性行為時分泌ホルモン(依存)
「次に話すホルモンの前に、2つの共通点を話すね。」
「はい。」
「2つのホルモンの共通点。 それは、【多幸感と依存】や。」
「えっ!? それってもしかして、」
旦那様の顔が、何とも言えない顔になっている。
私がこの後何て言うか解っているけど、言って欲しくないような、そんな表情。
「〈ゴク〉麻薬と似てますよね。 その共通点は。」
旦那様は、観念されたように、
「そうだね。 信じたくないけど、その通りだね。」
「何故、そんなものが分泌されるかは、解ってないんですよね。」
「少なくとも、一般人が調べれる範囲では、解らんかったな。」
「………因みにですが、この2つは、簡単に分泌させられるんですか?」
「今から話す方は、多分。
最後の1つは、1人だけじゃ、かなり困難やな。」
「そうですか………。」
「そのホルモン、について話す前に、訊いておきたいんだけど、」
旦那様は、居住まいを正された。
「【依存の怖さ】については、理解している?」
「? 薬を求める事、以外ですと、禁断症状が出る事。 ぐらいですかね?」
「だよね。 それぐらいだよね。」
「それ以外に何が?」
「んっとね。そもそもの話、依存=薬という方程式が、危ないんだよね。
なにせ、依存薬は他の物質に、混入できるんだから。」
「まぁ、そうですよね。」
「今回の話はホルモン、もっと言えば性行為だけど、あ〜〜〜。」
旦那様が左手で頭を掻く。
「イメージして欲しいんだけど、
①男性と性行為をします。
②翌日以降、体が疼いて疼いて仕方がなかったとしたら、どうしますか?」
「取り敢えず、原因を探します。」
「それで思い付くのが、男性か、男性との性行為なら?」
「当然、その原因の男性に会います。」
「③けど、会うだけじゃ変わりません。 体は疼いたままです。 どうします?」
旦那様の、悲しい表情。
「………その男性と、性行為を、する。でしょうね。
体が疼いているなら、極限状態だと思うので、まともな思考をしているとは思えませんので。」
「だよね。」
「ここで、質問するけど、」
「はい。」
「さっきの話を知らなかったら、自分が依存状態だと気付かないでしょ。
そしたら、体が疼く間、原因だと思う男性の事を考え続ける。 その思想と、恋心の違いって、ある?」
「………」
「恋をしている間、相手の事をずっと考える。 でしょ。
体が疼く間、原因だと思う相手の事をずっと考える。」
「違い、ある?」
旦那様の問に答えたくない。 何も言いたくない。
「しかも、その男性と又、性行為をした場合、体の疼きを治めてもらったら、どうなる?
その男性に、夢中になるやろうね。 相手がどんな最低の男だとしても、ね。
しかも、疼きを治めるために、相手の男性の言う事を、聞くようになるやろうな。 ドラマで、薬物依存者が売人の言う事を聞くように。」
「まぁ、確率は低いやろうけどね。」
「………何故ですか?」
「これも、依存の怖いところやけどね。」
「俺が思う、人間の、美点で欠点の1つは、【満足したら・飽きたら・慣れたら、次の段階を求める事】だと思う。」
「? どういう事ですか?」
「ゲームなどの娯楽や、美味しい食事は、満足するか飽きたら、今以上を求めるでしょ。」
「はい。」
「それは、他の事でも同じや。 勉強や仕事にスポーツ、その他諸々。」
「薬物依存者は、体が疼くから、薬を求める。
その時、前回薬を使った時に体験した快楽と、同等以上を求める。
ドラマや映画でも、見たこと有るでしょ?
そして、支払う金の量が増えていって、犯罪を犯すって、内容。」
「それと同じや。
性行為で依存状態になる⇒体が疼く⇒性行為をする。
その時、前回と同じ、ホルモンの分泌量なら、満たされない。」
全身の血の気が引いた。 寒い。体が震える。
「すると、どうなるか。
薬なら、一時的に体の疼きを治める為に、小買いするやろ。
なら、性行為なら?」
「………どっちみち、最悪ですね。」
「しかも、性感染症も有るから、」
「救いようがないですね。」
「そうやな。
そうやねんけど………、う〜〜〜ん。」
「!? もしかして、有るんですか? 救いの手が。」
「誰も提示してない、俺独自の考えなんだけどね。 それは、胸に留め置いてね。」
「はい。 解りました。」
「この世界に、自分の体内で生成した毒で、自分自身がやられる生物は、殆どいない。
だから、この依存物質も、耐性を付けれるんじゃないかと思うんだよね。」
「具体的には?」
「まず、【こういった現象が有る事を知る】。 今回俺が話したように。
2つ目、実体験。 どんな事でも、知識しかないのと、知識+実体験をしているじゃ、差が大きいからね。
だから、【実体験をして、理解する】。
3つ目、実体験を繰り返しての【慣れさせる】。」
「2つ目までは納得できますけど、3つ目は………、慣れますでしょうか?」
「どんな快楽でも、どんな苦痛でも、人間は、慣れる事が出来る生物だからね。 可能だと思う。」
「つまり、【知る・実体験・理解・慣れ】の4つで、耐性が得られれると思うんだよね。 俺は。」
「そして、これが今日、貴女を呼んだ理由。
まぁ、まだ全部、話してないけど、」
「つまり旦那様は将来的に、私に耐性を付けさせたいと?」
「そうや。 奥さんの身を守る為の情報は、共有しておきたかったからね。」
「ありがとうございます。 話してくださって。 まだ、実感は湧きませんが、知っておいて良かったと思います。」
「ですが、まだ話は終わってないんですよね?」
「そうや。 次に話すのは、それぞれのホルモンの内容についてや。」
「因みに、依存はホルモンだけじゃないんだよね。」
「なんですか?」
「におい。 性フェロモン、っていうんだけどね。」
「におい………」
「蜘蛛男の映画、見た事ないかな?
蜘蛛に噛まれた後に、人間の遺伝子の空いている所に、蜘蛛の遺伝子が嵌まったでしょ。
あんな感じで、遺伝子には隙間が有って、その隙間を埋める遺伝子を、俺らは本能的に探しているらしい。」
「っで、その探し方が、嗅覚探知、やねん。」
「におい。」
「体液を嗅いで、いい匂いか悪臭かで、探しているらしい。」
「………顔合わせでにおいを嗅がせたのは、」
「そういう事。」
「依存したらどうするんですか!!」
「この情報を知ったからそう思うだけで、知らなかったら、」
「貴女に恋をしていると、錯覚したでしょうね。」
「勿論。 そうなったら責任を取る。 貴女を不幸にさせない。 幸せにする為に努力もする。」
「……っく、そうですか。」
表情に悪意が無い。 何を言っても意味が無さそう。 結婚生活中は気を付けよう。 善意で何をされるか、わかったもんじゃない。