表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アデン大戦記 ―反逆の血盟ネオフリーダム―  作者: 霧原零時
第二章 優しき嘘と小さな勇気
12/55

第7話

ルピタは、太い丸太棒をしっかりとロープで縛り直すと、丘の上から駆け降りてきた。


シエンは、道端に散乱している安価品の中から、まだ使えそうなものだけを拾い上げると、バニラに手渡した。


「ありがとうございます」


バニラは深々と頭を下げた。

初めて見る上位ランクの魔法使いを前に、緊張しているのが見て取れる。


「助けてもらって、本当にありがとうございました」


エルフの娘は、レイジとルピタに、さらに深々と頭を下げた。


「ほんとよかったっす。シエン姉さんがいなかったら、どうなってたことか」


ルピタがレイジに顔を向けると、続けた。


「盟主、今回は運が良かっただけだから、もう無茶はしないでくださいよ。盟主が死んだら、ぼくのレベル上げを手伝ってくれる人が、誰もいなくなっちゃうっす!」


「分かった、分かった」


レイジがルピタに笑顔を見せた。横で何か言いたげなシエンに、レイジが首を振って止めた。


(特に言葉が優しいわけでもないのに、なんだろう、この感じ)


バニラは、緊張の中で、どこか暖かさのような心地よさを感じていた。


「レイジ」


シエンが、レイジに意味深な顔を向けた。


「ああ、……だな」


レイジが頷いた。


レイジはバニラの前に歩いてきた。


「俺は、血盟ネオフリーダムのレイジ。君の名前を教えてもらえるか?」


「あ、はい、バニラといいます」


「バニラはヒーラーか?」


「はい」


「レベルは?」


「11です」


レイジは一呼吸置いて、続けた。


「あのさ、もしよかったらだけど、うちに来ないか。お試し入団でもいいから」


レイジとシエンは、先ほどの連中の仕返しを警戒していた。

初期装備のヒーラーなど、狙われたらひとたまりもない。ネオフリーダムにいれば、守ってあげられると考えたのだ。


「そうだよ、バニラ、うちに入ったらいっすよ。あ、ぼくはルピタ」


バニラがルピタに顔を向けた。


「うちはさ、口は悪いけど、みんないい人ばっかりで、なんと言っても、一番弱い奴が、一番威張っていてもいいクランなんす。そんなの他にないでしょ?」


その言葉に、バニラは下を向いてしまった。


「えっ? もしかして、もうクランに入ってるんすか?」


「クランには入っていません。……いいんですか。わたし、弱いし……」


そう言った後、バニラは口をつぐんだ。

風が草を揺らす音だけが、一瞬、世界を満たす。


「下手だし、なんの役にも立たないし……お金もないんです」


声は震えていたが、その瞳は、ほんの少しだけ、希望に濡れていた。


「ははは、うちはね、誰かさん――そう、うちのアホ盟主の影響で、損得勘定とかが、できないアホばっかりでさ」


シエンがバニラに微笑む。


「ネオは、弱くて役に立たない奴が、一番デカい顔をしていればいい。――ねっ、盟主。そうだよね?」


シエンに切れ長の瞳を向けられ、複雑な表情のレイジが答えた。


「ちょっと言ってることが分かんないけど。バニラは弱くて役立たずじゃない。……最初から強くて、すげぇ奴なんかいないんだよ」


その言葉に、誰もが一瞬、息を呑んだ。


「……そうだね。レイジの言うとおり。うちには最強の盟主もいるしね」


シエンが肩をすくめて微笑む。


「そうそう」


急に上機嫌になったレイジが、大きく頷いた。


「あ、そういえば、シエン。さっき、あそこに置いたものはなんだ? なんか重そうだったけど」


レイジが、シエンが背から降ろして地面に置いたものを目ざとく見つけると、指差した。


「あ、あれは、パルに頼まれたお使いもん。レイジには関係ない」


シエンの言葉に、レイジは「そか」と首を傾げた。


「じゃあ、体験入団ってことで。……まあうちはね、初日に辞めてく人も多いんだよ」


レイジが頭をかいた。


「え、そ、そうなんですか……?」


「毎回、レイジのアホに振り回されて脱落者続出ってとこだな」


「おい!」


「ほらね?」


シエンがニヤリと笑った。


このときバニラは、ただ静かに頷いていた。


この先に、自分が何を背負うことになるのかを、知らぬまま……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ