表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

第13話 スパダリの猫変化

「あら、リーザ。どうしたの?」


 ナタリーが声をかけると、リーザと呼ばれた女の子は一瞬ビクっと怯える。そしてくるっと周り右をして、その場を去ってしまう。


「あの子は外で遊ばないんですか?」


 子供達はあの子を除いて建物の中にはいなかった。みんな庭で遊んでいる。集団生活が苦手な子なんだろうか。まぁ、それも個性ではあるが。


 しかし、あの怯えた目が気になった。


「あの子は、突然家が火事にあって、ご両親もそのまま……。その記憶がずっとあるんでしょうか。心に傷を負ったままで。身体の傷は治すことができますが、心の傷はそうはいきませんし」


 ナタリーがそう言って溜め息を吐いた。確かに治癒(ヒール)の上位技である完全治癒(パーフェクトヒール)をかけてあげても、心の傷は癒すことはできないだろう。


 心を癒すには、時間が経過するのを待つしかない。時間が経過したところで癒えない傷もあるのだが。


「……完全に治すことはできないのですが、心に癒しを与えることはできるかもしれません」


「アレク様は、そんなことまでできる魔術師様なんですか?」


 これは魔術師だから、ではなく、キャッツランド王族だからできる技である。


 キャッツランド――猫島と呼ばれる俺の祖国は、100年生きた雌猫が、月の魔力の効果で人間となり、初代国王と結ばれたことで成立した、と言い伝えが残る国であり、その100年生きた猫神の守護を持って安定と発展を遂げている国だ。そして国を統治しているキャッツランド王族は、単なる人間ではない。


 猫人間なのである。


 魔力の目覚めと同時に、猫に変化できる能力も開花する。そして猫に変化をすると、人間の時には使用できなかった能力も生まれる。


 猫の持つ癒しの効果は、身体のみではなく、心も治癒できる。不安定だった心も、猫をもふることで安定させることができる。


「僕はこれから小さな動物に変化します。見慣れない方には魔獣に見えてしまうかもしれませんが、魔獣ではありません。どちらかといえば聖獣に近いと思います。ネコ、という生き物です」


 そう断りを入れて、俺は小さな猫に変化した。


 髪色にそっくりな、銀色の長毛が輝く猫である。


「えっ……うそ……可愛い」


 ナタリーはそう呟き、猫におそるおそる手を伸ばす。そしてそっと抱き上げてもふりだした。


「やだ……やだ……なにこれ……可愛すぎる」


 蕩けるような表情で一心不乱にもふりだす。猫の可愛さは正義。


 キャッツランド王族はみんな猫になれる。四人も男兄弟がいれば喧嘩も絶えないのだが、猫になれば自然と和解できてしまうので我が家は平和だ。


 しばらくもふられたところで、肝心のリーザだ。


「では、リーザのところに行ってきますね」


 ぴょんとナタリーの手からすり抜けて、廊下を駆けて行く。探索魔術でリーザを探す。リーザは本がたくさん置いてある部屋で、蹲っていた。


 部屋に入ると児童書がたくさん置いてある。俺がいた時にはこんな部屋はなかった。俺は本が好きな子供だったから、孤児時代にこの部屋があったら一日いても飽きなかっただろうに。


 本当に昔とは違うんだな、と改めて思う。


「こんにちは」


 一旦は人間に戻り、少し距離を置いて、しゃがんで話しかけた。いきなり猫が話すと「魔獣が喋った!」と逆に怯えさせてしまうからだ。


 話しかけるとビクッと顔をあげて、怯えて逃げようとしてしまう。


「僕は猫の島から来た猫人間なんだ。少し話をしようよ」


 友達の妹に話しかける感じで切り出した。大抵の子は友好的な態度を見せてくれるのだが。


「……猫人間ってなに?」


 お、食いついてきた。よしよし。


「僕はこれから聖獣と呼ばれるネコという生き物になるよ。ネコに変身できるのが、猫人間なんだ。ネコは君に危害を加えることはない。ネコは繊細な生き物だから、叩いたり乱暴なことはしちゃダメだからね」


 別に叩かれたところでどうということはないのだが、これは情操教育でもある。小さな生き物はいじめてはいけないのだ。


 ぼわーん、と煙を出しながら銀色の猫に変化する。


 リーザの目が驚きに見開かれ、徐々に輝きを増してくる。この反応は老若男女共通のものだ。


「本当にさっきのお兄ちゃんなの?」


 おそるおそる、という感じで猫の背中から頭をナデナデしてくれた。


「本当だよ。僕の名前はアレクって言うんだ。君の名前も教えてよ」


 本当は知ってるのだが、あえてここは自己紹介である。


 この猫の姿で、人間の時同様の声を出せるメカニズムは謎だ。ちなみに猫の「ニャァ~」という声も出せる。本当に謎だ。


「リーザだよ。アレク、本当に可愛い。人間の時はスパダリって感じなのに」


 またしてもスパダリ。スパダリってなんだろう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ