第6話
リオナが率いてきたニュルンベルグ兵と、幻妖斎の助けもあって、シエンたちは盗賊団プーランドソープのアジトを制圧した。
生き残った残党たちは手を縛られ、檻の中に入れられていた。
リオナは、シエンたちに自軍内に過ちがあったことを話し、これまでの非礼を謝罪した。
ロカボは足と腰に怪我を負ったが、自力で北塔の梯子を降りてきた。
ハルトは衰弱し、意識こそなかったものの命に別状はなかった。
「助かったよ」
ジンがリオナに顔を向けると、
「いえ、殆どはあなた方が……」
リオナは首を横に振った。
「姉さん、さすがです」
ハルトの様子を見て、戻って来たシエンに、ミロイが声を掛けた。
「心配させるなよ」と、シエンが微笑みながら、ミロイの胸をグーで軽く小突いた。
「おおおおっ」と、ミロイが大袈裟に後ろへよろけて見せた。
「そーだ、姉さん、誕生日いつでしたっけ」
「二月だ」
「じゃあ、まだまだかぁ」
ミロイが残念そうな顔をした。それを見ていたガリオンが、
「どうしたんじゃ」と、ミロイに声を掛けた。
「うちは、仲間の誕生日に装備を作って、プレゼントをするんだ」と、シエンの半分になった魔杖を指差した。
「それだったら、この斧を貰ったこともあるので、うちが何とかする」と、ジンが微笑んだ。ガリオンも頷く。
「いえ、それは我が軍にお任せを」と、横にいたリオナが、
「今までの事もありますので、是非に」と、シエンに頭を下げた。
ミロイが目をパチクリさせている。
シエンが、ジンとリオナを見て、
「ありがとう。でも、……わたしは二月まで待つことにするよ」と、微笑んだ。
「他のネオの人たちは、大丈夫かなぁ」と、ブルグが、ロカボの手当てが終わって歩いて来た。
「おそらく。いま龍神鬼将軍の方は、風華夢が止めに行っておりますので」と、リオナが応えた。
「レイジが、また龍神鬼を怒らせたりしてなければいいんだが」と、シエンが空を見上げた。
◇◇◇
―――と噂になっているレイジは、その頃、森の中を走っていた。
「ハッ、ハックション!」
森の中から、くしゃみが聞こえた。
龍神鬼は、両手剣を片手でクルクルと振り回しながら、ビクライの目前まで迫っていた。
数直線上の攻撃が、龍神鬼にいともたやすく破られた。
まさか戦闘中に自分の唯一の武器を投げ捨てるなど、ビクライもエルナも想像すらしていなかった。
ビクライに、逆転する術などはなかった。
しかし、それでもビクライは諦めず、喉が裂けそうな声で詠唱を続けた。
時間を稼げば、あわよくばエルナが復活してくれるのでは―――腹を括った。
――――――ビクライが136のダメージを与えた!
(龍神鬼の残HP1356)
ビクライの攻撃を受けながらも、龍神鬼はまったく怯まず、両手剣でビクライの頭部を叩きつけた。
「ぐギゃぁー!」
―――龍神鬼が492のダメージを与えた!
(ビクライの残HP618)
ビクライの額から血が噴き出した。
両者が装備している鎧の差ほどに、ビクライの劣勢は明らかだった。
そこへ―――。
森の中から、武器も持たず、残HP188で、元気に走ってくる懲りないやつが一人いた。
「うぉぉぉぉーぃ! おまたせぇーーーーー!」
と、レイジがビクライの方へ手を振りながら向かって来ていたが、
「えっ!? まさか……」
倒れているエルナを見つけて、方向を変えた。
少し離れて、ゾドム三体が追いかけてきている。
森へ向かったときに、レイジが感じた一抹の不安が目の前で具現化していた。
(おれが、戦いを許さなければ………)
レイジの顔から血の気が引いた。
レイジは、エルナの倒れている場所まで駆け寄り、跪いて、
「エルナ! エルナ!」
と、肩を揺すりながら叫んだ。
エルナがうっすらと目を開けた。
「あー、よかったぁ」
と、レイジが安堵の声を掛けると、エルナが、
「レイジ、あれを!」
指だけで、横にある斧を指した。
少し先に、龍神鬼の投げた大型斧が転がっていた。
「ぉわー、ま、マジか!」
レイジが立ち上がると、
「おっしゃぁぁぁ! これで完璧逆転! この最強武器なら、あいつでも削れる!」
と、力強く大斧を手に取った。
「よっしゃ、これで天下取るぜ! ……うん? ……んんん???」
「どーした?」
エルナが不安顔を向ける。
「あららぁ~、重くて持ち上がらない。うぉりゃぁぁぁぁ!!」
レイジがもう一度、力一杯に持ち上げてみた。
……が、大型斧は地面から、かすかに浮き上がると、また地面に落ちた。
「無理だわ」
レイジは、あっさりと最強武器を放棄した。
「はぁ……」
横でエルナが仰向けのまま、大きくため息をついた。
エルナは意識はあったが、細い左肩に大きな打撃を受けていて、自力で起き上がることはできなかった。
「うわ、ヤべぇ」
目の前に、ゾドムがきたのをみて、レイジは急いで走り出した。
「エルナ、すぐ戻るから、そこで待ってろ!」
今の状況下では万に一つもあり得ないレイジの言葉に、エルナはしっかりと頷いた。
「これが悲劇か喜劇か。どっちで終わるかは、おまえしだいだぁー!」
と、レイジは素手のまま龍神鬼へ向かって走り出した。
(アホか。素手で何ができるんだ。懲りずに同じことを……)
龍神鬼が走ってくるレイジに振り向きながら、
「おまえは、ただの小動物だ。叩く気はねぇーから、どっかで、その獣鬼に喰われてろ!」
と、大声で怒鳴った。
「えっ、えぇぇぇぇ、なんでぇ、なんでバレたぁぁ、おれにはもうこれしか無いのにぃぃぃ~!!」
レイジが大袈裟に焦っている。
「おれが殺るのは、こいつだけだぁ!」
龍神鬼が顔を戻すと、隙を見てビクライが後退した分だけ、大股で間を詰めてきた。




