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アデン大戦記 ―今日も俺たちは死にかけている―  作者: 霧原零時
第二章 優しき嘘と小さな勇気
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第2話

四人の戦士はレイジの装備を一目見るなり、鼻で笑った。

粗末なサーベル、くすんだ金具の安物鎧。明らかに場違いな低ランク装備だった。

その姿に、彼らの口元にはあからさまな侮蔑の色が浮かぶ。


「なんだァ! この辺じゃ、ハンター風情が俺たち対人クランに口きけるのかァ?」


「やれやれ……だから田舎は嫌いなんだよなァ」


「まったく教育がなってねぇな!」


挑発の言葉を重ねながら、四人の戦士はじりじりと距離を詰め、腰の剣を次々に抜いていく。

その剣先は、確実にレイジを狙っていた。


「おまえらの事情なんて、知らねぇーよ」


レイジの声には一切の怯えがなかった。その態度に、逆に周囲がどよめく。


(おそらく相手はCランクが四人……ぼくらEとDじゃ、マジやばいって……)


群衆の向こうで、ルピタは頭を抱えていた。



「おまえ、その細い剣で、俺たちに勝てるとでも思ってんのかァ。 あっははは……!」


長身の男が腹を抱えて笑いながら近づいてくる。レイジの剣をみて、周囲の一部も苦笑した。


「細いだと? おまえらは、剣の太さで勝負してんのかよ。俺のは荒くれだぞ、見せてやろうか。 男が太さで勝負すんのはなぁ、ここ……」


と、言いかけたところでレイジの動きが止まる。悲しげにこちらを見つめるバニラと目が合い、レイジは股間に持っていった手を慌てて戻した。


(あぶねぇ。可愛い子が見てたわ)




――と、その時、ゴウッと風を裂く音が響いた。


群衆をかき分けて現れた大きな影が、ずしんと地面に鉄の斧を突き立てる。

瞬間、人々がざわついた。


「レイジ、手を貸そうか」


その声に振り返ると、サザーランドの女盟主、オークのジンが立っていた。

長身で、褐色の肌に鋼の筋肉。射抜くような鋭い眼光。

威圧と誇りをそのまま具現化したようなその姿は、まさに“女傑”の名にふさわしかった。


「うちの連中、声かければ二十人くらいはすぐ集まる」


(よっしゃあああああ!)


ルピタは涙目でガッツポーズを決めた。




「ジン」


「ん?」



「さっき、ブルグにさ……」


「ブルグに?」



「あ……いや、なんでもない!」


レイジは、自分の手首に残る痣を見せかけそうになり、慌ててやめた。チクったとバレたら、ブルグが怖すぎると感じたのだ。


「おいッ! 無視してんじゃねぇぞ!」


怒りを露わにしたのは、目の前にいる長身の戦士だ。剣を手に、いつでも飛びかかれそうな勢いだった。



「ジン、サンキュ。でも、このくらいの相手なら――ネオフリーダム(おれたち)だけで充分だ」


レイジが片目を閉じてウィンクした。


(おれたちって、……もしかして、“ぼくちん”も入ってるの!?)


ルピタの思考は、一瞬で天国から地獄へ急降下した。

心拍数は跳ね上がり、血圧は高め。コレステロールまで上がった気がして、頭がクラクラしてきた。


(ああ……ぼく、ちょこっと鼻血も出てきちゃった)


ルピタの顔からは、見事に血の気が引いていた。




「充分だァ!? 貴っ様!」


四人の戦士がレイジを取り囲む。その気配は、すでに臨戦態勢を超えていた。


「詫びを入れるくらいじゃ済まさねぇーぞ!」


そのとき――


「なにをしておる!」


四人の後方から、荘厳な声が響いた。

城内から現れたのは、黒い高級ローブをまとった、高貴な雰囲気の男魔導士だった。


知雀(ちじゃく)様、すみません。この者が我々を愚弄したもので、少し教育を……」

「ハンタークランの分際で、我々に喧嘩を売ってきたものですから」


男たちは顔を引きつらせ、額に汗をにじませながら、必死に言い訳を繋いだ。



そのやり取りを見ながら、ジンの隣に立っていた弓兵・ロカボがクラチャ(クランチャット)を飛ばす。


(知雀……盟主、あいつら、ニュルンベルグかもしれませんよ。たしかあそこには、そんな名の軍師が)


(ニュルンだったら、ちょっと厄介なことになりますな)


老戦士・ガリオンが渋い声で続ける。


(レイジ、あいつらは……)


ジンはレイジに呼びかけようとしたが、クラチャでは届かないことに気づき、唇を閉じた。


「早くすませろ」


男魔導士は冷たく言い放ち、背を向けて歩き出そうとした。


「おい、そこのいい大人、五人目! ちょっと待て!」


――それをレイジが呼び止める。男は足を止め、ゆっくりと振り返った。


「おまえの母ちゃんに、大きくなったら立派な大人になれって言われなかったか」


(盟主、なんてことを……)


ルピタはもう泣いていた。口から心臓の一部がはみ出していた。


「あんたがこいつらの保護者なら、あの迷惑を掛けたエルフの()に、謝らせたらどうだ」


「……それを、私に向けて言っておるのか」


男の声は、氷のように冷たかった。空気が一瞬で凍り付く。


「はあ?――他に誰かいるんですか? ええ、あんた、そういうのが見えちゃうタイプなの! うわ」


男魔導士は踵を返し、レイジへと向き直った。


「貴様、死にたいのか」


男魔導士の低い一声を合図にしたように、四人の戦士が剣を振り上げた。


だが、その動きよりも一瞬早く――レイジのサーベルが、一閃。

目の前の長身の男の胸部を一直線に貫かんと突き出された。

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