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第20話 地下牢でルート変更を試みる

 王宮の真下に位置する地下牢は、日光が完全に遮断され、薄暗い。そして、めちゃくちゃ寒い。


 今の囚人はたった一人しかいない。ニコラス皇子はうつろな目つきで教科書に向き合い、溜息を吐いている。


 アリスンを傷つけたことについては許せないし、この状況もざまぁなのだが、ちょっと可哀想になってくる。精神を病まないうちに出してあげたいものだ。


「先輩、家庭教師で来ましたけど」


 そう声をかけて、看守に牢の扉をあけてもらう。ニコラスのうつろな目に光が灯るのを感じた。


「えーと、お前は猫島アルル……だっけ?」


「猫島アレクです」


 どうせ名前なんて覚えていないだろうと思っていたけれど、案の定だ。しかし久しぶりに見る看守以外の人間だからか、とても嬉しそうだ。


「猫島、お前のおかげで随分と勉強が進むようになった。ただ……試験に通るかは微妙なところだ」


「どのへんがわからないですか?」


「数理のこのページだ」


「あぁ……それはこっちの公式を覚えていないときついやつですよ」


 昔習ったところの復習も含めて、丁寧に教えてあげる。家庭教師代もいただいている。春の定期試験までに赤点をまぬがれる……いや、トップレベルに近い辺りまでは押し上げたい。


 練習問題までびっちりとこなしていただき、地下牢でのお勉強会を終えることにする。


「ありがとう、猫島。お前はいいヤツだ。ただ……アリスンのことになると話は別だ」


 恨みがましい目を向けてくる。


 浮気したくせに、まだアリスンのことを諦めていないのか。呆れちゃうぜ。


「猫島はいいヤツだ。確かにアリスンはお前と結婚したほうが幸せになれるかもしれない。しかし俺は諦められない!」


「……なら、なんで浮気したんですか? 俺だってアリスンが好きです。そんな浮気野郎と元サヤなんて、ぜーったいに阻止してやりますよ」


 地下牢の中で、バッチバチに火花を散らす。こいつと元サヤなら、あの粗暴なマルセル・ヘスリングと結ばれる方がまだマシだ。


「お前だってケイシーの爆乳を抱いたことがあるだろ? あの引力には逆らえなかったんだ!」


「俺は爆乳なんて抱いてません。どんだけ下半身に脳が支配されちゃったんですか。もうこのままケイシー先輩と結ばれる、でいいじゃないですか? アリスンは解放してください」


「抱いていない……? お前……まさか、その若さで不能なのか?」


「不能じゃないです! 失礼ですね。俺は本気でアリスンが好きなんです! だから浮気なんてしないんですッ!」


 言いきってニコラスを黙らせる。浮気野郎め。


「ケイシー先輩と結ばれる、じゃダメなんですか? 俺も休み時間にケイシー先輩に来られるの迷惑してるんです。毎回どこかに隠れないといけないし。早く牢屋から出て、ケイシー先輩と仲良くしてくださいよ。あの爆乳……恋しくないですか?」


 ケイシールートへ誘導する。


 別に俺は魅了とか、そういう特殊な能力は使っていない。ただ、爆乳の具体的な肌触り感や、質感を事細かく語っているだけだ。


 女なんてものが存在しない地下牢での禁欲生活。ここでニコラスを洗脳してやる。


「ケイシー……ハァハァ」


 効果覿面(てきめん)だ。よしよし。


「ところで、マルセル・ヘスリングという人物をご存知ですか?」


 せっかくの家庭教師だ。ルート変更と共に、新たなライバルの情報収集といこう。


「あぁ……あいつか。あいつは俺とアリスンの婚約に最後まで反対していたな。デートの妨害も甚だしく、俺は何度も母上にヘスリング公爵家に圧力をかけるようにお願いしていたんだ……でも全く聞きいれられなくて」


 なんと。マルセルの実家は公爵家か。表立って喧嘩するにはリスクが高い。しかし、国にどんなに怒られても、例え地下牢に入れられようとも譲れない戦いというものがあるんだ。


 マルセルとアリスンは幼馴染みということだ。ニコラスがいなければ二人が婚約したであろう。家格は釣り合っているし、歳も同い年だ。


 ただ、マルセルは次男坊。そこらへんがネックだったかも……とニコラスが言う。


「アリスンは公爵家の長女だから、婿入りもありだ。ただ、公爵家はあまりアリスンに実家を継がせたくないらしいんだよな」


「なぜですか?」


 俺もちょうど次男坊だ。気の早い話ではあるが、コールリッジ公爵家の婿になる、という選択肢もありかな、とちょっと考えていたのだ。


 国元に残っても俺は後継ぎじゃないし、後に王族籍は離脱することになるだろう。そうなれば公爵くらいの爵位はもらえそうだが、新たに公爵家を創設するよりかは、既存の公爵家の婿になったほうが実家的にも助かるだろう。


 上級魔術師、第一級魔道具師のライセンスは国関係なく使える。趣味のサーフィンはキャッツランドじゃないとできないけど、この世界には国際移動魔方陣がある。魔方陣を使えば、一瞬でキャッツランドへ帰れる。


 そうなったら、アリスンと二人で魔方陣で海へ行って、キャハハウフフと……あ、楽しい妄想が過ぎてしまった。



「なんか、アリスンの実家はちょっと闇深そうなんだ。どちらかと言えば俺も三男坊だし、母上からは婿に行けって言われて。でも、コールリッジ公爵家からは王家に残って娘を持ってってくれって言われて。詳しいことは俺もよくわかんないけどさ」


 闇深そう? 公爵家ともなると名門中の名門だ。どんな秘密があるんだろう。

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