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Story.73―――帰還せし英雄

 ―――私の目の前まで、モルガンの放ったビームが迫る。超高密度の魔力の塊。当たれば死は免れないし、万が一生き残ったとしても魔力回路は焼き切れ、生涯魔術を扱うことはできなくなる。

 ……私の人生、その全てを終わらせる終末の咆哮が、眼前に迫っている。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い―――!

 死について、私は誰よりも慣れているはずだった。なぜなら一度死んでいるから。死という、不条理を一度体感しているから。

 だが、死の淵に再び立ってようやく気が付いた。私は、あのとき、諦めていたから、生を捨てられただけであって、死に慣れたわけじゃないということを。

 あの時は全てがどうでもよかった。けれど、今は違う。理想がある。もっと生きたい。今の生活も嫌いじゃないけど、できれば平穏に生きたい。

 ―――その全てを摘み取る鎌が、今、喉元まで迫っている。

 須臾の距離。


「! クロム!」少し後ろでニーナが手を伸ばす。


「クロム・アカシック!」少し横でフランソワがこちらに走り出す。


 しかし、もう、間に合わない……!

 ビームはもう、すぐそこまで来ている。死を覚悟した、その時だった。


「……っ、え?!」


 一瞬にして宙に浮く。誰かに、抱かれているような姿勢で跳躍する。

 寸前まで迫っていたビームがもはや遥か下方に。それは、おそらく私がさっきまで立っていた場所をすべて抉り取って、後ろの岩まで貫通している。

 そして、ニーナやフランソワよりもおそらく後方に着地する。

 誰だ?

 私はお姫様抱っこされている状態で瞑っていた眼を開け、助けてくれた人物の顔を見る。

 ―――はは。


「遅いよ、カナリアちゃん」

「すまない。少し野暮用が過ぎたね」


 赤いロングの髪の毛を、突風にさらして翻しながら、カナリアはそう言って少し微笑んだ。……どこか、一皮むけたような気がする。

 そこに、見覚えのある光が迫る。


「―――ッ! カナリアちゃん!」


 モルガンのビームが迫っていた。『守護魔術』を展開するも、「破壊」の原理から一瞬にして破壊される。カナリアに抱えられているので、身動きが取れない。


「避けて! 早く!」

「問題ない、クロム。私を信じろ」

「……!」


 その何の根拠もないような発言が、何か信頼性のあるような発言に聞こえた。

 その時、ビームが寸前まで迫る。

 しかし、そのビームは何かに拒絶されたかのように真っ二つに割れてしまった。しかし私には、ハッキリと見えた。それが、まるで()()()()()()()()かのように。純粋な、自由意志を持たない魔力が普通、このような挙動は示さない。相手の魔力を体内ならまだしも体外で扱うなんて常人には不可能だ。で、あるならば―――これは、〝世界〟が「そうあれかし」と定めた、原理!


「流石だね、カナリアちゃん」

「だから言っただろう? 私を信じろと。君を傷つける行動を、私が起こすはずがない」

「確かに!」


 私はカナリアの腕から降り、地に足をつける。すると、ニーナが駆け寄ってきた。


「クロム! 無事でよかった!」

「ありがと、ニーナ。フランソワも、少しタイミングズレたけど『守護魔術』張ってたでしょ? 助かった」

「……別に、無事だったならばそれでいい」


 あら、フランソワはツンデレなのかしら。


「まぁ、こんなことはもう良いだろう。それよりもカナリア・エクソス。やっと来たな。これでようやく、モルガンを倒す算段が付いた」

「ふむ。私が最後のピースだったとは。遅れてすまなかった」

「いや、いい。謝罪の意は言葉ではなく行動で示してもらおう。それが、騎士というものだろう? 剣術科主席」

「……確かにその通りだ。礼節を重んじる、それが騎士だ。それを最も如実に表すのが、行動であると師匠からも学んだ」

「よし、ならば吾輩の計画、全てその脳に叩き込め。それでチャラだ」


 フランソワは結界を周囲に展開して、それにニーナが隠密の魔術を付与した。さすがは暗殺教団の長。隠密が私とは比にならないほど洗練されている。

 そこで、フランソワは空中に魔力で作ったホログラムを浮かばせ、それを指さしながら計画の説明を始める。


「良いか? 二度は言わん。一度で覚えろ」


 そう言ってホログラムの大きい一つのチェスのクイーンと小さな三つのポーン、そして中くらいのナイトをそれぞれ指さして言う。


「まずこの一番大きいのがモルガン。そして三つある小さいのが吾輩、ニーナ・サッバーフ、クロム・アカシック。最後に中くらいのものがカナリア・エクソスだ。この駒の大きさは全て通常攻撃の重さを基準としている。

 では計画を説明する。

 まず、カナリア・エクソスにはモルガンの近くまで移動してもらう」


 フランソワはナイトをクイーンに近づける。しかし、カナリアは何か訝しむ点があったのか、疑問の言葉を発する。


「それだけか?」

「そんなわけないだろう」


 フランソワが否定する。そして、ポーンを一つ、ナイトにくっつける。


「ん?」

「この移動したポーンはクロム・アカシック、貴様だ。カナリア・エクソスには、クロム・アカシックを護衛しながらモルガンへ接近してもらう。そしてクロム・アカシックはその間、近くで先ほどの能力(スキル)を発動させ続けろ。それで、モルガンの体力を奪う」

「ちょっと待って! 私、前線出るの?」

「何をふざけている。それぐらいしろ。こっちはこっちで大変なんだ。それかなんだ? これより良い案が思いついているのか?」


 うぐっ、いたい。火の玉ストレートがみぞおちに入ったような、まさに図星!


「いえ、それは……」

「なら口をはさむな。続き行くぞ。

 ―――そして、その前線が活躍しているときに、後衛にいる吾輩とニーナ・サッバーフはある準備をする」

「準備って、なにする気?」

「ふっふっふ……」


 フランソワはあくどい笑みを浮かべながら、かけている眼鏡を反射でぎらつかせる。なんだ、そのどこぞの名探偵が何かに気付いたときみたいな顔は。


「聞いて驚け! それはな、ある人物の降霊だ!」

「そのある人物って誰なの? ある程度の霊なら詠唱なしで操れるあんたがそこまで言うんだったら、さぞ大物なのよね」

「その通りだ! その人物とは、ズバリ! ―――〝承伝の騎士王〟アーサー・ペンドラゴンだ」


 その言葉にぎょっとする。


「あ、アーサー?!」

「ふっはははっはははは! いいリアクションだ。そう、このモルガンを討伐するためには、アーサー王の力が必要不可欠。〈キャメロット王城〉で資料や『円卓の騎士』から情報を仕入れて得たある過去の事案では、モルガンは一度アーサー王に敗北している。それはなぜかわかるか?」

「うーん……なんかの魔術的作用、とか」

「違う。全然違う。なにもわかっちゃいない! アーサー王が手にしていた聖剣―――〝純聖剣〟求めるは絶対の勝利(エクスカリバー)が、勝負の決め手となった。この〝純聖剣〟求めるは絶対の勝利(エクスカリバー)は、いわば世界自らが起こした不具合を処理するための強制装置。暴走したモルガンを止める、最後の希望である」


 フランソワが、〝純聖剣〟求めるは絶対の勝利(エクスカリバー)があればモルガンにも対処可能だと、そう言う。

 しかし、こちらは〝純聖剣〟求めるは絶対の勝利(エクスカリバー)を持っていない。そんな机上の空論を語っても無駄なのではないだろうか。


「今、〝純聖剣〟求めるは絶対の勝利(エクスカリバー)ないのに何を言っている、と思ったなクロム・アカシック」

「げ、なんでわかるんだよ」

「当然だ。吾輩にできないことなどない。しかし貴様の疑問も確かにその通りといえよう。だが、貴様はこの旅で得た最大の学びを忘れている」

「……何さ、それ」

「それは―――『逆説の法則』による〝越聖の閂〟の顕現だ」


 その言葉に、私はハッとする。


「確かに……! 『逆説の法則』を利用すれば、アーサー王が持っていた〝純聖剣〟求めるは絶対の勝利(エクスカリバー)がなくても、アーサー王が降霊したカナリアちゃんが剣を振るえば同じ結果が得られる!」

「ほう。私には、あまり複雑な魔術理論はさっぱりだが、そのようなことが起きるのか。クー・フーリン殿がやったことを、そのまま真似すればいいということか」

「そういうことだ。理解が早くて結構」


 そう言うと、フランソワが立ち上がる。


「これで説明は終わりだ。全員、頭に叩き込んだな?」


 その場にいるフランソワを除く全員がうなずく。


「よし、では始めよう。―――ブリテン島、最後の戦いだ!」

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