表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/38

第5話 スパダリは断罪する

「で、早速ですが。これを見ていただきたいです」


 アリスンから読み取った記憶を、壁に投影した。


「アリスン様、貴女はここで終わりよ!」からのオーホッホッホまでが映し出された。


 ケイシーは顔面蒼白でぶるぶると震えている。


 ニコラスは度胸ある背面ダイブを見て、愕然とした表情だ。それは理事長も同じ。アリスンは目を逸らした。



「はい、こんな感じです。これは私の魔術でアリスン先輩の記憶を読み取り、魔道具へ移したものです。ちなみにこの記憶の読み取りは嘘、偽りは通じません。見たままの光景を映し出します。これは私の父であり、魔術師協会会長でもあるキャッツランドの国王陛下が開発したオリジナル魔術です。魔術師協会にも効果の高いオリジナル魔術として登録済みです」


 疑うならキャッツランド王国と魔術師協会を敵に回すことになるんだぜ、と念押ししておく。


 ちなみに、魔術師協会の会長職は、各国のそれなりに地位のある上級魔術師が持ち回りで勤めている。今はたまたまうちの父が担当しているだけだが、なんとなく偉い魔術師っぽく聞こえて、こういう場面での箔付けに役立っている。


 ぐぅの根も出なくなったのか、ニコラスが肩を落とした。


「そ、そうか……。俺は誤っていたのか。巨乳女に騙されて……」


 ふらふらとソファに座りこみ、頭を抱えている。


「元気出して下さい、先輩。ケイシー先輩の度胸には僕も参りました。自分から背面ダイブするなんて疑わないでしょう。仕方ないですよ」


 バカなら仕方ないですよ、と言いたいところだが、好感度下落防止のため、バカは抜いておいた。笑顔で慰めると、嬉しそうにバカ皇子は顔をあげた。


「そ、そうか。わかってくれるか!」


 まったく単純な皇子様だな。


「そしてケイシー先輩」


 ケイシーに視線を移す。カタカタと震えるケイシーは、震える度に巨乳を揺らしている。


「人を騙して貶めるのはとても悪いことですが、貴女のニコラス先輩への想いが真摯なものであることはわかりました。これからも先輩と末永くお幸せに」


 アリスンは俺が幸せにするので、バカ二人は二人の世界で生きていってくれ! そう願いを込めると、ケイシーがうるうるとした目で俺を見上げてきた。



 しかし、事態は俺の想定とは異なる方向へと進んでいく。


 ニコラスはゆっくりとアリスンへと歩き出す。アリスンが怯えたように一歩下がった。


「アリスン、本当に申し訳なかった」


 バカ皇子は汚らわしい手で、アリスンの髪、そして頬に優しく触れる。アリスンはビクッと身体を震わせた。


「許してほしい。そして……もう二度と君を裏切らない」


 あれ? なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。


「これって元サヤじゃね?」


 ケネトが俺の耳元で囁く。


「お前、全財産なくして借金までしたのに」


 え? マジかよ。元サヤに収まっちゃうパターン? なんなんだよそれ。


 アリスン、その男バカだから、また浮気するに決まってる! その男じゃ貴女は幸せになれないんだ!


「アレク殿下……ッ!」


 そしてケイシーがニコラスではなく、俺の胸に飛び込んでくる。


「やっぱりアレク殿下はスパダリですわ! あぁ……なんていい香り!」


 ケイシーが俺に抱きつきながらクンクン匂いを嗅いでいる。なんという肉食獣! 豊満な胸をむにゅむにゅと当ててくる。


 このカップリングは違う。間違っている!! 俺はニコラスとケイシーで仲良くしてほしかったんだ!!



 仕方ない。俺が二人を断罪するか!



 ガバッと胸にへばりついているケイシーをはがしてから、汚らわしい手でアリスンの頭を撫でるニコラスの手を乱暴に振り払った。


「なにするんだ、猫島!」


 不快そうに睨みつけるニコラスを、涼しい顔で見返してやる。


「先ほど、ニコラス先輩は皇帝陛下に言わないでくれ、と仰いましたが、先輩のなさったことは重罪です! 理事長、こんな重罪を闇に葬っていいとお思いですか!?」


 理事長はビクッと身を震わせる。


 アイテムボックスからヒイラギ皇国の法令集を取りだした。法律は国ごとに違う。ヒイラギ皇国留学中に、うっかり罪を犯さないように買っておいたのだ。


「ニコラス先輩はパーティー会場で、アリスン先輩に『ギロチンにかけてやる!』と仰いましたね? ご自分で覚えていますよね?」


 ニコラスに問いかけると、案の定言いわけのオンパレードだ。


「だ、だって、あれは騙されて! 誰だって信じちゃうだろ! 猫島だって、仕方ないって言ったじゃねぇかよ! 何を今さら!」


「騙されたのは仕方がないことです。しかし嘘はいけませんね」


 法令集を開いて見せた。


「ヒイラギ皇国では、騒乱、謀反、強盗、放火、殺人……すべて終身刑が適用されます。つまり死刑は存在しないのです! しかもギロチンで処刑する国なんて、現在では世界でも5カ国しかありません! 皇子という立場でありながら、ありもしない刑罰にかけると脅し、民衆を騙したのです! これは刑法第12条『大衆に対し、嘘偽りを述べた罪』に当ります」


 おかしいと思ったんだ、いまどきギロチンなんて。それで昨夜のうちに調べておいたんだ。


 ちなみに、我がキャッツランド王国では国王、王弟に対する謀反が死刑。強盗、放火、殺人、性犯罪が終身刑だ。昔は猫を殺したら死刑という謎刑罰があったが、10年前に罰金刑まで下げられている。罪を大幅に減刑した形だが、幸いなことに殺猫事件は法改正後も皆無だ。


 死刑の執行方法もギロチンではなく、毒薬を飲まされる。昔はギロチンにかけていたが、世界的に残酷な刑罰は禁止する流れとなっているため、世界基準に沿って変更をかけたようだ。


「それに碌に調べもしないで、アリスン先輩を断罪しました。これは刑法第23条『罪もない人を辱めた罪』第30条『人を貶めて罪を着せた罪』にも該当します。民法第15条にも該当し、損害賠償金の支払いもしなければなりませんね!」


 フンッ! とドヤ顔でニコラスを見ると、ニコラスはわなわなと震えている。


「ケイシー先輩も第23条、第30条に該当しています。皇子と貴族のご令嬢ですから正式に裁判にかけるかは別としても、それ相応の償いはしないとまずいでしょう」


 ケイシーは胸を揺らして俺に駆けよろうとするが、足を止める魔術を施して防御だ。俺は巨乳で誘惑なんてされない。


 俺はアリスン一筋なんだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ