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第11話 デートのお誘い

「アレク殿下はアリスンと知り合いなのですか?」


 親しげな視線を向けるアレク殿下に、父がいぶかしげに尋ねる。それを、いかにも王子様然とした優雅な微笑みで、アレク殿下は返した。


「はい、私の尊敬する先輩です。アリスン先輩は学業でもトップを争う成績とか。お休みの日でも調べ物をなさっているし、その勤勉さと探究心は、学科の違う私も見習うべきところです。さすがは名門・コールリッジ公爵家のご令嬢ですね」


 大げさなほど褒めて下さる。顔が熱くなって俯く。そんな私を妹が冷やかな目で見ている。


 母の方は怖くて見られなかった。


「私もアリスン嬢とは親交を深くさせていただいております。弟のために料理を作って下さったり、一緒に孤児院へ訪問していただいたり。大変お優しく、美しいご令嬢ですね」


 王太子殿下も付け加えて下さる。


「そ、そうですか。いや、こちらのリリアンヌも成績はそうでもないですが、大変気立てのいい子でしてね。姉を超える美しさでしょう?」


 父は妹の売り込みを忘れない。アレク殿下を妹の婿にしたいわけだから。しかしアレク殿下は妹を一瞥し微笑しただけで、それにコメントを入れなかった。


 アレク殿下の好みからは外れているのかもしれない。ほっと胸をなでおろす。


「食事まで間があります。リリアンヌ、アレク殿下をお庭に案内してあげなさい」


 父が妹を促す。妹はアレク殿下の美しさに目を奪われている。妹が足を一歩踏み出した瞬間、アレク殿下は柔らかな笑みを浮かべながらばっさりと断った。


「大変申し訳ないのですが、少し一般教養の授業でわからないことがありまして。お庭でアリスン先輩とお話してもいいでしょうか」


 勉強をネタに私を庭に誘う。断わろうとする父を王太子殿下が遮る。


「コールリッジ公爵、アーラレ山における魔鉱石の採掘量について少し伺いたいのですが……」


 王太子殿下が父を商談の話へ誘う。そうなるともう父は邪魔できない。妹もなすすべもなく、私たちが庭に出るのを見送った。



◇◆◇



 夕焼けで空が茜色に染まり、美しい銀髪が北風に揺れた。今は二人きり。


 アレク殿下は寒さ防止の結界を作った。



「アレク殿下はヒイラギ皇立学園始まって以来の天才で、今さら学校なんて通わなくてもいいくらいの知識をお持ちと評判ですが……」


 一般教養でわからないことなんて嘘でしょう? というように話を振った。


「そんなことないです。勉強はやればやるほど、わからないことが増えていきます。最近ではニコラス殿下の勉強を見ているのですが、彼が(つまず)くたびに、あーここが躓くポイントなのかぁ、と再認識したり」


 アレク殿下は、学年が上のニコラス殿下の家庭教師をしているようだ。定期的に彼が住む地下牢へと出向き、勉強を教えているという。


 春の定期試験に通らなかったら、ニコラス殿下は留年だ。皇帝陛下としては、そこはなんとか回避したいところだろう。


「ニコラス殿下の赤点は免れそうですか?」


 聞くと、アレク殿下は自信満々に頷いた。


「もしかすると、赤点どころじゃないかもしれないです。もっと上をいきますよ」


「えぇっ!? まさか……」


 万年赤点ギリギリのあの皇子が?


「最近は目覚ましく成長しています。アリスン先輩もうかうかしてられないです」


 いたずらっぽく笑った。それが本当ならすごいことだ。


「殿下、私の家庭教師もしていただけないでしょうか?」


 ついついお願いしてしまう。あのニコラス殿下をそこまで引き上げるほどの優秀な家庭教師。地下牢で推しと二人きりで勉強を教えてもらえるニコラス殿下へ嫉妬してしまう。


「いいですよ。でもその前に……」


 見惚れるような微笑みで私の手を取る。


「今晩、時間を明けていただけないでしょうか。取っておきの場所にお連れしたいのです。深夜のデート。深夜に御令嬢を誘うのは非常識だと認識はしているのですが、どうしても一緒に行きたい場所があるんです」


 デート!!!!! アレク殿下が私と!?


「決して何もしません。ただ、一緒にあるところに行ってほしいのです。俺の魔術で寒さを防ぐ結界を張りますから、ね?」


 何かしていただいても全然構わないのですが、という思いが頭をよぎり、慌てて打ち消す。推しからデートの誘いなんて、窒息しそう。ドクンドクンという心臓の音が響く。


「あの、妹じゃなく、私でいいんですよね?」


 そう言うと、アレク殿下は苦笑いを浮かべる。


「どうしてそこに妹君が出てくるかな。確かにアリスン先輩の妹だけに可愛らしい方ですね。でも俺、好きな人には一途なんです。だから……」


 アレク殿下がそう言いかけた時――するどい殺気を感じて振り返る。さっと部屋のカーテンを閉める気配。一瞬の陰しか見えなかったが――。


「お母上ですね」


 アレク殿下も気付いていたようだ。


「すみません、実はルナイザ氏とのことは、俺と兄貴が持つこの国のコネを使って色々と調べさせていただきました。コールリッジ家のことも。ただ……どうしても色々なことが()()()()()()()()()んです。そもそも、自分の娘が不幸になることを望む気持ちを理解することが難しいのですが……」

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