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第26話 闇深き公爵家

「ぜんっぜん進展しないんですけどー! 俺ってそんなに男として魅力ないかなぁ」


 兄貴の部屋でゴロゴロしながらひたすらぼやく。次の休日に公爵とご対面なので、打ち合わせで来ているのだ。


 兄貴はいかにも大国の王太子ですっという服を何着も持っていて、鏡の前でファッションチェックに夢中だ。


 男から見ても兄貴はカッコいい。見た目だけだけど。


「単に好みの問題じゃないか? もしかしたら年下は嫌ってタイプかもしれないし」


「歳なんてどうしようもないじゃんか! もう、父上も母上も、なんで三年早く俺を作ってくれなかったんだろ」


「バーカ。三年早かったらアリスンと会えてないかもしれないじゃないか」


 そう言って、兄貴は優雅にソファへ腰かけた。そして夢のような提案をしてくれる。


「そんなにアリスンが好きなら……俺からコールリッジ公爵に打診するけど」


 ドキンと胸が高鳴る。そうか……その手があった。


 貴族間恋愛は、本人同士が好きになって結ばれることもあるが、一番大事なのは家。


「王太子である俺からの打診は、キャッツランド王家公式のものとなる。コールリッジ公爵家なら家格として充分満たせるだろう。国元でも反対する者はいないだろう」


 どうしよう。ちょっと卑怯な気がしないでもない。もし、考えたくないけど。もし、アリスンに他に好きなヤツがいたら、それを潰すことになってしまう。


 でも、それが一番手っとり早い。絶対に俺に振り向かせてみせるし。あーでも……でもでも……ッ!


「…………やっぱ、俺のことちゃんと好きになってもらってからにする。その時頼むね」


 クッションを抱きしめながら、ギリギリの決断としてそう伝えた。


「バカだねお前は。そんなのどうにでもなるのに。結婚してから好きになってもらうでもいーじゃんか」


「バカは兄貴だよ! キャッツランドっていう大国の王子としてじゃなくて、俺個人を好きになってほしいの! なんで兄貴にはそういうロマンがわかんないかなー」


 クッションを兄貴に投げつけたが、難なくキャッチされてしまう。そしてとんでもない爆弾を投下した。


「ロマンとか言ってる余裕はないんじゃないか? あの公爵家は結構闇深い。アリスンに新たな婚約話が浮上中のようだ」


 ガバッと起き上がる。兄貴の顔をまじまじと見た。


「それ、本当の話?」


「嘘を言ってどうする。本当だ」


「まさか……マルセル・へスリング?」


 あの暴力的で学年マウントを取ってくる先輩を思い浮かべた。しかし兄貴は首を振る。


「マルセルじゃない。マルセルはアリスンを心から愛しているし、家格も釣り合う。だが、あの家はそんな良物件すら秒で断っちゃうんだよな」


「やっぱ次男だから? 次男だからダメなのか?」


 俺も次男じゃん。ダメじゃん。でも、ニコラスは三男。次男がダメで三男がいいとはどういうことなのか。


「アリスンに求婚した中には、侯爵家や伯爵家の長男もいたらしい。それも断っている。妙なんだ、選ぶ基準が」


 兄貴はヒイラギ皇国通の独自のコネを使って、コールリッジ公爵家の内情を調べたようだ。


「コールリッジ公爵が次に目をつけているのは、どうやら商人だ。貴族ですらない。相当な金持ちのようだし、男爵の爵位を金で買うのでは? と噂されてはいるが」


「金!? 貧乏だとダメなのか? でも俺は魔道具師として数々の特許を持ってるんだぞ! 結構金持ちだぞ!」


 兄貴にアピールをしても意味はないが、金持ちアピールを大声で叫ぶ。


「お前はバカか。侯爵家だって金持ちだろう。そうじゃなくて、コールリッジ公爵が繋がってメリットがある、かつ、浮気癖のある男を選定しているようなんだ」


 浮気癖!? まさにニコラスがそうだ。けど、なぜだ?


 普通、娘の幸せを最も願うものではないのか。浮気を繰り返すようなクズ男と結婚しても、アリスンは幸せになんてなれないじゃないか。


「アレクの婚約話を打診しても秒で断ってくる可能性が高い。仮に王太子である俺自身がアリスンに申し込んだとしても、高確率で断られると思われる」


「な、なんで? もし仮に、仮にだけど、兄貴から申し込んだらアリスンは王太子妃。コールリッジ公爵にとっても名誉なことだし、繋がってメリットがあるじゃないか」


「俺はニコラスと違って女と浮名を流していない。スケベなのは脳内だけで、行動はしっかりと紳士なんだ。つまり、浮気癖のある男、に該当しない。だからダメなんだ」


 ワケがわからない。なぜ娘を不幸にする縁談ばかり持ち込むのか。なぜ浮気癖がないとダメなのか。それならば俺は浮気した方がいいのか!?


「もう少し調査した方がいいな。俺達には奥の手もあるしな」



次はアリスンの章です。

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