表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/54

第5話

翌日、最後の魔物を倒し終えると、パルは右手を高く上げて声を張り上げた。


「休憩、入るよー!」


本日三度目の休憩タイムだった。全員のHPとMPはすでに空に近く、膝をついた者たちは肩で息をしながら、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。MPとスタミナは休憩すれば自然回復するが、HPはそうもいかない。

クランハント(クラハン)中のポーション支給には制限があり、回復の手段はセシリアとビクライのヒーリング魔法に頼るしかなかった。そのセシリアのMPも、すでに底をついている。


「やったァ~……はぁ、はぁ……今日は、誰も逝ってませんねっ!」


泥まみれの顔のまま、バニラは息を切らしながらも明るい声を上げた。

その様子に、シエンはどこか意味深な微笑みを浮かべた。


「ねえ、シエンさん。今日はどうして盾と剣なんですか?」


ふと気づいたバニラが、シエンの装備に目を向け、首をかしげる。周囲を見渡せば、魔法職の者たちもみな、杖ではなく、盾や剣、あるいは双剣を手にしていた。


「そのうち、わかるよ」


パルが、短剣を両手に構えながら答える。


「兄やんの狩りはね、後衛も自分の身は自分で守るしかないんだ」


ミロイが頷きながら補足する。


「俺も柔らかいんで……」


盾役のハルトが、苦笑まじりに頭をかいた。前衛はハルトとレイジ、そしてパルだった。


その時だった――。


休憩していたレイジが、突然むくりと立ち上がり、満面の笑みで叫んだ。


「チャーーンス!」


次の瞬間、彼はモンスターの潜む林の奥へと走り出していった。


「みんな、回復ポーションは二個ずつ残ってるね?」


シエンの声に、全員が即座に「あります!」と返す。今日の狩りで、誰一人ポーションを使っていなかった。それは、このあとの“地獄”に備えて温存していたからだ。


「セシリア、MP残量は?」


「三分の一です!」


「ビクは?」


「空!」


「了解。最初はポーションでしのいで。ビクは、休んでて。セシリアはまずハルトを回復、バフもお願い!」


「任せて!」


ヒーラーのセシリアと、バフ担当のブルーベル姉妹が声を合わせる。

その隣で、ハルトが深く頷いた。


「今日はビクライさんがいるから、ヒーラーが2人なんで、僕はバフに専念します!」


いつもはヒーラーがセシリアだけなので、バフ役のミロイがヒーラーを兼ねていた。しかし、今日はバニラが加わるため、普段は別行動のビクライとエルナも心配して駆けつけて来た。


「OK、バフは私とミロイで全力回す!」ブルーベルが応える。


「ヒーラー2人とバフ班2人、今は、できるだけ座ってMP回復に専念して!」


「私は、シエンが休んでる間に攻撃に入る!」


エルナの力強い宣言に、シエンも「交互に行こう」と応じる。

緊張気味のバニラは、何かを察しながら辺りを見回した。


(なにが、はじまるの……?)


「来るよ。バニラは絶対、下がってて!」


シエンの鋭い声が飛ぶ。


「え? でも、今は休憩中じゃ……」


言いかけた瞬間、林から激しい足音と土煙が上がり、バニラの目が大きく見開かれる。レイジが地鳴りを立てて戻ってくる。その背後には――なんと三十体近い大型モンスターの群れが!


「全開で行くよ!!」


シエンの号令と同時に、全員が一斉に立ち上がる――!



三十分後。

レイジは最後の一体を倒すと、くるりと振り返り、呟いた。


「……は?」


そこには、信じられない光景が広がっていた。


「嘘だろ……なんでお前ら、まだ立ってんだ……?」


彼の視線の先には、全員の姿があった。


「おかしいだろ。魔法職のHPなんて俺の半分以下だぞ? 一撃で沈むはずだろ……」


確かにHPもMPもギリギリで、中には残り一桁の者もいた。それでも、誰も倒れていない。


「今日は、ビクライがいるから、私とハルトも逝かなかったよ」セシリアが微笑む。


「……アホ盟主、なめんなよ」


パルが小さな体で胸を張る。その背後で、仲間たちが腕を組み、ゆっくりと頷いた。


「最近、私はパリィを覚えたんだ」


シエンが小盾を持ち上げ、にこりと笑う。魔法職でありながら、盾技まで習得する――それがネオフリーダム流の生存術だった。


(この極限状態で、どんな戦い方を見せるか、ちょっと楽しみだった)


レイジは内心でつぶやく。振り返ったとき、誰も倒れていなければいい――そんな“淡い希望”が、どこかにあった。そして今、それが現実になった。


「お前ら……ほんと、強くなったな」


レイジが、呟くように微笑む。団員たちはその場に座り込み、静かに息を整えはじめた。


そして――MP満タンのまま、何もできなかったバニラは、皆の間を回りながら、初期ヒールを何度も、何度も繰り返していた。その手つきはまだ不慣れだが――たしかに、彼女もまた“仲間”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ