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アデン大戦記 ―今日も俺たちは死にかけている―  作者: 霧原零時
第二章 優しき嘘と小さな勇気
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第1話

アデン領、グルーディオ城前――


血盟サザーランドの副将・ブルグが眉根を寄せ、低く言った。


「北部の四つの城を落とし、未だ無敗。この大陸で最強の対人クランだ」


「ほぉ……」

レイジは興味なさそうに、ただ相槌を打つだけだった。


「そのニュルンベルグが、最近アデン領にも来てるって噂だよ。でもまあ、私たちハンタークランには関係ないけどね」


ブルグは短い首を振り、ようやくレイジの腕を離した。


レイジは歩きながら心の中でぼやく。

(あいつ、いい奴だけど、一言多いし、力が強すぎ……)


彼の細い腕には、すでにうっすらと痣が浮かんでいた。


その時、彼の足が止まった。人垣の隙間から見えた少女の顔に、レイジは息を呑む。


それは昨日、荒地で助けたエルフの娘――バニラだった。

彼女は新米のヒーラーで、まだレベルも低く、回復アイテムすら満足に持っていなかった。

昨日の狩りでの泥跡が、彼女の背中にまだ残っている。

荒地で見た時と同じように、傷だらけの小さな手で、祈るように口元を押さえていた。



グルーディオ城へ続く西の広場には、人だかりができていた。

その後方に、異様な静けさを纏った一人の女魔導士が立つ。その場の空気すら染め変えるような存在感だった。


藍色のローブは風すら弾くように揺らがず、手には魔力の波動を帯びた長杖が握られている。

背には、布に包まれた身の丈を超える棒状のものが背負われていた。


フードは深く、その眼差しは見えない。口元を覆う黒革のハーフマスクの奥からは、息づかいすら感じさせない。

周囲の空間が、彼女を避けるように歪んでいる。


「おれ様にぶつかっておいて、こんな安物で済むと思うなよ」


一人の男が言い放つと同時に、他の三人の戦士が、バニラが集めたありったけの荷物を次々と踏みつけた。

砕けたポーションの小瓶が、土と石畳に青や赤の染みを広げる。まるで「希望」の色が地面に吸い込まれるかのようだった。


周囲から微かに漏れた非難の声は、風に掻き消されていく。誰も、面倒には関わりたくないのだ。


「許してください、これしかないんです、ごめんなさい……」


バニラは地面に額をつけ、持ち金すべてを差し出した。


「んだよ、金これだけ? 舐めてんのか小娘」


バニラは唇を強く押さえ、力なく首を横に振る。


「……泣いても許されねぇからな。詫びにA品、持ってこい」

「Aランク装備の一つくらい、エルフなら持ってんだろうが」


長身の戦士が、足で彼女の額を押さえつけようとした――その時だ。


「――やりすぎだろ」


静かに、しかし確かに響いた声が、その場の空気を切り裂いた。


四人が振り返ると、そこにレイジが立っていた。


「おまえらアホかよ。A級品なんて、そんなもん――俺だって持ってねぇよ」


突然現れたレイジに、群衆がざわつく。


(あなたは……昨日の……!)


バニラが顔を上げた。涙と土に汚れた頬に、わずかな光が差す。


「おまえら、いい大人が、レベルの低い女の子を囲んで何やってんだよ」


四人はレイジをまじまじと見た。彼の装備は、見るからに低レベルだった。


「うちの母ちゃんに叱られんぞ。“いい大人”ってのは、おまえらのことだかんな」


たしかにレイジの母親はA級ソーサラーで、とんでもなく強かった。


「なんだとぉ……!」



「おまえも。“いい大人”」

「そこのおまえも。“いい大人”」

「あとおまえ。“わりと年上”」

「で、最後。おまえ。“いかにもベテラン”」

レイジは、見事に「いい大人」に育った四人を、一人ずつ指差した。



「おまえら、まとめて、寄ってたかって女の子いじめる“クズ四人衆”。そう名乗っとけよ!」


「貴様ァ、誰に向かって口を利いているか分かってんのか」


一人の長身の戦士が、レイジに向かって歩き出す。


(――――えええ、これってどういうこと?)


その時、ルピタが走ってきて、レイジが四人の戦士と一触即発の状況に陥っているのを目にした。

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