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王と王妃の結婚の話  作者: さなみさぎめか
二人の結婚
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15

「実家の事情をお知りになって……、それで優しくしてくださるのですか?」

 ギルバートの腕に抱かれながら、エミリはずっと不安に思ってきた言葉を口にした。プレゼントを贈られても、ドレスを褒められても、素直に受け取れない自分が嫌になっていた。素直に嬉しいと思いたかった。けれど、嬉しさを全てさらけ出すのは、たまらなく不安だった。自分は愛されているわけではないと、いつも心の奥から警鐘が鳴っていた。

 けれど、エミリはギルバートを諦めたくない。

 嬉しいと、心から叫びたかった。


「ご実家は、何故それほど?」

 この国は手放しで遊んで暮らせるほど裕福とは言いがたい。けれど、爵位を返上するほど侯爵家が貧困に喘いでいるとは、ギルバートには驚きだった。

「貴族の出身ではない母を妻にした父に、親族は厳しかったのだと思います。侯爵家を存続させるだけの、華美なパーティーや講演会を支援して融資してくださる方がいないのです……。親族が暗に圧力をかけていると、最近わかって……。慎ましく生活していくだけなら領地の収入でまかなえますが、両親の結婚以前に融資していただいた分の返済が……」

 全ては、エミリの生まれる以前に起こってしまった出来事だ。

 領地を治めやりくりするだけで精一杯なのに、融資がないのを知りながら華美なパーティーの開催を強要する親族達。思い出すだけでため息が出る。それでも、父や姉は粘り強く親族を説得していた。子供の頃から繰り返された日常だった。

「では、国が後ろ盾になれば持ち直すかもしれないな」

「それは……」

 すぐには無理だが、きっと最大級の信頼を以って支援者が見つかると思う。

 だが、エミリはそうだと頷く前に、ひどく落ち込んでしまった。

「申し訳ありません」

「何が?」

 表情を曇らせるエミリを気遣うように、ギルバートはエミリの頬を優しく撫でた。

「私は、結局、ギルバート様と仲良くなりたいと思いながら、実家を救う為に結婚を利用して……!」

「エミリ、もう一度」

「え?」

 深刻な表情のエミリに対して、ギルバートは何故か幸せそうに微笑んだ。

「もう一度、言って」

「あ、じ、実家を救ううために……」

「その前」

 話をするために少しだけ離れていた顔が、またぐっと近づく。

「ギルバート様と仲良くなりたいと思い、な……がら」

 じっと間近で見つめられ、エミリの頬がさっと赤くなった。その様子に、ギルバートはにこやかに話を続けた。

「しかし、君のご両親は私にとっても大切な父母だ。両親を救うために、私も尽力を惜しまないよ?」

 それでは話があべこべのような気がする。

 上手く丸め込まれた気も。

 エミリはギルバートに抱きしめられて、くらくらしながら何とかそれだけを考えていた。

「君の実家の事で私が優しくなったと? その返事はイエスでありノーだ。君の実家の事は、私がいかに君を愛しているか気づかせてくれた。だから、私が君にドレスを贈るのも抱きしめるのも、ただ君を愛しているから」

「あ、愛……」

 その言葉には、さすがにもうダメだった。

 エミリはすべての思考を放棄して、呆然とギルバートを眺めた。


 ギルバートは一旦言葉を切って、エミリから一歩離れた。

 そして、静かに片膝を折り頭を垂れる。

「私は、君に想い人が居ると、ひどい誤解をしてしまった。その間、不安で辛くて、身を裂かれる思いだったよ。そして、自分が君にどれほど残酷なことをしていたのかも知った。どうか、許して欲しい」

「お、おやめ下さい、ギルバート様」

 王が自分に服従の姿勢を取るなど……!

 エミリは慌てて自分も跪こうとしたが、ギルバートは首を振りそれを制した。

「エミリ、私の心に、いつも君がいるんだ。許されるなら、私の本当の妻になってくれないか?」

 すっと顔を上げたギルバートの表情は見たこともないほど真剣なものだった。

 あまりの事に、言葉が出ない。

 目を見開き、エミリは立ち尽くした。

「エミリ、手を」

 言われるまま、手を差し出す。

 ギルバートはその手をそっと取り、親愛の口づけを落とす。

「返事を、聞かせて」

「あの……」

 自分の声がひどく掠れていて、身震いが起きたのを感じた。

 それでも、エミリはぐっと腹に力を込めた。

「私は、……私、ずっとギルバート様のお側に居たいです」

 今まで一度も言葉にしたことはなかった。思ってはいけないとどこかで考えていた。一度思いを深めると、辛くなるだけだと自分を必死に抑えていた。

 けれど、エミリは全身の力を込めて、ギルバートを見つめ返す。

「愛しております、ギルバート様」

 瞬間、ギルバートは素早く立上がりエミリを強く抱きしめた。

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