第33話「てきがあらわれた」
「町に着きましたけど、入れて貰えませんわー」
通信機から、アウラムの困った声が聞こえてくる
キャビンの画面には、貧相な柵とフレイアの姿
これはアウラムのゴーグルの画像だと判る
サブ画面にはフレイアからの視界が映っている
目の前には、長い棒に石を括り付けた
”斧らしきもの”を持った男が2人立っている
「町の者ではないだろう?今は入れる訳にはいかない」
「悪いが帰ってくれ」
口々にそう言われた
今は、ってことは何かが起きていて
入ることを禁じられてるんだろうか
「フレイア、いつになったら入れるか聞いてみて」
通信を入れる
画面が一瞬縦に揺れて、そのあと左右に振れた
そっか、こっちの声があちらに聞こえるって
伝えてなかったから驚いたんだな
少し間があってフレイアが門番2人に聞いてみたけど
返ってきたのは
「いつになるかわからない」
にべもない返事だった
仕方がないので、町の外周を回って
様子を見てから帰投するよう伝える
まあ、警戒心が無いよりはいいんだろうけど
はて、何があったのか
戻ってきたら軽い昼食が食べられるようにと
簡易調理台や調理器具
食器一式をクリエイトして調理を始める
個人的には道具や機械に愛着を持つほうなんだけど
利便性を優先すべきなら、そっちを重視する
対応力と即応力は、現場じゃ必須スキルだからね
今回は車内スペースが限られるので
昨日作ったフライパンを持ってくるより
現地でクリエイトするほうが利便性が良いと判断した
ただ、作って気が付いた
作った道具、どうする?
イレースで消すしかないか
そんなことを考えながら調理していたら、二人が帰ってきた
「戻りましたわ」
「凄くいい匂いがします」
ちょうどハヤシライスができあがったところだ
カレーよりも刺激が少なく
食べやすいと判断して今日はこっちにした
朝昼兼用だけど、出先だから簡単にワンプレートな昼食だ
「さて、食べながらでいいから
実際に見た感想を教えてくれるかな?」
そう言って、二人を席に座らせる
その席だけど、簡単に作るつもりだったのに
重厚なイメージが混じってしまったのか
アウトドアには似つかわしくない
ごてごてしたキャンドルが載って
城にありそうな巨大なテーブルと
背もたれが長く、繊細な彫刻まで入った椅子を
作ってしまっていた
どこの何のイメージが投影されたんだろう
体育館のすみっこで集まってるみたいに
ほんのわずかなテーブルの先端で食べる5人
あとでイレースするのに無駄にも程があるけど
まあ仕方ないか
「これはなんという料理なのでしょう?」
フレイアは興味津々だ
「ハヤシライス
ごはんに載ってるルーと混ぜて食べて
スプーンはこうやって使うんだよ」
昨日と違いスプーン1つだけだから
実際に使って見せる
阿部ちゃん以外は、恐る恐る見様見真似で食べてみている
でも、あっという間に慣れてたのか
もうおっかなびっくり持ち上げたりしていない
「これもおいしいですね。合格です」
なんでか今日もジャッジされてるんですけど?
まあ仕方ないか、阿部ちゃんだし
「それはなにより
ところで、まだあるけどおかわりいる人は??」
聴くのが野暮とばかりに、4人全員が無言で手を上げた
フレイアは2回おかわりをしたが
流石に3回目は、ごはんもルーも無くなって売り切れ
がっかりした美女も良いものだけど
口の周りにごはんとルーがついてますよ、フレイアさん
結局みんな食べるのに夢中で
特にがっついていたフレイアに
町の様子を聞くのは無理だと判断して
食後のお茶をしながら聞くことにした
今回はカホルが一人で用意してくれたけど
初めて淹れたにしては十分美味しかった
覚えが早いのは、執事の特性なのかカホルの特徴なのか
一息ついたところで、アウラムが告げた
「あの町、牛の群れに狙われて、何度かは襲われてますわ」
「牛?
牛って、あの牛?」
「あの、が何を指すのか分かりませんけど、牛です」
そうだよね、私のイメージが伝わってるわけがないんだから
ジャージー牛とかアンガス牛とかの牛?
武器持って出て、勝てないものなのかな?
というかこの世界、牛って居るのか?
『ご主人様のイメージする牛とは違い
こちらの牛は【魔牛】とも呼ばれ、魔法を使い
且つ巨大な体躯で、人をも襲う魔物です』
阿部ちゃんも同じことを思って
葉月さんに突っ込まれたのだろうか
こっちを見て困った顔してる
妖精達からの報告では、多数の牛の足跡があり
家が壊された跡と、怪我人が多数居たのを確認したらしい
ただ、今は牛は町の近くには居ない、とのことだった
家が壊されてたって
あの強風吹いたら飛んで行きそうな家、か
それはともかく、怪我人多数はちょっと心配だ
こっちの世界、医療技術はどうなっているのだろう
見に行きたくとも、町には牛を倒すまで入れないのか?
それとも牛を倒しちゃいけないから
牛が居なくなるまで町は我慢して耐えているのか?
「牛、倒したらダメとかあるのかな?」
質問に、3人娘は顔を見合わせた
「だめだと聞いたことは無い、ですね」
フレイアがそう答える
「じゃあ、食べて美味しいのかな?」
即座に返事が来た
「新鮮なうちは生肉が美味しいです」
「焼いて食べるのも美味しかったです」
「でも、余りに大きすぎて
食べきれずに腐らせてしまうのが
勿体ないんですわ」
最後のはアウラムの言葉だ
どれくらいでかいのか分かってないけど
冷蔵庫みたいな保存技術が無い
【世界】では、牛を倒したらまるまる1頭を
その場で切って食べるくらいしか出来ないってことか?
普通の牛でもでかいのに、”でかい”と連呼するようなのを
生で食えるうちに処理するって、結構ハードだよ
ホルモンは処理が無理にしたって、
内臓以外はなんとかできるんじゃ?
よし
「じゃあ、その牛をまず倒して
町の周辺を安全にしてみようか
せっかく牛を倒すなら解体して
バーベキュー大会を開いて
町の人と仲良くなれるか試そう!」
「「「ばー・べきゅー?」」」
毎度の変なイントネーションで、3人娘が首を傾げた




