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第4話

シェヴェリーン城の居館パラスへ戻りかけていた沙羅夜サラヤが、急に足を止めた。


―――ミロイ殿のいるネオフリーダムが、本当に罪もない村を焼き払ったのか。

―――敵城にたった一人で乗り込み、二人の将を倒して潔く散ったライザ。

―――彼らから感じるものは、どうしても卑劣や残虐とはかけ離れていた。


(だが、知雀明チジャクミョウはそう言っていた。……どういうことだ?)


沙羅夜の中で、何かが深く引っかかっていた。


湾曲した石の天井を見上げながら、大きく息を吐いた沙羅夜は、ふっと自嘲気味に笑った。


「あたいには、……やっぱり願い下げだねぇ~」


そして踵を返すと、躊躇なく地下の牢獄へと走り出した。



◇◇◇



<<アデン領・黄昏山地にて>>


整然とした布陣を敷くニュルンベルグ兵たちの中から、ひときわ巨大で異質な威圧感を纏った男が、ゆっくりと三人の前へ歩み出てくる。


「おまえが、レイジか?」


「いえ、レイジはこっち、こっち」


レイジが隣のビクライを指差すと、ビクライが「おい」と低く睨み返した。



「おまえだな」


巨漢の男が、今度は確信をもってレイジを睨む。


「えー、なんで分かっちゃうのぉ」と惚けるレイジ。だがその声音に笑いはない。



「おれは、ニュルンベルグの龍神鬼リュウジンキだ。おまえに個人的な恨みはないが――ここでおまえの人生を終えてもらう」


「はぁ~……ここは絶対、はぁ~でしょ。なぁ、ビク、ここ絶対に――」


「レイジ! ふざけている場合じゃないぞ!」


ビクライの静かな怒声に、レイジは仕方なく真顔を作り、龍神鬼に向き直った。


「おまえの虚仮威こけおどしにビビるとでも思ってんのか? おまえ今、いい大人に向かって、ずいぶん失礼なこと言ってんだぞ!」


「おれにそんな口を利いたのは、おまえが初めてだ。……おまえ、自分の限界を知っているのか」


その声は、ゆっくりで、地を震わすような重みがあった。兵たちすら言葉を失い、風が静まる。


「なんで限界なんか知らなきゃなんねぇんだよ。要は――おまえに勝ちゃいいんだろ」


「……あんまりおれを怒らせるなよ。おれの中の狂気が目を覚ましたら、誰にも止められなくなるんでな」


「知ってる!知ってる! おまえ、《《ぜいたく》》なんだろ!」


清濁せいだくだ、レイジ……」と、ビクライがボソリと訂正した。


圧倒的な威圧感を前にしてもなお、レイジはまったく動じていない。

(どこまでもアホなのか?)―――エルナとビクライは困惑した表情で、顔を見合わせた。



「じゃあさ、謝ったら許してくれるか?」


「ふざけるな!!」


龍神鬼の顔が凄絶な怒りで歪む。我慢の限界は、とうに超えていた。


「おれは、母ちゃんから言われたんだ。“頑張るときにはちゃんと頑張れる大人になれ”って。……おまえの母ちゃんは、なんか言ってなかったか?」


「……すぐ終わらせる」


「おまえ、なんも分かってねぇな。おれが絶望したり、諦めたりしねぇ限り、何も終わんねぇんだよッ!!」


レイジの叫びに、もう龍神鬼は返す気は無かった。


代わりに、彼はゆっくりと背中の大斧を両手に構えた。


レイジは、その瞬間、腰のポーチから金色の瓶――最上級攻撃力強化ポーションを取り出し、一気に飲み干した。


『ピキ――ン!!』


身体が青白い光を放ち、一瞬で力が漲る。


「レ、レイジ、それって……10メガもするやつ!?」


「おう、最上級のゴールドポーションだ!」


誇らしげに笑うレイジに、エルナとビクライは揃って頭を抱えた。


(それ……おれたちの一週間分の稼ぎなんだが!?)


攻撃力を数倍上げるそのポーションは、かなりの高額アイテム。当然ながら、レイジはその価値を知らず、クラン倉庫からこっそり持ち出していた。


「ビク、おれが龍神鬼を引きつける。おまえらは後ろの兵を頼む。どこか手薄なとこ見つけたら逃げろ。一人でもいい、生き延びろ」


振り返りざま、レイジは二人の背後――ゾドムの森のほうを顎で示した。

そこは、稀に叩かなくても襲ってくる獣鬼ゾドムたちの巣窟だった。


逃げ場の先すら絶望的。二人にとっては、今の方が、さっきレイジの言っていた「はぁ~(汗)」そのものだった。


そして何より――


レイジは、クラン内でルピタを除けば、最もレベルが低いのだ。


「おれが殺るって、レイジふざけて……」


ビクライの言葉をさえぎるように、


「うぉりゃゃゃぁぁ~~!!」


咆哮とともに、レイジが両手剣を振り上げ、龍神鬼へと突っ込んだ!


風を裂き、足の筋肉が悲鳴を上げるほどの踏み込みで、一閃を放った。

……渾身の、全身全霊の、魂の斬撃だった。



――ガギィィィン!!


鋼を叩く軽い音が響いた。

斬撃は、龍神鬼の胸を直撃した――!


「当たったのか!? マジか……!」


「なにぃ!?」


周囲の兵士たちがどよめいた。

ビクライが目を見開き、エルナが思わず一歩踏み出す。


「……やったのか……?」


――その瞬間、誰もが戦場ログを見た。


===================================

<システムメッセージ>


レイジが、







     …………










       18のダメージを与えました!

===================================


「……………………え?」


凍りつく空気。

エルナの喉が小さく鳴り、ビクライの指先が震えていた。

誰もが、言葉を失った。


そして――


「……あはははははっ!!!」


轟くような笑い声が、黄昏山地を揺るがす。


龍神鬼――最大HP3100。

レイジの渾身の一撃で、たったの18ダメージ。



彼は、まるで相手にしていないかのように、わざと攻撃を受けたのだ。


レイジの両手はしびれ、握った剣すら落としそうになっていた。

(もしダメージ反動ありなら、こっちが即死してた……)


―――

龍神鬼:Lv.92/オークファイター/最大HP:3100

レイジ:Lv.57/ヒューマンファイター/最大HP:1800

―――


「……これでは冗談にもならんわ」


龍神鬼の静かなひと言が、この戦いのすべてを物語っていた。

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