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第12話 ナタリーの半生

 ナタリーは「じゃあお言葉に甘えて」と、洗濯を頼んできた。


 大きなタライに水を溜め、水魔法と風魔法の融合で洗濯を回す。そして火魔法の応用で乾燥させ、すばやく畳んでいく。流れ作業ってやつだ。


 俺はキャッツランド王国のれっきとした王族だが、家事労働も叩きこまれている。質実剛健をモットーとするキャッツランド王家の方針である。


 洗濯している最中に気付いた。


 このような施設では、子供達の服は寄付で賄われている。当然古着だ。古着でもオシャレに着こなせばいいのだが、なかなか難しい。洗えば洗うほど新品になる洗濯機とかあればいいのだが……。



「王族の方ではないにせよ、貴族のご令息なのでしょう? そんなことまでやらせてしまっていいのかしら」


「全然いいですよ! うちは末端貴族なんです。おまけに僕は次男坊ですし」


 にっこり笑ってそう言っても、ナタリーは申し訳なさそうに畳んだ洗濯ものを片付けていく。


 庭では、サファリとアリスンが飛び出る紙芝居を使って、子供達に歓声を浴びせられている。俺が作ったのに手柄は二人のものだ。


 ケネトはケネトで、男の子たちとドッチボールで遊んでいる。楽しそうでなによりだ。


「ところで、洗濯は洗濯機を使ってますよね」


「この量ですから。随分とオンボロですけどね」


 洗濯機を見せてもらった。


 庶民の生活用品の多くは、魔道具で作られている。魔術を使えるのは王族貴族が大半で、最も数が多い庶民には魔術が使える人はほとんどいない。


 そんな庶民の生活を支えるのが魔道具だ。洗濯機もそうだが、目の前の洗濯機は随分と古い。五十年前の技術が使われている代物だ。


 もっといいものが作れなくはないが

、材料費が高くなるな……。


 クラフト洗濯機の設計図を考えていたら、ナタリーがこちらをじっと見つめているのに気がついた。


「洗濯機をじろじろ見てすみません。僕は魔道具も作るんで、ちょっと興味があって」


「洗濯機は見ても構わないです。そうじゃないんです」


 ナタリーが懐かしそうに微笑した。


「昔……私も孤児としてこの孤児院にいたんです。私が孤児だったころも、アレク様のように魔道具が好きで、よく施設の魔道具を修理していた子がいたなぁ、と。少し、アレク様に似ている気がして。今ごろどうしてるのかなっ……なんて」


 急にしんみりとしたナタリーを見て、胸が苦しくなる。


 そいつなら、もうとっくに死にました。三流テロリストでギロチンにかけられたんですよ、なんて言えない。


「ごめんなさいね、昔の話しちゃって」


「いえ……。きっと、その人もどこかで幸せに過ごしてると思いますよ。この国は随分といい国になりましたから」


 優しい嘘をつく。真実を伝えることが正しいとは限らないのだ。


「アレク様はお若いのに、昔のこの国を知ってるんですか?」


「…………歴史の授業で習ったんです」


 危ない危ない。ナタリーに、実は俺がその魔道具オタクの孤児で、転生したんですよ、と伝えたところで、危ない中二病だと笑われるに決まってる。


「施設長は、孤児出身でありながら、官吏の試験に合格されたんですね。合格者の大半が、貴族や平民富裕層の子弟ばかりだと言うのに。大変だったでしょう」


 国が運営する施設で働くには、官吏登用試験に合格しなければならない。これはヒイラギ皇国のみならず、どこの国でも同じことだ。


 貧富の差があまりないキャッツランドでも、孤児が官吏というのは全くないわけではないが、珍しい。


「とても頑張ったんです、私。途中まで、魔道具好きな男の子が勉強を教えてくれましたし」


 俺の三流テロリスト人生もあながち無駄ではなかったようだ。テロリストとしては全く成果をあげていないが、別のところで優秀な官吏誕生の礎を築いていたのだ。


「不躾なお願いで恐縮なのですが、もしよかったら聞かせていただけませんか? 施設長のこと、そしてこの施設のことを……」


 俺は11歳でこの施設を離れた。シンシアの妹・ナタリーは10歳だった。彼女はその後どうやって生きていったんだろうか。


「私は15でこの施設を出て、宿屋で働きながら、官吏登用試験の勉強を独学でしていました。宿屋の常連で引退した官吏の方がいて、相談に乗って下さいましたし」


 今では俺が知っているような理不尽な暴力を振るう監視員もいない。潤沢とはいえない資金繰りだったが、少しずつ少しずつ、子供達が豊かに過ごせるように施設を整えていった。


 施設を卒業した子供達が立派に働き、施設に寄付していくこともあると言う。


「そうですか……」


 じゃあ俺も寄付しないとな、と思った。


 そんな時、廊下の隅から視線を感じた。10歳に満たないくらいの女の子だ。

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