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第2話

日中は敵意剥き出しだった太陽が、空を赤く染め、黄昏山地の向こうへ静かに沈もうとしていた。


龍神鬼リュウジンキは、二体のゾドムの鉤爪に削られ、全身から鮮血を吹き出している。


「うっ、嘘だろ!」

「あいつ、不死身なのか!」


誰もが、もはや常識の限界を超えた光景を目の当たりにしていた。


「くそがっ……!」

龍神鬼は足元のゾドムの顔に唾を吐き捨てた。

そのまま倒れた兵たちの亡骸へ歩み寄り、鎧の懐に手を突っ込んだ。

死体をひとつひとつ漁っていく。


「――あった」


掴んだ回復ポーションを一気に飲み干す。

【HP+1000 回復】


本来、戦場に回復ポーションを持ち込むことは、龍神鬼にとって恥だった。

その強さゆえ、いままで必要になる場面はなかった。


だが――今日は違った。

この事実こそが、龍神鬼のプライドを深く傷つけていた。


「は~ぁ……」

レイジが大きく息を吐いた。

今回ばかりは想定外の連続に、さすがのレイジも焦りが滲んでいた。


岩陰から龍神鬼の様子を窺うエルナとビクライ。

ビクライのMPはもうすぐ回復する。

だが龍神鬼が、自分のHPを回復したら、この丘へ向かって来ることは分かっていた。


「こりゃ、もう逃げるしかねぇな」

レイジが立ち上がりかけた、その腕をエルナが掴む。


「レイジ、ちょっと待って!」


「ん?」

「わたしたち、まだあいつと戦ってない」


「は? 何が言いたい」


「わたしたちに、やらせてほしい。あいつを」


「どうしたんだよ?」


「バニラが殺られて、ルピタも……。もう、いい加減、頭にきてんのよ!」

エルナの気性の激しさが、拳の震えに現れていた。エルナの気性は、シエンにも匹敵する。


「何言ってんだよ! あれ見ただろ。勝てるわけねーだろ!」

レイジがゾドムの死骸を指差す。


「分かってないな」

「ん?」


ビクライが静かに顔を向けた。


「いま逃げれば、次はあいつが数百の兵を引き連れて、俺たちの拠点を襲うだろう。そうなったら、友好クランまで巻き込んで大惨事になる。けど――いま、あいつは一人なんだよ」


「レイジ、やらせてよ。わたしたちに」

エルナも続けた。


わ《・》れ《・》な《・》い《・》ん《・》だ《・》よ!俺たちはこのままじゃ」


普段は冷静なビクライの声に、本気の熱がこもっていた。


(あんなのを見せられたのに、なんでこいつらは、心が折れてないんだ!?)―――レイジは不思議に思った。


(甘く見んなよ!)―――と、パルの声が、頭の中で聞こえた。


レイジは一瞬考え――半ば諦めたように息を吐いた。


「分かった。……でも、死ぬなよ」


二人の目を順に見つめる。

二人も真っ直ぐに頷き返した。


「おれが戻ってくるまで、絶対に死ぬなよ!」


そう言い残すと、レイジは武器も持たずゾドムの森へと走り出した。


「戻るって? ええっ? ……あっ、レイジ、ヒール、ヒール!」

ビクライの声が届くより早く、レイジは姿を消していた。


数秒後、森の奥から。


「ぅわ~っ! ヒールもらうの忘れたぁぁぁぁ~っ!!」


レイジの悲鳴が響き渡る。

【レイジ残HP:188】


――――


ビクライはMPを完全に回復すると、エルナに回復と防御バフをかけ、自分のHPも全快にした。


「いくか」

「ああ。いつものやつで!」

二人は頷き合い、岩陰から飛び出す。


そのころ、龍神鬼は二つ目のポーションを手にしていた。

正直、こんなことならヒーラーを連れてくるべきだった。

まさかネオフリーダムごときに、ここまで苦戦するとは――甘かった。

いや、甘かったというよりは、レイジが『まともな行動予測のできないやつ』ということを、知らなかったと言う方が近かった。


「はぁ!? ……どうした、おれに殺されにきたのか」

HPが【2330】まで戻った龍神鬼は、唸るような声で睨みつけた。


「今、おれは、おまえらの盟主のせいで、ひっじょーに不機嫌だ!」

龍神鬼が二人を上から睨みつけた。


「それで?」

エルナが微笑み、


「だから何だって言うんだ!」

ビクライが睨み返した。


「虫けらどもが、そんな口を……盟主が盟主なら――」


「でかい口ばっか、叩いてんじゃないよっ!!!」

エルナが割り込み、鋭く言い放った。


――いまや、かつて誰もが恐れひれ伏してきたニュルンベルグ最強の龍神鬼を前に、この二人はまったく怯んでなどいなかった。


(……ネオフリーダムにはどうも、アホが多いらしいな)

龍神鬼は心の中で毒づいた。

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