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王と王妃の結婚の話  作者: さなみさぎめか
ギルバートの混乱
10/17

 トマスの話は短く、とても分かりやすかった。

 エミリの実家は名ばかりの侯爵家で、爵位を返上しなければならないほどの経済状況だった。その家を守るため、エミリはギルバートのもとに来たのだということ。

 そして、王宮に上がったエミリの衣装や装飾品は、実家が負担していたのだという。しかも、決して裕福ではない家で育ったエミリは、王宮で毎日着るドレスなど持っていなかった。だから、一から十まですべて実家で揃えなくてはいけなかったと。

 国から保証をもらえたとは言え、彼女の普段の衣装を誂えるだけでも相当負担だったはずだ。

 当然、夜会用の衣装などない。

 エミリを誘った時、彼女の表情が曇ったことを思い出した。

 それでも、きっとエミリはギリギリまで良い方法を考えたのだろう。けれど、どうにもならなかった。ギルバートから贈られた衣装を着る他なかったのだ。アレンジする小物も、それ用に誂えようとすればかなりの額になってしまう。


 だから、エミリは申し訳ありませんと、謝罪した。

 良い案が思いつかず申し訳ありませんと。


 ギルバートは、それが今ならはっきりと分かる。ただ純粋にギルバートとの仲を良い物にしようと頑張っていたエミリなら、きっとそうだと分かった。


 エミリの事情は、トマスもリリーも理解していた。ギルバートだけ知らなかった。

「エミリ様から提示された条件の一つに、ご自身の事情をギルバート様に伝えない、と言うものがありました」

「……、条件……」

「はい。お優しいギルバート様なら、事情を知れば本心を殺してでもきっと優しく振る舞うと、お考えになったのかもしれませんね」

 エミリを追い詰めてしまった事にようやく気づいたギルバートに、トマスは痛烈な皮肉を浴びせかける。

 優しい夫は妻を傷つけて悦に入ったりはしない。

 ギルバートは、自分の行いが稚拙で酷いものだと改めて痛感した。

 ともあれ、トマスの語ったことも、正しい。

 確かに、エミリの事情を最初から知っていたのなら、ギルバートはこうまでエミリを追い詰めることはしなかった。ただし、本心をぶつけることもせず、この国の王としてエミリと接したはずだ。

 ギルバートは王として、国民を大切に思っている。だから、国民の一人として、エミリに優しく接したはずだ。

 けれど、それでは、絶対に家族にはなれない。

 あくまで、王と国民の間柄で終わってしまう。


(それが、エミリには嫌だったというのか)

 トマスの責めるような態度に怒りを表すこと無く、ギルバートはしばし立ち尽くした。


「ギルバート様、出発のお時間です。残念ですが、エミリ様は体調不良と言うことになりますが」

 やがてトマスの事務的な声が聞こえて、ギルバートははっと顔を上げた。


 今すぐ王宮の奥に消えたエミリに駆け寄りたい。

 あれほどどうでもいい妻と罵っておきながら、ギルバートは本心からそう思っていた。それがエミリへの謝罪と同情から来るものなのか、それとももう一つ先の感情があるのか。ギルバートは、自分の心が分からず混乱する。


「わかった、馬車の用意を」

 ただ、ギルバートは王だ。

 例え私的なものだと銘打たれているとしても、夜会を欠席することがあってはいけない。私情の何もかもを押し殺さなければならないのだ。


 表情を整え柔和な笑みを作り出し、ギルバートは夜会へと出立した。

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