をかけた。
「茶会だと聞いていたが……」
「まあ、来てくださったのですね! すぐにお席をご用意しますね」
弾む息のせいか、エミリは顔を真っ赤にして小ホールへ向かった。
「いや、違っ……!」
言葉の行き違いに気づいてギルバートは声をあげたのだが、すでに駆け出したエミリには聞こえなかったようだ。
ただ彼女の服装について聞きたかっただけなのに……。
ギルバートは呆然とその場に立ち尽くした。
ギルバートが振り向くと、先程までしかめっ面をしていたトマスが表情を崩しかけていた。
「……何が言いたい?」
「いいえ、別に」
しばらくするとエミリの侍女が恭しくギルバートの案内にやって来た。
もう逃げるわけにはいかない。
ギルバートはおかしそうに肩を震わすトマスを伴い、小ホールへ移動した。