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アデン大戦記 ―今日も俺たちは死にかけている―  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第九章 いつだってアデンの空は蒼かった
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第3話

―――二週間後。


ニュルンベルグのアデン領、ブリザック城にて。

盟主・羅漢王ラカンオウと、ブレイヴディラーの盟主アルカンブーストとの間で、不戦条約が調印された。

その場には、ネオフリーダムも立会人として同席していた。


レイジは、七歳になった一人娘のチルルを連れてきていた。


調印式が無事に終わり、城内から出てきたレイジに、ハルトがメリサとリクトを連れて近づいてきた。


「盟主、今回の事は本当に……」


ハルトの言葉の途中で、レイジが手をあげた。


「終わったことはもういい。それより、身体の方はどうだ?」


「ええ、もうすっかり」


「そうか、良かった。それ、みんなが作った新しい鎧だろ?なかなか似合ってるな」


レイジがハルトの肩に手を置いたその時――


「盟主!」


元気を取り戻したルピタが、ニコニコ顔で走ってきた。

ハルトたちが頭を下げて立ち去ると、ルピタは小声で顔を寄せた。


「こないだは騙されたけど、今度は絶対に大丈夫っす。それで、グリフィンの羽が一枚必要なんすよ」


「不老不死か?」


レイジも、なぜか声を潜める。


「そうっす! でも、その洞窟の前に今度は、大きな鶏みたいな、トサカの赤いモンスターがいるんす」


「分かった、分かった。羽は、おれがなんとかしとく」


レイジが言うと、


「あざーす!」


ルピタがガッツポーズを作った。



そのころ――


謁見の間には、チルルを連れたパブロとブルーベル、ミロイの姿があった。

羅漢王は玉座に座し、微笑んでいた。


「その弓、どうしたの」


ブルーベルが、チルルの手にある、ごつい白と銀色の弓を指差した。


「ああ、デュランさんが貸してくれたみたい」


ミロイが言う。


「え、それ……ひょっとして――雷嵐らいらんの大弓!?」


ブルーベルが驚いた顔で聞いた。


ミロイが頷く。


「こんなもん、ここに持ってきて大丈夫なの……」


「ああ、デュランの話じゃと、この弓は普通の大人でも弦を引くことができんらしい」


と言うパブロに、ブルーベルが聞いた。


「誰にも引けないから、この場に持ってくることを許されたの?」


「いいえ。ぼくたちがネオフリーダムと知っていて、通してくれました」


と、ミロイが応える。



その時――


「爺、あいつ、強そうだから、やっちゃっていい?」


チルルが弓の弦を引いた。


―――引けた!?


「バ、バカっ!」


パブロが慌てて止めようとしたが遅かった。

チルルの放った矢が、羅漢王へ向かって飛んで行く。

周囲がドッとどよめいた。


「うそ!」


ブルーベルとミロイも慌てる。


「なに!?」


前に出ようとした幻妖斎げんようさいを、羅漢王が右手で制した。


矢はゆっくりと放物線を描き――


羅漢王の組んでいた右足のブーツに当たって下に落ちた。


矢は練習用の小枝で作ったものだった。


「あれは?」

羅漢王が前を向いたまま、後方に立つリオナに尋ねた。


「ネオフリーダムの盟主の娘です」


「レイジ殿のか」


「はい」リオナが頷いた。


羅漢王はゆっくりと立ち上がると、高価な絹織りの絨毯の上を、チルルに向かって歩きはじめた。

チルルの前に来ると腕を組み、上から怖い顔で睨みつけた。


「わしの不注意ですのじゃ。ご無礼を、どうぞお許しを」


パブロが膝をつき、頭を下げた。


――王に矢を向けた。子供でも、とても許される事ではなかった。

周囲は固唾を呑む。


しかし、チルルは立ったまま。

両手の拳をしっかりと握りしめ、下から羅漢王を睨み返していた。


「……あはははっ」


いきなり羅漢王の顔が綻び、笑い出した。


周囲の招待客からは、戸惑いの声があがる。


「まったく動じない。さすがレイジ殿のだ。肝が据わっておる」


羅漢王は、チルルを両手で抱き上げた。

チルルは不思議そうな顔で羅漢王を見ている。


そのまま玉座の方へ戻っていった。


パブロはもう腰が抜けていて、ブルーベルとミロイは、酸欠の金魚のように口をパクパクさせている。


羅漢王は、玉座に戻ると、大きな玉座の上に小さなチルルを乗せた。


「わたしの後は、そなたかもしれぬな」


そして、一歩後ろに下がると――


「いや、そなたがいい」


黒いマントを翻すと、片膝をついて頭を下げた。


「―――ええええええええっ!!!!」


招待客から、一斉にざわめきが湧いた。


だが、注目されているチルルは、ただキョトンとしている。


「おじさん」


チルルの声に、羅漢王が顔を上げた。


「それ、痛い?」


チルルが、羅漢王の額にかかっている前髪を、小さな指で寄せた。


そこには――星型の痣があった。


「いや、痛くはない」


羅漢王が優しく微笑んだ。

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