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アデン大戦記 ―今日も俺たちは死にかけている―  作者: 霧原零時
第二章 優しき嘘と小さな勇気
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第3話

レイジの剣の切っ先が、男の鎧に突き刺さった。


――ピキーン!


金属音が響く。しかし、逆に硬い鎧がレイジの剣先を弾いた。


「あちゃー、硬い」


レイジが軽く顔をしかめた次の瞬間、


「貴様ッ!」


怒声とともに、四人の戦士たちが一斉に斬りかかってきた。



レイジは「ふぅ」と静かに息を吐く。


複数の剣が軌道を交差させ、獣のように振り下ろされる。

しかし――レイジはそれらを受け止めない。


サーベルの刃を、あたかも「流れ」の中に滑らせるように動かし、迫る切っ先のラインを見切っては、わずかに角度を逸らす。


ぶつけ合うのではない。流す。いなす。かわす――そして支配する。


「なっ、なんだ、こいつ……!?」


長身の男が狼狽し、声を上げた。


群衆の中から、どよめきが走る。誰もが目を疑った。


粗末な装備の男が、ランク上位の剣撃を無傷で受け流している――それも、たった一人で。


小さな重心移動、手首のわずかな返し。僅かな動きだけで、レイジは襲いくる四本の剣を無力化していた。



(レイジ!)


ガリオンは見惚れたように目を見開いた。


(あれがレイジだよ。上位ランクの無数のモンスターと戦ってきた奴だ。予測不能な攻撃も、異常なスピードも、全部潜り抜けてきた)


(なるほどな)


(そして、レベルは低いけど、あいつが作り出すものは、――新しい勇気なんだ)


(新しい……勇気じゃと?)


(爺も、レイジの傍に居れば、そのうち分かる)と、ジンが微笑んだ。




「ウオリャー!」


レイジが隙を見て、背の高い男へサーベルを一直線に突き刺した。


「やられる!」

男が顔を歪めて、身体が反る。が、レイジのサーベルの方が速く、男の胸に突き刺さった。……いや、やはり格上の鎧に弾かれた。


――ピキーン!


「やっぱダメかぁ~」レイジが悲鳴のような声を発した。


(……また、下手な演技を)


藍色のローブの下、女魔導士の口元がかすかに緩む。


胸を突かれた男は重心を崩して後ろへ尻もちを着いた。しかし、それでもレイジの方が、依然として不利なことに変わりはなかった。


他の男たちは顔を見合わせると、レイジの火力の低い武器では、鎧を着ている自分たちに傷をつけることが出来ないと知って、余計に活気づいた。三人は剣を構えると、レイジに迫った。


「驚かせやがって!」と、背の高い男も立ち上がると、三人に加わった。




(ムリだ……火力が違いすぎる)

ロカボが吐き捨てるように呟いた。



四人の男に囲まれながら、レイジはズルズルと後退した。彼は下がりながら、サザーランドの方へ視線を向け、何かの合図を送る。ロカボがその視線の先を追った。


レイジは、サーベルを身構えながら道から外れ、片側が小高い丘になっている方へ後退していた。時折、「おら、おらっ!」と挑発するようにサーベルを前で振っている。


(レイジから合図があったら、助けに入るよ)


盟主ジンの指示に、駆けつけたサザーランドの団員十数名が臨戦態勢に入る。

サザーランドには、ゾドムにも果敢に挑む命知らずが多く、団員はB〜Cランクが主体になっている。


(だけどレイジの、あの強気と自信はどこからくるんですかね)

弓を構えたロカボが言う。


(この辺りの盟主のランクは、最低でもBランク。一番弱いくせに、態度だけは一番デカい。あの武器を見てくださいよ。Dランクのサーベルですよ)

いま着いたばかりの副将ブルグが、B級武器を手に、首を傾げた。


(だけど、いつも、なんか真っすぐで、わしは嫌いじゃないがな)

老戦士ガリオンが、ジンに顔を向ける。


(それが、レイジなんだよ)ジンが微笑んだ。



「あああー!もうやめたァ~」


その時、いきなりレイジが大声を上げた。助けに飛び出そうとしたジンを、「来るな!」とレイジが目で止める。


「もう茶番は終わりだ。そこに跪け! おまえは即刻斬首だ!」


長身の男が怒鳴った。男魔導士も、すぐそこまで来ていた。


「ここまでか」と、レイジが大きくため息をついた。


(完全に終わった……)


ルピタは膝をついた。



「貴様、おれたちに勝てるとでも思ってたのか!」

長身の男が剣の切っ先をレイジに向けた。


「弱いくせに、口の利き方がなってねぇーんだよ!」

「この状況、分かってんのか!」

「貴様は斬首だ! 早くそこに跪け!」


苛立つ男たちが次々に怒鳴りつける中――、


「えっ、おまえら、なんの話してんだ?」


レイジがきょとんとした顔で首を傾げた。


「なにぃ!」


「おーい、シエン。そろそろ出て来いよ!」


レイジの声に、遠巻きにしていた人だかりの中から、藍色のローブの女魔導士が前に出て来た。

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