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第21話 昼休みの様式美

 思い返してみれば、アリスンは母親からニコラスとの婚約破棄の際に「役立たず」と罵られたと言っていた。


 婚約中に浮気、しかも冤罪で断罪。ギロチンにしてやる、とまで言われたのだ。普通の家だったらニコラスへヘイトが向くことはあっても、アリスンを罵るということはないはずだ。


 採集の件は、アリスン経由で実家に確認してもらうのではなく、別のルートで公爵家に打診をした方がいいんじゃないか。そして、アリスンに気付かれないように、さりげなく闇深き公爵家がどのようなものか確認してみよう。


 そして、もし本当に実家で冷遇され、アリスンが辛い思いをしているのであれば、婿入りは諦めてキャッツランドに嫁に来てもらおう。



 今日も二年生が集まるエリアに来てみた。お目当てはアリスンではなく兄貴だ。


 騎士科の教室前で、兄貴を探す。俺は世界的にも珍しい髪色なので目立つ。ひょい、と覗き込んだだけで、教室から「おい、銀糸のスパダリってあいつだろ」「スパダリっていうかコバエ?」「やめろよ、クルトの弟だろ」というささやきが、あちこちから聞こえる。


 全部聞こえてますけど? コバエって言ったのお前だな。顔覚えたからな。


 それにしても騎士科……高等魔術科よりも男子比率が高い。この学年では女子は一人もいない。オール男子校状態だ。むさくるしい。


 兄貴はいないようだ。思念を送ろうかと思ったところで、マルセル・ヘスリングに声をかけられた。


「よぉ、コバエちゃん。お前の兄貴は一票しか入らないって言ってたが、結果二十票だったな。結果がすべてだ。お前はコバエだ」


 ギラギラとした殺気を撒きちらし、しょうもない絡みをしてくる。


「たった二十人にコバエと思われたところで、俺がコバエということにはならない。大体、他人をコバエ呼ばわりしてバカにするなんて、品性下劣だ。それでも公爵家の人間なのかよ」


 品性下劣な人間を先輩と敬うことはしない。今回からは敬語すら抜いている。


「偉そうに。猫島の王子、そんなにお前は偉いのかよ? どうせ第二王子なんて王位継承権もない雑魚じゃん」


「俺は別に偉くない。でも、他人を雑魚呼ばわりするヤツよりかは幾分マシだ」


 お前だって次男じゃん、同じじゃん、と思ったけど、それを攻撃の材料にはしない。こいつだって好きで次男なわけではないのだ。


「随分口が回ることだ。さすがは理系の魔術科だな。でも男は拳で語るもんだ。表出ろや」


「上等だ。先輩だって容赦しないからな」


 またこないだと同じように、決闘の流れになる。そして一度あることは二度ある。またカメラで盗撮されて、兄貴のご登場だ。


「マルセル、まだ拳で語るとか古臭いこと言ってるのか。俺の可愛い弟を傷つけたらお前を殺すぞ!」


 兄貴は荒々しくマルセルの胸倉を掴む。と、そこで昼休みの終わりを告げる鐘がなる。結局こないだと同じだ。ただマルセルと絡んだだけじゃないか!



◇◆◇



「で、何の用だったんだ?」


 兄貴はさっそく俺の部屋を訪ねてきてくれた。いらない学園新聞を手に持ちながら。


【決闘待ったなし! 次男同士の戦い!】と書かれてる。次男とかどうでもいいじゃないか。しかし我々次男がコールリッジ公爵家の次期当主を狙って争っていると書かれてある。次期当主ねぇ……。


「アレク、お前、まさかコールリッジ公爵家に婿入りするつもりなのか?」


 兄貴は深刻そうな顔で新聞をテーブルに置いた。ケネトもなぜか興味深そうに同席している。


「そのことなんだけどさ……」


 俺はニコラスから聞いた、コールリッジ公爵家のことを話した。アリスンは長女なのに、どうやら公爵家は次女に家を継がせようとしている、と。


 さらにニコラスとの婚約破棄の際、母親から役立たずと言われたことも話した。


「次女に継がせる、は、特に珍しい話ではないと思うけど。ただ、役立たずは酷いな」


 兄貴は一部同意してくれた。


「そこでさ、コールリッジ公爵領に魔鉱石の採集に行くついでに、アリスンには内緒で、こっそりと公爵に会えないかなーとか考えたりしてるんだ」


 それを話すと、兄貴はうーんと考えこんだ。


「でも、お前はアリスンとデートする口実が欲しかったんだろ? こっそりと公爵を訪ねてもそんな家庭内の事情、親しくもない外国の王子、しかも十六のガキに話すわけないだろうが」


 ハッとした。そうだ。目的を見失ってはいけない。まずはアリスンと親しくならないと! 婿がどうこう、はその次の話ではないか。


「当初の予定通り、アリスンに魔鉱石の採集に行くことを伝えておけよ。俺からも公爵に手紙を書いておく。コールリッジ公爵家の裏事情は、別口で探ろう。むしろ公爵にバレないルートで探った方がいい」


 俺から手紙を書いてもいいのだが、王太子と第二王子では重みが違う。公爵家という名門貴族と話をするには、それなりの格は必要なのだ。

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