表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/38

第11話 サーヌス孤児院

 馬車が停止して降りるように促された。馬車を出ると、俺の知るサーヌス孤児院はそこにはなかった。


 暖かい木目調の可愛らしい二階建ての建物が何棟か続いている。庭には生い茂った木々が植えられていて、子供達が屈託なく遊んでいる。サファリの姿を見ると「変なおねえちゃんだ!」と走り寄ってくる。


「変な、はひっどいなー。可愛いおねえちゃんでしょ! 今日はね、紙芝居と絵本を持ってきたんだよー!」


 サファリは子供達に腕を掴まれながら建物に入って行く。ここでは馴染みの顔のようだ。


「あ、アリスンだ!」


 アリスンを目ざとく見つけた男の子たちがアリスンの手を引く。男の子が警戒するような目線で俺を見た。幼いながらも男の子。ライバルは本能的にわかるようだ。


 建物から小柄な女性がサファリとアリスンへ挨拶をした。その女性を見て、俺の心臓が激しく跳ねた。


「まさか…………ナタリー……?」


 足がすくんで動けない。


「アレク殿下?」


 馬車を守っていたSP達が、硬直する俺を心配して声をかけてきた。呼吸がうまくできない。


「おい、アレク?」


 ケネトが声をかけてくる。息が苦しい。頭が割れるように痛い。


「ちょ……っ! アレク、しっかりしろ!」


 あまりの痛みに気を失ってしまった。目が覚めた時、孤児院の医務室のベッドで横たわっていた。



◇◆◇



「アレク、本当に大丈夫? なんでいきなり倒れたのよ?」


 サファリが医務室へ運ばれた俺に詰問してくる。


「頭痛に効くポーションです。飲んでくださいね」


 アリスンが優しくポーションを手渡してくれた。


「本当にすみません。今日は情けない姿ばっかり見せちゃって」


 アリスンの前では強くてカッコいい俺でいたかったのに! 


「あ、こいつ、じゃなかった。この人、銀糸のスパダリとか言われてますけど、本当はいつもこんな感じなんですよ。先輩、騙されないでくださいね」


 サファリがアリスンに余計なことを言う。


「なんなんだよお前は! その銀糸のスパダリってなに? スパダリってそもそもなんなの?」


 その時、ドアがノックされて、先ほどサファリとアリスンに挨拶をした女性が入ってきた。


「もう大丈夫ですか?」


 慈愛がこもった瞳で俺を見つめてきた。もう40過ぎのはずだが、昔の面影を感じられる。


「私がこの施設の施設長である、ナタリー・ヒュラーです。いつもルナサファリ殿下とアリスン様にはお世話になって。みんなお二人のことが大好きなんですよ」


 サファリは、フィールドワークの場としてこの孤児院を選んだ。もともと子供が好きだったから、というのが理由のようだ。実習ではない時も、ヒマさえあればここに遊びにきているそうだ。


 アリスンも一年の時にここで実習をしていたとのこと。


「僕は二人の友人で、アレク・オーウェンと申します。着いた途端ご心配おかけしてすみませんでした」


 あえて、ファミリーネームを名乗らなかった。こんな場所で殿下と呼ばれたくない。


 その意図を察したのか、サファリもアリスンも何も言わない。


「アレク様は、ルナサファリ殿下と髪と瞳の色が同じなのですね。カグヤ王族に伝わる髪色のようですが、ご親戚ですか?」


 サファリの親戚なら、カグヤ王国関係者。ファミリーネームを隠しても、髪と瞳でバレちゃうのか。色変えておけばよかった。


「……ルナサファリ殿下とは、遠い親戚です。でも僕は殿下じゃないんで。アレクでいいです」


 本当はそんなに遠くもないのだが、遠い親戚ということにしておく。


「施設長! このアレクは魔術が超得意なんです! ちょっとアレク、この紙芝居、飛び出る紙芝居にしてよ」


 さっそくサファリがこき使ってくる。そういや、アレクなら玩具作れるでしょ? って言ってたな。そのために俺を呼んだのか。俺もプロの魔術師で魔道具師だ。金はくれるというし、20,000フェリック分の働きはしてやらねばならないだろう。


 このくらいなら無詠唱でいける。飛び出して台詞をしゃべる紙芝居にしてやった。絵本にも同じ魔術を施してやる。これで三年くらいは遊べるはずだ。


「さっすがアレク。施設長、他にやってほしい魔術ありますか? どんどん使っちゃってくださいよ!」


 今日の俺はサファリの下僕だ。魔力が枯渇するまでなんでもやってやろう。


「掃除でも洗濯でもなんでもやりますよ。なんでも言いつけて下さい」


 少しメンタルが回復した俺は、ナタリーに向けて爽やかな青年を装った笑顔でそう言った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ