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第2話

夕暮れどき、ネオフリーダムのアジトには賑やかな笑い声が響きわたっていた。

隣にはサザーランドの大きなアジトが構えているが、この瞬間ばかりは、ネオフリーダムのほうがずっと活気があるように見えた。


「アホ盟主が、見学のバニラまで巻き込んで……」


美少女顔のドワーフ・パルが、ため息交じりにぼやいた。彼女は素材集めの達人であり、クランのご意見番でもある。


「しかも最後に“バーカ”とか言ってたし……」


副盟主のセシリアが肩を落としながらも、どこか微笑ましげに笑う。真面目で天然気質なエルフのヒーラーだ。


「姉さんが甘やかすからでしょ」


妹のブルーベルが鋭く返す。バフと双剣を使いこなす彼女は、男勝りな短気者。だが、クランへの愛情は人一倍強かった。


「……知ってるわよ。姉さんが盟主にいろいろあげてるの」

「だって、盟主、ポーション買うお金もないんだから」


「セシリアはほんと甘い」とパルが呟くと、「パルもでしょ!」とブルーベルがすかさず突っ込んだ。


「……私は中立なだけだってば」


「まあまあ、喧嘩すな喧嘩すな」


老ドワーフのパブロが、エプロン姿で料理を運びながら割って入った。戦士だった過去を持つ彼は、今では食事と幼女の世話を担当している。


「バニラが困ってるぞ」


シエンが静かに指摘した。


「あ、いえ……なんか怖いけど、あったかいっていうか……」


バニラが頬を赤らめ、ぽつりと漏らした。


「みなさん、レイジさんのこと悪く言ってるけど、なんだかんだ、信頼してるんですね……」


その言葉に返すように、突然――


「いたぁっ、タタタタタッ!」


中腰になっていたパブロの声が響いた。振り返ると、その後ろで――見習い弓を構えた小さな女の子がニコニコしていた。


「あれは……?」

「チルル。盟主の愛娘よ」とパルが答えた。


「お嬢、わしの尻に矢を刺すなと何度言えば……」


パブロが尻に矢を刺したまま追いかける。チルルは笑い転げながら逃げた。ドワーフの尻は丈夫だ。


「にいやんの血が入ってるから、ワンパクでさ」


バフ系ダークエルフのミロイが、骨付き肉を頬張りながら苦笑した。心臓に病を抱えながらも明るく、仲間思いの弟的存在だ。


「パブロ爺が守り役だけど、いつもチルルに振り回されてるんだ」


パルが肩をすくめた。


「チルルちゃん、何歳なんですか?」

「たしか六歳だったかな」


キャハハ……と、笑い転げるチルルを見て、バニラの表情が緩んだ。

(小さな子が笑ってる……なんて、いい光景なんだろう。ここは本当に、あったかい)


「そういえば、今日の盾役のハルトさん、いませんね?」


「ハルトさんは家族と村はずれに暮らしてて、夕食はそっちなんスよ」


体験入団中のルピタが答えた。ネオ最弱のファイターだが、元気だけは一人前だ。


「おっ、帰ってきたっす」


ルピタが視線を向けた先から、二人のダークエルフが姿を見せた。


無表情なビクライが一礼し、奥の席に座る。その向かいで、エルナが「ただいまー!」と元気に腰を下ろした。


エルナは火力重視の攻撃魔導士で、シエンと並ぶネオの魔法系ツートップ。短気でまっすぐ、曲がったことが大嫌いだった。


一方のビクライは、バフ兼参謀タイプの戦術家。クールで感情を表に出さないが、かつてギャンブルで全財産を失った過去があり、今ではエルナにお小遣い制を敷かれている。


二人はクランに入る前からのペアハント仲間で、お互いの長所短所を知り尽くした名コンビ。団員たちからは“公認カップル”として親しまれている。


「これで、全員ですか?」とバニラがシエンに顔を向けた。


「えーと、レイジとハルトを除くと、ルピタ、ミロイ、パル、セシリア、ブルーベル、ビクライ、エルナ、パブロ爺、そして私とチルルを入れて……十二人?」


「大事な人を、一人忘れてるっス」


ルピタが、横にいる親友のミロイに顔を向けた。


「そうそう」と、ミロイも頷いた。


「ああ、……もう一人、デュランがいたか」


シエンが、顔を見回しながらつぶやいた。


「デュランはいま、対人クランに移った元団員ゼイラスの応援に行ってる」


セシリアが説明した。レイジの判断で、助太刀に出ていた。


「あいつ、強いからな。よく呼ばれるんだ」


エルナが言いながら、骨付き肉にかぶりついた。


「そうそう、千メートル先の魔導士を風越しに一矢で沈めたって噂っス」


「敵軍の将が“あの雷嵐の矢音が聞こえたら、詰んだ”って」


ルピタに続いて、ミロイが頷いた。


デュラン――ヒューマンのスナイパー。貴族出身で、レア装備『雷嵐の大弓』を持つ蒼銀の長髪の青年。気品と優雅さ、そしてどこか悪戯っぽさを併せ持っていた。


シエンと並ぶネオフリーダムの双璧であり、“雷嵐の貴公子”として名を馳せていた。


「気高くて、強くて優しい。いつも、わたしをフォローしてくれるの」


セシリアが微笑んだ。


「誰かさんとは大違い」


と、パルが冷静に切り捨てた。


「だから、うちの団員は、チルル除いて十二人です」


ミロイが骨付き肉をかじりながら言った。


「そういえば、今日は“アレ”の日だよね」


エルナが意味深にみんなの顔を見回した。


(アレの日……?)


バニラが不思議そうに小首をかしげた。

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