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第16話 皇帝の指示により……

前ページをスキップした方向けのおさらい。


前回、アレクは10歳当時の自分に魔術で変装、そして女装してロリコン男を罠にかけます。


ロリコンの証拠写真をゲットしたが、前世の初恋の人・シンシアを殺したことを認めつつもシンシアの名前も忘れている男にアレクは激昂。剣を投げつけ、剣は男の背を貫いたものの、サファリによって治癒され、死に至らず……。男は結局お縄になり、ヒイラギ皇国の正式な裁判を受けることになったのでした。


 男は「おぞましい行為を行った罪」「未来ある子供を害した罪」さらにサファリに対し剣を向けたため「要人を殺害しようとした罪」により裁判にかけられた。


 余罪が多いと疑われ、ナタリーも証言台に立った。その結果、100叩きの刑、ならびに終身刑が確定された。



「ごめん、シンシア。仇……討てなかった」


 サファリのしたことは間違っていない。むしろ正しい。それに怒りを抱く俺が間違っている。


 彼女は俺のために、あの男の命を助けたんだ。


 それはわかっているのに、俺はサファリをずっと避けていた。


 ケネトともまともに会話をしていない。


「俺のワガママなんだよね。本当は全部わかってるのに……」


 花束を墓地に置いて、手を合わせた。


「アレク殿下、またここにいらしたんですね」


 地面の木の葉を踏みながら、アリスンが近づいてきた。アリスンも白い花束を持っている。花束を置いて手を合わせた。



 あの騒動の後、俺たち三人のメンタルはボロボロだった。カグヤSPが縛り上げた男をおまわりと呼ばれる街の警備兵へ引き渡し、馬車に乗って学園寮へと帰った。


 アリスンも何か異常なことが起こったことを勘付いていただろう。馬車の中で、無言のまま怒気を抑えきれない俺と、気まずそうに俯くケネトと、ほぼ涙目のサファリに囲まれて、さぞかし居心地が悪かったことだろう。



「アレク殿下、孤児院の廊下で出会った女の子は貴方ですよね?」


 アリスンはいつになく厳しい目で俺を見つめてきた。


「本当はものすごく怖くて、嫌だったんでしょう? あの時、わかりました。どうして私は無理にでも追いかけなかったのか」


 アリスンは悔しそうに俯いた。


「貴女が追いかけてきたら、あの男を捕まえることができませんでした。あの男がそのまま施設長になって、本物の少女たちが深い傷を負うことになったんです。だから、追いかけなくて正解だったんです」


 視線を逸らして歩きだす。アリスンも後ろから付いてきた。そして俺の手に触れてきた。こんな時なのに、ドキンと胸が高鳴った。


「でも、代わりに貴方が傷を負ったじゃないですか」


「別に、傷なんて負ってません」


「でもあの時……貴方はつらそうでした」


 まっすぐに見上げてきて、俺が視線をあわせると頬を染めて目を逸らした。


「ごめんなさい。責めるようなことを言ってしまって」


 アリスンは俺の手をつかんだまま離さない。アリスンの真摯な気持ちが伝わってきた。アリスンは心底俺のことを考えてくれていて、だからこそ本気で怒っている。


 ふと、アリスンの前でさらけ出したくなった。本当の自分を。カッコつけていない素の俺を見てほしくなった。


「俺、学園で変なあだ名つけられてるじゃないですか。なんとかのスパダリ?」


「あ、はい……。陰でこそこそと……本当にごめんなさい」


 なぜかアリスンが謝る。


「孤児院の女の子に意味を教えてもらったんです。カッコよくて性格がよくて結婚したくなる男の子だって。でも俺、中二病だし、馬車酔いはするし、いきなりぶっ倒れるし。中二病妄想の恨みから人殺ししようとするし、それを止められたら逆恨みして友達をずっと無視してるし。カッコ悪いし、性格も悪いです」


 口に出したらツキものが落ちたように、サファリやケネトに対する理不尽な怒りが消えていった。帰ったらちゃんと二人に謝ろうと思った。


「さっき、アリスン先輩が俺が囮になったこと咎めたじゃないですか。実は、俺の国元にもその件伝わっちゃって。ものすごい抗議の数なんですよ」


 ヒイラギ皇国のおまわりさん達にこっぴどく叱られ、その勢いでキャッツランド公邸にまで連絡されてしまったのだ。王子という身分で囮になるなんて、前代未聞と騒がれた。


 アイテムボックスから国元から届いた手紙の束をアリスンに手渡し、苦笑いを浮かべた。


「その手紙、俺が子供の頃に学校の登下校の見守りしてくれてたSPの人たちからなんです。『こんなことがないように殿下の警護を頑張ってきたのに、殿下がそれを台無しにした!』とか『軽はずみなことして、俺たちの気持ちを踏みにじってる!』とか、便箋に涙の痕みたいなのあるし。なんだかなぁって感じで」


 アリスンもクスクスとつられたように笑った。


「愛されてるって感じがしますね」


「貴女が廊下で見た子供は、俺の10歳当時の姿そのものです。女の子みたいでしょう? でも、全然危険な目に遭ったことがなくて。この手紙くれた人たちが守ってくれていたんですよね。俺、バカだからそういうありがたみ、全然わかってなくて。また同じようなことがあったら、性懲りもなく囮とかやっちゃうんだろうけど、頭の片隅ではちゃんとわかっておこうと思いました」


 手を繋いで歩きだす。海の方まで行こうと思った。俺は海が大好きだ。海に囲まれた国で育ったから。


「また囮になっちゃうんですか? SPの方々をまた泣かせてしまうんですか?」


「男には危険を顧みずに勝負しないといけない時もあるんです。王子とはいえ、俺は後継ぎじゃないし。俺じゃないとできないこともあるし」


 SP達はお怒りだったが、執政官をしている王弟殿下――叔父上からは、お褒めの手紙をもらった。目的のために手段を選ばないところがよい、時に身を削り、命を賭けることも必要だと。


 稀代の策士と称される叔父上らしい。清濁併せ呑む偉大なリーダーである叔父上は、時に危険な振る舞いをしては周囲をドン引きさせている。


 それを見習おうとは思わないけどさ。


「でも私は、アレク殿下が危険な目に遭うの、嫌です。ずっと元気で笑っていてください。アレク殿下は、たとえ中二病でも、性格悪くても、みんなのスパダリなんですから」


 アリスンはぎゅっと俺の手を握りしめた。俺もその手を優しく握り返した。


 


 ちなみに、例のロリコン男は100叩きの刑の最中に刑死してしまった。


 ヒイラギ皇国の○○叩きの刑は、人ではなく専用の魔道具で叩いている。ヒイラギ皇国の魔術師から聞いた話では、弱から強までコントロールが出来るそう。


 ニコラスは強、ケイシーは弱で叩かれたらしい。


 今回は、性犯罪を蛇蝎(だかつ)の如く嫌う偉大なる皇帝陛下の裏の指示により、強を遥かに超える超最強で叩いたとのこと。



 ヒイラギ皇国に死刑はない。しかし、世界で最も性犯罪に厳しい国家である。そのことを胸に刻んだ一件であった。



これで二章は完。

続いて三章に入ります。お兄様と新たなライバルが登場します。

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