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第6話

――――満足げな表情で、レイジは立っていた。

仲間たちが見せた、予想以上の粘りと奮闘。魔物の群れを全員で乗り越えたその姿に、盟主としてというよりも、一人の仲間として、心から誇らしさを感じていた。


そんなレイジに向かって、ブルーベルが手のひらを上下に動かし、こちらに来るようにと合図を送っていた。


彼は嬉しそうにうなずきながら、のそりと近づいた。


「ところで、レイジくん」


ブルーベルが意地悪な笑みを浮かべる。


「君って、あんなに弱いのに……どうして死なないの?」


「……へ?」


レイジがキョトンとした顔で首をかしげる。


「君は一体、ポーションを何本持ってるのかな?」


と、シエンが意味深な笑みを浮かべながら問いかける。


「兄やん、クラハンに持ってこられるポーションは、二本までって決めたよね?」


ミロイがじと目で睨みつける。


「それ、自分で作ったルールだよね」


と、パルが冷静に言い放った。


「レイジ、さっき岩陰でこっそりゴクゴク飲んでたよね?」


セシリアが近寄ってきて、レイジの腰のポーチをぐいっと引っ張る。


「お、おわっ!?」


勢いで道具袋が傾き、中から大量の回復ポーションがゴロゴロと地面に転げ出た。

盟主であるレイジは、クラン倉庫の出し入れが自由にできるのだ。


「おやおやぁ? ここはどこだ? 私は誰だ?」


とぼけるレイジ。

次の瞬間、全員から素手のグーパンが集中砲火のように叩き込まれた。バニラはその様子を見て、こらえきれずに吹き出した。

そして今日も、最後には鼻血を出して、レイジは地面に大の字で転がっていた。





その日の夕方――。


バニラは世話係のパブロに頼まれて、アジト近くの山へ果物を採りに出ていた。

緩やかな斜面を登っていくと、小さな猫と、それにじゃれつかれている一人の男の姿が目に入る。


「かわいいですね。その猫、あなたの飼い猫ですか?」


声をかけると、男はゆっくりと答えた。


「……飼っている、というより。生き物はみな、自分の義に従って生きています。その運命を、人が定めるべきではありません。この猫は、ただ私のそばにいることを選んでいる――それだけです」


穏やかな声と白銀の長髪、端整な横顔が、山の静けさによく馴染んでいた。


「じゃあ、この子の名前は?」


「ふふ。残念ながら、私は猫語が分かりません。だから、こいつは――“猫”です」


「えぇっ!? 名前も決めないなんて……」


驚きながらも、どこか優しさを感じさせる独特な考え方に、バニラは思わず微笑んだ。


「じゃあ、あなたのお名前は?」


「わたしは……風華夢(フーカム)と申します」


その名を聞いた瞬間、山の風が一瞬止んだ気がした。――風華夢。

血盟ニュルンベルグの四天王。東部将軍として恐れられる、名うての剣士。


「このあたりは初めてで、知り合いもいません。もしよければ、少し案内をお願いしてもよいでしょうか?」


「わたしも来たばかりで、あまり詳しくはないんですけど……それでもよければ!」


バニラがにこりと笑って歩み寄る。彼女の目には、風華夢の装備が軽装に見えたため、そこまでレベルは高くないと感じていた。


「よかったら、今度クラハンにも来てみませんか? みんな優しくて温かい人たちですよ。……盟主だけはちょっと、自由すぎますけど」


「……自由、ですか。その盟主とは、どんな人物です?」


「わたしも最近入ったばかりなので詳しくは……でも、聞いた話では――

とにかく仕事嫌いで、一番弱いのに仲間を“ヘナチョコ”呼ばわりして、暴言は吐くし空気は読まないし、バーカって……」


「あははは、なかなかの問題人物ですね。それは立派な……役立たずだ」

風華夢が小さく笑う。


「ですよね。でも、なんだかんだで、みんなそんな彼を信頼してるんですよ。不思議ですけど」


「なるほど。あなたの話を聞いていると、その人物に会ってみたくなりますね。して、その方のお名前は?」


「ネオフリーダムの盟主、レイジさんです!」


その瞬間――風華夢の表情がすっと凍りついた。


(……レイジ……)


「? どうかしましたか?」


「……いえ、なんでもありません」


そう言って、風華夢は静かに目を伏せる。

(まさか、このクランが……我が軍師の報告にあった、“罪も無き村を焼いた血盟”だというのか?)

胸の奥で、何かが引っかかっていた。

優しく微笑むバニラと、語られる“最悪の盟主”。矛盾した像が、風華夢の心を、確かに揺らしていた。

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