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第6話

ネオフリーダムがクラン内から死者を出すのは、これが初めてだった。


バニラの葬儀には、グルーディオを拠点とする友好クランがすべて駆けつけてきた。参列した多くの者が見守る中、パルやセシリアたちがバニラを手厚く葬った。ラズベリーが一房、バニラの胸に添えられていた。潰れかけのグリンアップルも一緒だった。


しかし、レイジは葬儀に姿を見せなかった。


彼女をクランに誘ったのは自分だった。

今回の件に、もしニュルンベルグの知雀明チジャクミョウが関わっているとしたら、自分が彼を殺さなかった甘さが、遠因になっているかもしれない――そう思わずにはいられなかった。


全ての責任が、自分にある。


レイジは街の酒場に入り浸っていた。

「おまえが、守るんじゃなかったのかよ……」

酒瓶の中に、彼女の笑顔が浮かんでは消えていく。


酒で心を麻痺させ、酔った勢いで武器も持たずにゾドムに挑みかかる。

もちろん敵うはずもなく、満身創痍で倒れて、逝ったまま街へ戻り、再び酒を煽る――その繰り返しだった。



葬儀が終わったその夜。

セシリアは一人私室で、二日前の出来事を思い出していた。


夕食後、レイジに誘われて、二人で狩場へ出た。

クラハン後もレイジは、一人でレベル上げをすることがあった。レイジと二人の狩りは久しぶりだった。


「レイジ、最近レベル上げ、すごく頑張ってるよね?」


セシリアがMP回復のために腰を下ろす。


「ああ。守ってやる奴ができたからな」


レイジは歩いてきて、彼女の隣に腰を下ろした。


「……バニラ?」


「ああ。ドジですぐにパニクるところなんか、おまえにちょっと似てるよな」


そう言われて、セシリアは少し複雑な表情を浮かべた。


「今日は、星がきれいだな」


「うん。レイジと二人で狩りをするの、久しぶりだね」

「だな。昔はしょっちゅう一緒に狩ってたのにな」


「思い出すね、……昔のこと」


セシリアも空を見上げた。ちょうどそのとき、星が一つ流れた。


「ああ、みんな弱っちくって……」


レイジが顔を向けると、セシリアは目を閉じて何かを願っていた。


「え?……うん」


「……あの頃は、毎日震えながら狩りしてたな」


「それはレイジが、モンスター大量に釣ってきて、無茶するからでしょ。真っ赤なリザードマンの大群を連れて来た時は、本当に怖かったんだから」


「そんなこともあったな」


レイジが笑う。セシリアも、微笑む。


「まだ誰も蘇生魔法リザも使えなかったし、復活ポーションも高くて買えなかった。……全滅してさ、それでもみんなでゲラゲラ笑いながら、逝ったままで村に戻ってた。懐かしいよね」


「そうだな。大地にひっくり返って、青い空を見ながら、俺たちよりも強かった魔物やつらに、アハハハってみんなで大笑いしてたな」


レイジは夜空を見上げた。


「……あの頃と、この空は、ちっとも変わってないな」


「逝くと経験値が減って、死ぬほど痛いのに、誰も愚痴や不満とかも言わないで、みんなが自然に、みんなの事を思っていた。そんな押し付けない、さりげない優しさが溢れていたよね」


「まあ、今もそうだけどな」


レイジの言葉に、セシリアが小さく頷く。


「変わってないよね……」


しばらく見上げていたセシリアの頬に、そっと一筋、涙が流れた。


「どうした?」


「きっと……あの星の一つひとつに、……誰かの願いが張り付いている。……それが叶ったのかなって思うと、なんだか少し切なくなって」


「……そうだな」レイジも空を見上げた。


「元気出せよ。……セシリア、そろそろバフ頼むわ」


レイジが立ち上がろうとする。


「今度ね」


セシリアが微笑む。


「アホぉ、今度じゃねぇ~よ。今だ、今!」


「だって、もう少しこうして……レイジとまったりしてたいんだもん」


――それが、たった二日前の出来事だったとは、とても思えなかった。


昨日、バニラが殺され、たった一日で、世界の景色はすっかり変わってしまったのだから。



◇◇◇


ナイアガラ・タカは、巨大な長槍を構えて、にやりと笑った。


「ナイアガラ・ブラザーズ!……最後まで言わせろやあああっ!!」


弟のトシが鉄球付きの鎖を、ブルンブルンと頭上で回し始める。


ライザは、冷ややかな眼差しで、二人の巨漢を見上げていた。


「死ねやぁぁぁぁぁー!」


トシが力任せに鉄球を投げつけてくる。


「グッツン!」


ライザは大斧を振り上げて叩き落とす。


鉄球は地面に叩きつけられた瞬間、真っ二つに砕け散った。


「チクっとなぁぁぁー!」


タカがライザの顔面を目がけて、長槍を突き立ててくる。


「クッキーン!」


ライザは斧を横から弾き飛ばした。――槍の柄が折れた。


槍頭はクルクルと回転しながら地面に突き刺さり、次の瞬間――


二人の首が宙を舞った。


「喧しい」


ロンズデーライトの大斧は、刃こぼれ一つしていなかった。



――五分後。


ライザの斧の刃が、生き残ったリーダー格の男の首元に突きつけられていた。


「おまえは、どこの盗賊団だ?」


「……」


「わたしは気が短い。一度しか聞かない。誰の指図だ」


男の頭は割れ、血が顔半分を覆っていた。片目は開かず、右目だけでライザを睨み返す。


「……知らねぇなァ」


「そうか」


ライザは斧を下ろすと、男を後ろに押しやった。


背を向け、斧を前に突き出す。身体を左回転させて砲丸投げの要領で斧を放ち――


男の首が宙を飛び、血飛沫とともに胴が崩れ落ちた。


その瞬間――


「ハルト!?」


胸騒ぎがした。ライザは来た道を、無我夢中で走り出していた。

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