第3話
レイジの剣の切っ先が、男の鎧に突き刺さった。
――ピキーン!
金属音が響く。しかし、逆に硬い鎧がレイジの剣先を弾いた。
「あちゃー、硬い」
レイジが軽く顔をしかめた次の瞬間、
「貴様ッ!」
怒声とともに、四人の戦士たちが一斉に斬りかかってきた。
レイジは「ふぅ」と静かに息を吐く。
複数の剣が軌道を交差させ、獣のように振り下ろされる。
しかし――レイジはそれらを受け止めない。
サーベルの刃を、あたかも「流れ」の中に滑らせるように動かし、迫る切っ先のラインを見切っては、わずかに角度を逸らす。
ぶつけ合うのではない。流す。いなす。かわす――そして支配する。
「なっ、なんだ、こいつ……!?」
長身の男が狼狽し、声を上げた。
群衆の中から、どよめきが走る。誰もが目を疑った。
粗末な装備の男が、ランク上位の剣撃を無傷で受け流している――それも、たった一人で。
小さな重心移動、手首のわずかな返し。僅かな動きだけで、レイジは襲いくる四本の剣を無力化していた。
(レイジ!)
ガリオンは見惚れたように目を見開いた。
(あれがレイジだよ。上位ランクの無数のモンスターと戦ってきた奴だ。予測不能な攻撃も、異常なスピードも、全部潜り抜けてきた)
(なるほどな)
(そして、レベルは低いけど、あいつが作り出すものは、――新しい勇気なんだ)
(新しい……勇気じゃと?)
(爺も、レイジの傍に居れば、そのうち分かる)と、ジンが微笑んだ。
「ウオリャー!」
レイジが隙を見て、背の高い男へサーベルを一直線に突き刺した。
「やられる!」
男が顔を歪めて、身体が反る。が、レイジのサーベルの方が速く、男の胸に突き刺さった。……いや、やはり格上の鎧に弾かれた。
――ピキーン!
「やっぱダメかぁ~」レイジが悲鳴のような声を発した。
(……また、下手な演技を)
藍色のローブの下、女魔導士の口元がかすかに緩む。
胸を突かれた男は重心を崩して後ろへ尻もちを着いた。しかし、それでもレイジの方が、依然として不利なことに変わりはなかった。
他の男たちは顔を見合わせると、レイジの火力の低い武器では、鎧を着ている自分たちに傷をつけることが出来ないと知って、余計に活気づいた。三人は剣を構えると、レイジに迫った。
「驚かせやがって!」と、背の高い男も立ち上がると、三人に加わった。
(ムリだ……火力が違いすぎる)
ロカボが吐き捨てるように呟いた。
四人の男に囲まれながら、レイジはズルズルと後退した。彼は下がりながら、サザーランドの方へ視線を向け、何かの合図を送る。ロカボがその視線の先を追った。
レイジは、サーベルを身構えながら道から外れ、片側が小高い丘になっている方へ後退していた。時折、「おら、おらっ!」と挑発するようにサーベルを前で振っている。
(レイジから合図があったら、助けに入るよ)
盟主ジンの指示に、駆けつけたサザーランドの団員十数名が臨戦態勢に入る。
サザーランドには、ゾドムにも果敢に挑む命知らずが多く、団員はB〜Cランクが主体になっている。
(だけどレイジの、あの強気と自信はどこからくるんですかね)
弓を構えたロカボが言う。
(この辺りの盟主のランクは、最低でもBランク。一番弱いくせに、態度だけは一番デカい。あの武器を見てくださいよ。Dランクのサーベルですよ)
いま着いたばかりの副将ブルグが、B級武器を手に、首を傾げた。
(だけど、いつも、なんか真っすぐで、わしは嫌いじゃないがな)
老戦士ガリオンが、ジンに顔を向ける。
(それが、レイジなんだよ)ジンが微笑んだ。
「あああー!もうやめたァ~」
その時、いきなりレイジが大声を上げた。助けに飛び出そうとしたジンを、「来るな!」とレイジが目で止める。
「もう茶番は終わりだ。そこに跪け! おまえは即刻斬首だ!」
長身の男が怒鳴った。男魔導士も、すぐそこまで来ていた。
「ここまでか」と、レイジが大きくため息をついた。
(完全に終わった……)
ルピタは膝をついた。
◇
「貴様、おれたちに勝てるとでも思ってたのか!」
長身の男が剣の切っ先をレイジに向けた。
「弱いくせに、口の利き方がなってねぇーんだよ!」
「この状況、分かってんのか!」
「貴様は斬首だ! 早くそこに跪け!」
苛立つ男たちが次々に怒鳴りつける中――、
「えっ、おまえら、なんの話してんだ?」
レイジがきょとんとした顔で首を傾げた。
「なにぃ!」
「おーい、シエン。そろそろ出て来いよ!」
レイジの声に、遠巻きにしていた人だかりの中から、藍色のローブの女魔導士が前に出て来た。