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ぼんやりと窓から中庭を眺める。
勝手に夜会をキャンセルしたあの日以来、エミリは暇な時間を無気力で過ごす日が続いていた。
夜会の主催者には、すぐにトマスを通じて詫び状を送った。けれど、誘ってくれたギルバートには直接の謝罪をまだおこなっていない。
早く謝らなければならないと思う。
しかし、あのドレスを着た自分に投げかけられた冷たい言葉を思い出すだけで、心の底から震えた。
きっと王を怒らせてしまったのだろう。
だから、あのようなドレスが届いた。
王妃になったからといって、おいそれとギルバートの心に近づいてはいけなかったのだ。早く彼と打ち解けたくて、やり過ぎてしまった。王が徐々に心をひらいてくれていたように感じていたのだけれど、やはりエミリの行いが鬱陶しかったのだろう。
エミリは何度目かのため息を付いて、何度も自分の行動を思い返す。
さらに、自分の家庭の事情を知られてしまった事も、エミリには辛かった。
その時、控えめにドアがノックされた。
「失礼しますエミリ様、王より贈り物でございます」
侍女のリリーの言葉とともに、大仰な衣装ケースや宝石が現れた。
エミリは急いで立上がり、それらを運んできた侍女達に満面の笑みを作ってみせる。
「まあ、ありがとう。嬉しいわ。早く開けてみせてください」
エミリが明るい声を上げると、侍女達が衣装ケースからドレスを取り出した。
ひらひらと何重にも重ねられた布が美しいエンパイアライン。派手な宝石の装飾はないが、淡い色合いでまとめられ、エミリにとても似合いそうなドレスだ。
ドレスを見て、侍女達がその素晴らしさを褒め色めき立った。
あの夜会の一件以来、ギルバートからこうしてプレゼントが届くようになった。
一番最初の夜会用のドレスを外すと、どれもきちんとエミリのことを考えられたような素敵な贈り物ばかりだった。
それが、エミリにはとても心苦しい。
ギルバートはエミリの事情を知り、王として窮地に立つ国民に慈愛の心を向けたのだと思う。正直、これ以上実家に負担をかけずに済むのはありがたかった。けれど、こうなってしまえば、もう、ギルバートとは打ち解けた夫婦になれないだろう。
もう一度、しっかりと贈られたドレスを見る。
一人の国民として、お前を救おう。けれど、もはやお前は本音をぶつけ合える家族ではない。贈り物をするのは、その意思表示だ。そうギルバートに宣言されたようで、辛かった。
「これは、明日の公務用ですね」
リリーの言葉に、エミリは思考を中断した。
「ええ。綺麗に着せてね?」
「はい。勿論です、エミリ様」
ぐっと握りこぶしを作るリリーを笑顔で眺め、エミリはドレスから視線を外す。
王妃としての教育を受け、エミリはギルバートのそばに立つことが増えてきた。
公務の時には、ギルバートはとても優しい。柔和な笑みを作り、エミリと目が合うと幸せそうに微笑みかけてくれる。だが、それ以外で、2人が会うことがなくなった。エミリがギルバートを追いかけるのをやめてしまったからだ。
公務が終われば、またぼんやりと窓の外を眺める時間が来る。
贈られたドレスを纏い、ギルバートの隣で微笑む。その幸せな時間をどれほど思い描いていたか。
それが、現実にはとても辛い。
侍女達に悟られ無いよう、エミリはまた一つため息を重ねた。




