検証
私は記憶力は本当にいいと昔から言われている。
だからできることがたくさんある
翌朝。
私はわざと靴紐を結ばなかった。
一周目はこの公園の入り口で転び、膝を擦りむいた。
どうでもいい出来事。
でも――
どうでもいいからこそ、検証に向いている。
(未来が固定なら、私は転ぶ。)
私は歩幅を変える。
速度を落とす。
石を避ける。
段差も確認する。
物凄く慎重に――
それでもぐらりと視界が傾く。
え?
足首が、何もないところでひねられた。
地面は平ら。
障害物もない。
なのに私は前のめりに倒れ込む。
とっさに手をつき、膝を守る。
痛みはない。
擦りむいてもいない。
でも……
(……今、押された?)
そう思い振り向くが誰もいない。
風もない。
少し先を歩いているお母さんが
「紅葉、大丈夫?」
と駆け寄ってきた。
私は何も起きていないような顔でコクリと頷いた。
でも鼓動が早い。
偶然?
幼児のバランス感覚の問題?
それとも。
私はその場にしゃがみ込み、地面を見る。
乾いた砂に小石。
ただの公園。
だが一周目と“ほぼ同じ位置”で転びかけた。
位置の誤差は、たぶん三十センチ以内。
(回収された……?)
私はゆっくり立ち上がる。
次だ。
私は母に話しかける。
一周目では言わなかった言葉。
「ねえ、お母さん今日帰りにアイス食べたいな」
母は少し驚いた顔をする。
「珍しいわね。いいわよ」
よし。
これは変わった。
一周目ではアイス屋に寄らなかった。
私はアイスを普通に食べた。
食べることができた。
(……日常は変えられるのか……)
なら事故は?
私は店の外に出る。
道路、信号、横断歩道変わったところは特にない。
そう思った瞬間。
遠くでエンジン音が鳴った。
低くて重いエンジンの音と大型車両特有の振動。
びくりと体が強張る。
まだ十四年も先なのに胸が締め付けられた。
通り過ぎたトラックの側面。
社名ロゴ。
見覚えは――ない。
ナンバーも違う。
でも運転席の男が、こちらを見た気がした。
ほんの一瞬だけだが目が合ったきがする。
冷たい視線知らない顔知らないはずなのに―――
背筋が粟立つ。
(……運命は、形を変える?)
私は理解する。
小さな未来は変えられる。
だが“大きな流れ”は、まだ動いている。
修正力。
見えない手が確実にある。
私は小さな拳を握る。
怖い………
でも震えは、前回より弱い。
「運命が回収するなら」
私は心の中で呟く。
「回収しきれないほど、変えてやる」
公園の時計がカチ、と鳴る。
時間も運命も、進む。
なら私も進むだけだ。
二周目の人生。
これは検証。
そして――
宣戦布告。




