第4話
カスウェル山の山頂に、盗賊団プーランドソープのアジトがあった。
その遊郭のような三階建ての建物の前に、二、三十体の死体が散乱していた。
「待てっ!」
魔法使いのベリネが、一階の正面口から飛び出そうとしたギースの鎧を掴んで引き止めた。
「おまえらが先に行け!」
ベリネが駆けつけてきた荒くれ兵たちに声をかけた。
「十人だ、十人! 裏口から出てきた奴らを殺れ!」
その場にいた兵士を十人に分け、後ろの者たちの突進も押しとどめた。
―――十人の兵士たちが外へ飛び出して行った。
……だが、何も起きない。
その時、首領ゴリアテルが駆けつけてきた。
「頭、どうやら二発が限界です」
ベリネが顔を向けて言う。最強の範囲魔法のMP消費は莫大だった。
「そうか。じゃあ、次で決めるぞ」
ゴリアテルが頷く。
ベリネが、手下を十人ずつに分けて、外へ二度飛び出させた。―――案の定、二発の最強魔法が轟き、建物が大きく揺れた。
「おれが魔導士を殺る。おまえらは裏口にいる四人を殺せ!」
ゴリアテルを先頭に、ギース、ベリネ、そして双子のザクとテルが外へ飛び出した。
……攻撃魔法は、降ってこなかった。
ジンたちは、衰弱しているハルトを物陰に座らせると、裏口から追ってきたプーランドソープの敵兵に向かって行った。
そこへギースたちが、十数人の兵を伴って走ってきた。
「おまえら、ネオフリーダムだな」
熊皮を羽織った長身のギースが、右手で鎖鎌をクルクルと回しながら言った。
「生かしては帰さないよ!」
黒いローブ姿の女魔導士・ベリネが、攻撃魔法を詠唱し始めた。
その時。
ベリネの背に一本の矢が飛んできた。
しかしギースが鎖鎌で弾き落とす。
振り返ると、北塔の上に弓を持つ男が見えた。
ベリネがそこへ魔法を放つ。
―――ズザシャーン!
北塔の上に落雷が炸裂し、屋根が崩れ落ちる。
その瓦礫の下敷きになり、ロカボは気を失った。
「ロカボ!」
ジンが声を上げた。
「おまえからだ!」
副将ギースが老戦士ガリオンに向かって突進した。
鎖鎌の鎖を伸ばし、自分を中心に頭上でグルングルンと回す。
背の低い双子のザクとテルは、両手に短剣を握りしめ、長身のジンへ向かって行く。
それを見たドワーフのブルグが、大鎚を手にジンの方へ走る。
だが、そこにベリネの魔法が飛ぶ。
―――ガクゥゥゥ~ン!
ブルグの身体が沈み込んだ。
周囲の重力が十倍に跳ね上がる。
ベリネがさらに魔法を重ねた。
―――ズズゥゥゥーン! 二十倍。
ブルグの靴底が地面にめり込む。
「どこへ行くんだい? おまえの相手はわたしだよ」
ベリネがブルグを見て微笑んだ。
「きゃぁぁー!」
その時、建物の前にある檻の中から悲鳴が上がった。
「なんでおまえら立って、頭を抱えてんだよ」
ゴリアテルの太い声が響く。
檻の中央で、拉致された村人たちの中にいるシエンが身を竦めた。
「普通、頭隠すなら座るだろ。なにを隠してんだぁ!」
ゴリアテルが剣を振るう。
傍らの四、五人が背や肩を斬られ、人垣が割れた。
その中にいたシエンが、
「みんな端に下がってて!」と立ち上がる。
「おまえかぁ」
いきなりゴリアテルが斬りかかってきた。
―――シュリィィン!
シエンは咄嗟に長い魔杖で防ぐ。
だが杖の中央付近で、真っ二つに斜めに斬り落とされた。
(これで……もう、魔法威力を高めることが出来ない――)
シエンは、眉根を寄せた。
◇◇◇
―――三十分前。
北塔にいた敵の弓兵を、ロカボが弓矢で倒すと、四人は山頂から急な斜面を綱を伝って下りてきた。
下へ降りると、アジトの建物の前に大きな檻があり、その中に拉致された村人たちが閉じ込められていた。
門兵を倒し、シエンとジンが檻の中へ入ると、村人たちが助けを求めてきた。
(家族が待つ村に帰りたい)……と。
シエンは助けることを約束し、協力を求めた。
さらに、他に拉致されている者がいないかを聞くと、
「裏口を入った先の部屋に男一人が閉じ込められていて、何度か食べ物を運んだ」と聞いた。
それを聞き、ロカボは北塔の上へ上がり、ジンたち三人は裏口へ回った。
(ここからなら、魔法が打てる)
シエンは檻の中央で、村人たちに人垣を作ってもらい、その中に身を隠した。




