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第1話

キラキラと白銀に輝く大弓を背負い、蒼みがかった長髪をなびかせる男が、ネオフリーダムのアジト前で馬を降りた。


「デュランさん!」


背後から声がかかる。振り返ると、サザーランドのアーチャー・シュウが駆け寄ってきた。


「皆、出かけていて、今は誰もいません」

シュウはジンの命を受けて周囲を見回っていた。その手間を省くように、親切に続ける。


「そうそう、チルルなら、うちで預かってます」

と、サザーランドのアジトの方を指差した。


「ありがとう」

デュランはやわらかく微笑み、馬をアジト内につなぐと、静かに隣のアジトへ歩き出した。


「……あの、おれも一緒にいいですか」

少し緊張した様子で、シュウが一歩後ろからついてくる。


「どうぞ」

涼やかな声で応じるデュラン。


(なんでこんな、画面から出てきたような人が現実にいるんだよ……)


シュウは赤面しながら、一歩後ろを歩く。だが、その顔が間近で振り返った瞬間――


「どうかしましたか?」


その整った顔立ちに見つめられ、シュウはパニック寸前だった。


「い、いえ……っ!」

男でありながら、頬を赤らめ、手を顔の前で振るシュウ。


『雷嵐の貴公子』――美と強さと優しさを兼ね備えたデュランは、弓職の間で神にも等しい存在だった。


首を傾げると、彼はふたたび歩き出す。





そしてサザーランドのアジト前――


「ぅわ!デュラン!」

サザーランドのアジトに着くと、さっそく気が付いたチルルが走って来た。

その声を聞いた、周りにいる若い女性たちも、ザワつきながら集まって来た。


「がぶっ!」と、チルルがデュランの細長い足にタックル!


「おわっ」

デュランは、わざとらしく大げさに転けるフリ。


そのまま彼は、チルルを軽々と両手で抱き上げ、自分と同じ目線まで持ち上げると――


「ただいま」


微笑んだ。その笑みに、周囲の女性たちからため息が漏れる。


「おかえり〜!」


チルルはデュランの顔を両手で引っ張り、自分の頬をすり寄せる。

「いゃあ〜」と、取り巻きの女性たちが小さく叫びを上げた。デュランは、チルルにとっても憧れの王子様だった。


「パパは?」

「知らな〜い」


「じゃあ、他の人たちは?」

「えーと、パルたちは、グルーディオに行くって言ってたよ」


デュランはチルルをそっと降ろすと、ポーチから何かを取り出し、差し出した。


「はい、お土産」

「これなぁに?」


チルルが掌の上の、干からびた魚のような物体を見つめる。


「燻製っていう外来品らしいよ。体にいいって聞いた」


「くんせい……?」と口に運んだ次の瞬間――


「にがぁ〜!」


すぐに吐き出し、舌を出して『ぺっぺっ』と顔をしかめるチルル。


「あはははっ……」


デュランが朗らかに笑う。取り巻きの女性たちはもう、魂が抜けたように、ただその姿に見惚れるだけだった。



◇◇◇


―――アデン領・黄昏山地にて。


…………一時間の激闘。

ビクライとエルナは、ニュルンベルグ兵と交戦していた。

獣の引き狩りで鍛えた俊足を活かし、常に動きながらの戦法。


ビクライがスリープとスローで敵の足を奪い、攻防力を削ぐ。その隙にエルナが高火力魔法を叩き込む――

息の合った連携で最強の龍神鬼兵にすら互角以上の戦いを演じていた。


だが、敵の数は多い。ここまで倒せたのは三人のみ。



その頃――レイジはというと。

龍神鬼との無謀なタイマン。


叩く、叩かれる、回復ポーションを飲む。HPが回復したら、また叩く。


―――龍神鬼が328のダメージを与えた!

   ―――レイジが18のダメージを与えた!


―――龍神鬼が333のダメージを与えた!

   ―――レイジが18のダメージを与えた!


―――龍神鬼が315のダメージを与えた!

   ―――レイジが18のダメージを与えた!


数値がすべてを物語っていた。



「ガツーン!」龍神鬼の容赦のない攻撃が、レイジに当たった。

―――龍神鬼が322のダメージを与えた!


残HP(体力)454。レイジが大きくよろけた。


「う、ヤベぇ!」

三十個あった回復ポーションも、あと残り一つになっていた。

レイジは、龍神鬼に背を向けると逃げ出した。

ビクライとエルナの脇をすごい勢いで走り抜けた。逃げ足は速い!


「レイジ!」

エルナが逃げて行くレイジに気がつくと、ビクライに目配せをした。

レイジが手薄になっている敵兵に向かって行く。それに気が付いた敵兵が、槍を持ってレイジを追いかけようとした。そこへビクライが範囲魔法を唱えた。

―――一瞬で、追いかける敵兵の動きがスローになった。


レイジが、動作のノロい敵兵をうまく躱わして、ゾドムの森へ走っていくのが見えた。が、そこには………。


「レイジ、分かっているよね?」

逃げていくレイジの背を見ながら、エルナがポツリといった。


「無理じゃね」ビクライが首を振る。


二人は、レイジが龍神鬼にやられる前に、自らモンスターに飛び込んで、逝くこと(瀕死)を狙っているのではないかと、一抹の不安があった。


(……それ、完全に死ぬから)二人は頭を振った。

モンスターだけの攻撃なら、死なないが、人に傷つけられた状態でモンスターにやられると、『死』になる。


そんな不安なレイジを、さらに敵兵が追いかけようとした時に、

「追うな!まずはそこの二人からだ!」と、龍神鬼の声が響いた。


範囲魔法は、MPを著しく消費する。レイジの急場凌ぎとはいえ、ビクライの計算外のMP消費は、二人のリズムを大きく崩すことになった。

二人ともMPが底を付きかけていた。さらに、相手(カモ)を失った龍神鬼まで、二人へ向かって歩いてきている。


レイジが助けを呼んで戻ってくるにも、ネオフリーダムの拠点は離れ過ぎていた。…………二人は、はじめて、本当の死を覚悟した。


「レイジ、――生き残れよ」

それが、エルナとビクライが犬死にならない、一縷の望みでもあった。

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