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第24話 アリスンと孤児院デート

 ある日、高等魔術科一年の教室にアリスンが現れた。


 俺は邪魔が入らないように、アリスンの手を取って教室から抜け出した。さりげなく手を繋げて嬉しい。この感触を忘れないようにしないと。



「アリスン先輩から訪ねてきてくださるなんて。う……嬉しいですけど、どうされたんですか?」


 また人目のつかない裏庭までやって来てから、事情を聞くことにした。


「あの……クルト王太子殿下から、今週末にサーヌス孤児院へ伺うとお聞きしまして」


 クルト王太子殿下、という単語を聞いて、ちょっと気分が落下した。兄貴と接触したのか。考えてみれば、兄貴はアリスンと同学年だ。俺よりも遥かに接触が容易だ。


 しかし、次の台詞で気分は急上昇した。


「よろしければ、私も同行させていただきたいのですが」


「もちろん大歓迎ですよ!! きっと子供達も喜ぶと思いますし」


 採集より前にデートが実現しそうだ。嬉しくてたまらない。


 ロリコン施設長を撃退したことにより、今もナタリーが施設長を継続している。魔術師協会のコネを使って、知り合いの魔術師から孤児院はしばらくナタリーを施設長として継続するよう意見書を出してもらっている。


 性犯罪を嫌う皇帝陛下のことだ。しばらく孤児院は安泰だろう。



◇◆◇



 キャッツランド王国の紋章が入った、やたらと豪奢な馬車が学園の前に到着する。騎士20人が馬車の周りを取り囲み、あまりの威厳に後ずさった。


「あの……まさかクルト王太子殿下まで来るんですか?」


 先頭の騎士団長におそるおそる訪ねた。そんなのデートじゃないじゃないか! 


「いえ、王太子殿下が同行するとは伺ってませんが」


 きょとんとした感じで、騎士団長はそう答えた。


「じゃあなんでこんなに大人数で、ご立派な馬車なんですか?」


「は? 王太子殿下からは、アレク殿下がヒイラギ皇国の公爵令嬢を伴ってお出かけをされると伺ってますが、違うんですか?」


「違いませんけど」


「なら、この人数は当然でしょう。アレク殿下は国王陛下の覚えもめでたい、大切な第二王子殿下です。その頭脳は国宝とも呼ばれております。私も精いっぱい勤めさせていただきますので」


 は、はぁ……。国宝ですか……。


 騎士団長は、ひょい、と銀色の猫を俺に渡した。


「王太子殿下からです。この猫のおかげでこの数日間は安眠が保たれたと大変お喜びでしたよ。気品ある佇まい……さすがアレク殿下の分身ですね」


 兄貴め……俺の分身と添い寝したのか。キャッツランド王族の猫変化と添い寝すると、メンタル面でよい効果が得られ、快眠が保証される。




 やがて、アリスンも現れた。


「随分と豪奢な……ヒイラギ皇国の皇家の馬車でもこんな豪華なのは皇帝陛下の馬車くらいです……! この馬車に私のような者が乗ってもいいのですか?」


 俺以上に引いている。


「いいのです! キャッツランド国王の覚えもめでたい、国の頭脳たる第二王子である俺が招いた大切な客人ですから。さ、どうぞどうぞ」


 騎士団長の受け売りをそのまま使い、馬車へエスコートする。そして猫を抱いたまま俺も馬車に乗り込んだ。


 王太子の移動用に用意された馬車なので、ふかふかの椅子で装備も煌びやかだ。アリスンは恐縮しながら椅子に腰をかけて、俺の腕にいる銀色の猫に目を向けた。


「その、可愛らしい子は一体? アレク殿下のペットですか?」


 猫は俺の手から逃れてアリスンの方へ行きたがっている。さすがは俺の分身。考えることは同じだな。


「ペットというか、魔術で作った俺の分身です。孤児院に置いてもらおうかと思いまして」


 兄に話したのと同様のことを話すと、アリスンは優しげに微笑んだ。


「本当に、アレク殿下はお優しい。王子様なのに、どうしてそこまで孤児の気持ちがわかるのでしょうか」


 それは俺も孤児だからですよ、なんて言えない。中二病を蒸し返すわけにはいかない。


「俺は、庶民の中で育ったんです。俺、今は上級魔術師で、魔力は強い方なんですけど、15歳……成人するまでは、魔力が生まれなくて。大体みんな、6歳くらいで魔力が目覚めるんですけどね」


 王族貴族が通う学校では、子供がうまく魔力をコントロールできるようになるよう、また、将来の魔術師を育むために、カリキュラムの中に魔術の授業が組み込まれている。


 だが、俺には魔力がない。そこで俺は王族貴族の学校ではなく、王都にある平民の学校に通うことになったのだ。平民でも稀に魔力持ちがいたりするのだが、通常ほとんどの人々に魔力がない。当然、魔術の授業がない。


 身分を偽らず、第二王子として通っていたので、ちょっとした有名人だった。


 先生達は、俺を普通の子供と同じように扱ってくれた。友達も王子とは知ってはいるものの、敬称を付けずに呼んでくれた。学校が終わるとみんなで海で遊んだ。王都の平民だから、貧しい子はいない。中には孤児院から来ている子もいた。


 キャッツランドも福祉が充実しているから、孤児院といっても貧しくはない。学業優秀者もいる。進学した者も多い。


 そんな話をアリスンにした。猫はアリスンの方に行きたがって俺の腕を噛み始めた。分身め……絶対に行かせないぞ。


「……孤児のお友達がいらっしゃるのですね。貴族のご令息でも、出自で差別される方も多いのに。アレク殿下はやはりお優しいのですね」


 中二病の前世テロリストとしては、そんなに優しいを連発されると居心地が悪い。


「友達だし、差別なんてしませんよ。そんなことしても俺がつまんないですし。つまり、自分が楽しく学校生活を送りたかったから、差別しないだけなんです。優しいわけじゃないんです」


 優しいを全否定すると、アリスンはクスクスと笑った。


「そういうことにしておきます。本当に優しい方はご自身で優しいとは言いませんものね。ところでその子……私に抱かせていただけないでしょうか」


 羽交い締めにされた分身は必死に暴れている。俺の分身のくせに荒っぽいヤツだ。


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