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アデン大戦記 ―今日も俺たちは死にかけている―  作者: 霧原零時
第九章 いつだってアデンの空は蒼かった
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第3話

―――二週間後。


ニュルンベルグのアデン領、ブリザック城にて。

盟主・羅漢王《ラカンオウ》と、ブレイヴディラーの盟主アルカンブーストとの間で、不戦条約が調印された。

その場には、ネオフリーダムも立会人として同席していた。


レイジは、七歳になった一人娘のチルルを連れてきていた。


調印式が無事に終わり、城内から出てきたレイジに、ハルトがメリサとリクトを連れて近づいてきた。


「盟主、今回の事は本当に……」


ハルトの言葉の途中で、レイジが手をあげた。


「終わったことはもういい。それより、身体の方はどうだ?」


「ええ、もうすっかり」


「そうか、良かった。それ、みんなが作った新しい鎧だろ?なかなか似合ってるな」


レイジがハルトの肩に手を置いたその時――


「盟主!」


元気を取り戻したルピタが、ニコニコ顔で走ってきた。

ハルトたちが頭を下げて立ち去ると、ルピタは小声で顔を寄せた。


「こないだは騙されたけど、今度は絶対に大丈夫っす。それで、グリフィンの羽が一枚必要なんすよ」


「不老不死か?」


レイジも、なぜか声を潜める。


「そうっす! でも、その洞窟の前に今度は、大きな鶏みたいな、トサカの赤いモンスターがいるんす」


「分かった、分かった。羽は、おれがなんとかしとく」


レイジが言うと、


「あざーす!」


ルピタがガッツポーズを作った。



◇

そのころ――


謁見の間には、チルルを連れたパブロとブルーベル、ミロイの姿があった。

羅漢王は玉座に座し、微笑んでいた。


「その弓、どうしたの」


ブルーベルが、チルルの手にある、ごつい白と銀色の弓を指差した。


「ああ、デュランさんが貸してくれたみたい」


ミロイが言う。


「え、それ……ひょっとして――雷嵐《らいらん》の大弓!?」


ブルーベルが驚いた顔で聞いた。


ミロイが頷く。


「こんなもん、ここに持ってきて大丈夫なの……」


「ああ、デュランの話じゃと、この弓は普通の大人でも弦を引くことができんらしい」


と言うパブロに、ブルーベルが聞いた。


「誰にも引けないから、この場に持ってくることを許されたの?」


「いいえ。ぼくたちがネオフリーダムと知っていて、通してくれました」


と、ミロイが応える。



その時――


「爺、あいつ、強そうだから、やっちゃっていい?」


チルルが弓の弦を引いた。


―――引けた!?


「バ、バカっ!」


パブロが慌てて止めようとしたが遅かった。

チルルの放った矢が、羅漢王へ向かって飛んで行く。

周囲がドッとどよめいた。


「うそ!」


ブルーベルとミロイも慌てる。


「なに!?」


前に出ようとした幻妖斎《げんようさい》を、羅漢王が右手で制した。


矢はゆっくりと放物線を描き――


羅漢王の組んでいた右足のブーツに当たって下に落ちた。


矢は練習用の小枝で作ったものだった。


「あれは?」

羅漢王が前を向いたまま、後方に立つリオナに尋ねた。


「ネオフリーダムの盟主の娘です」


「レイジ殿のか」


「はい」リオナが頷いた。


羅漢王はゆっくりと立ち上がると、高価な絹織りの絨毯の上を、チルルに向かって歩きはじめた。

チルルの前に来ると腕を組み、上から怖い顔で睨みつけた。


「わしの不注意ですのじゃ。ご無礼を、どうぞお許しを」


パブロが膝をつき、頭を下げた。


――王に矢を向けた。子供でも、とても許される事ではなかった。

周囲は固唾を呑む。


しかし、チルルは立ったまま。

両手の拳をしっかりと握りしめ、下から羅漢王を睨み返していた。


「……あはははっ」


いきなり羅漢王の顔が綻び、笑い出した。


周囲の招待客からは、戸惑いの声があがる。


「まったく動じない。さすがレイジ殿の娘《こ》だ。肝が据わっておる」


羅漢王は、チルルを両手で抱き上げた。

チルルは不思議そうな顔で羅漢王を見ている。


そのまま玉座の方へ戻っていった。


パブロはもう腰が抜けていて、ブルーベルとミロイは、酸欠の金魚のように口をパクパクさせている。


羅漢王は、玉座に戻ると、大きな玉座の上に小さなチルルを乗せた。


「わたしの後は、そなたかもしれぬな」


そして、一歩後ろに下がると――


「いや、そなたがいい」


黒いマントを翻すと、片膝をついて頭を下げた。


「―――ええええええええっ!!!!」


招待客から、一斉にざわめきが湧いた。


だが、注目されているチルルは、ただキョトンとしている。


「おじさん」


チルルの声に、羅漢王が顔を上げた。


「それ、痛い?」


チルルが、羅漢王の額にかかっている前髪を、小さな指で寄せた。


そこには――星型の痣があった。


「いや、痛くはない」


羅漢王が優しく微笑んだ。

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