第3話
エルナとビクライは、龍神鬼を中心に左右へ分かれて動き出した。
『いつものやつ』――二人の最強のペア戦術だ。
敵を中央に据え、両端から交互に攻撃を仕掛ける。片方が攻撃すれば敵はそちらへ向かう。逆側はその隙に休息し、また攻撃。
この繰り返しで、敵を削り倒す。
並のモンスターならば、この戦法で無傷のまま仕留めてきた。
――だが、相手は龍神鬼だ。通用する保証は、どこにもなかった。
「いくよ!」
エルナの声に、ビクライが魔法を連呼した。が、龍神鬼には、スリープもスローも効かない。
(……これはレベル差なのか?)
龍神鬼は、先に回復魔法を使うビクライを倒しに向かった。
先ほどの戦いから、いくら削っても、ヒーラーが回復してしまうので、ファイター系が苦戦するということを学んでいた。
ビクライは後退しつつ、距離を保つ。
エルナは逆に詰め、龍神鬼の背を狙って詠唱に入った。
だが――龍神鬼の歩幅は想定以上に広い。
瞬く間にビクライの目前に迫る。
(……まずい)
ビクライは焦りつつも、魔法耐性を下げるデバフだけは成功させた。
唯一、龍神鬼に通じた魔法だった。
魔法職の者は、重量のあるものを装備することができないので軽鎧になる。
そのため、打撃などの直接攻撃に対しては脆かった。
「死ねやぁぁぁ~!」
龍神鬼がビクライに向けて、大型斧を振り上げた。
その背後で、エルナが、冷静に魔法を唱えた。―――二人は、緊迫した状況には慣れている。
「ブシュルルゥ~ン!」
エルナの単一相手への最強攻撃魔法『グランド・シングス・デスタンス』が、龍神鬼の背中に直撃した!!―――戦いの始まりである。
【エルナが412ダメージを与えた!】
「なっ、なにぃ!?」
龍神鬼が背後を振り返る――だがエルナとの距離がある。すぐには届かない。
その隙に、二発目が放たれる。
「ブシュルルゥ~ン!」
【426ダメージ!】
(効いてる!)
ビクライは確信した。
エルナの火力と自分のデバフの相乗効果が機能している。
あと三、四発――いける!
「二発で800、これなら行ける!」
エルナは、龍神鬼との距離を見て勝利を確信した。
単一相手へ攻撃魔法は、範囲魔法よりもMP消費は少ない。
エルナが三発目の魔法を唱える。―――これで、あと三発!
「させるかぁ!!」
龍神鬼が咆哮とともに、斧をビクライへ横薙ぎに振る。
ビクライは紙一重でかわす。
だが――龍神鬼の動きは止まらなかった。
そのまま体を回転させ、大きな螺旋を描きながら、斧を――エルナへ向けて投擲した。
(まずい!!)
ビクライが叫ぶ。
詠唱中だったエルナは、飛来する斧に気づき、詠唱を中断。
逃げようとするが――斧のほうが速い。
(間に合わない!)
咄嗟に左肩を前へ突き出す。
「ガツッッーーーン!!」
凄まじい衝撃。
エルナの左肩に斧が直撃。
血飛沫が舞い、エルナは仰向けに吹き飛ばされた。
――龍神鬼がブリザック城攻めで、『漆黒の魔法使い』ガイヤールを仕留めた、あの一撃だった。
「エルナっ!!」
ビクライが叫ぶ。
だがエルナは、動かない。
龍神鬼は遠くに飛んだ斧を追うことなく、近くに転がっていたレイジの両手剣を拾い上げた。
「次は――おまえだぁぁぁ!!」
凄絶な形相で、ビクライへ迫る。
(エルナを助けに行くか、逃げるか――)
迷いがビクライを縛った。
攻撃魔法は効かない。他の魔法も通じない。
レイジは森の中へ消え、頼みのエルナは、仰向けで失神している。
(万事休す――!!)




