Story.72―――モルガン最終戦、開戦
「ふっはっはっは! 『終末の心臓炉心』が停止したようだぞ、諸君!」
「フランソワ、うるさい」
「何っ?!」
後方で待機していた私たちに、〝誑かす虚像を覗く者〟を身につけたフランソワが、モルガンの心臓である『終末の心臓炉心』が停止したことを伝える。それと同時にニーナに小突かれる。哀れ。
「ま、まぁ取り合えずそれは良いことだね。……ってことは私たちの出番?」
「そのとおりである! 我々は今から、モルガン・ル・フェイの首を討ちとりにいかねばならない! と、言うわけで弱っている今、遠距離でチョコチョコと奴の耐久力を削っていかねばならぬ」
「なんで?」
「この理由をわからぬとは、愚者め! まぁいい。その答えとしてはまぁ、素としての再生を阻害するためだ。奴は生物としての格が我々とは違う。特殊な攻撃や時空間に干渉する現象など以外では一瞬にして再生されるだろう。それはカナリア・エクソスの斬撃や吾輩が考えている最高の攻撃でも一瞬で再生されてしまう。そのために、残っている耐久力を削っていく」
なるほど、と私はうなずく。確かに、モルガンはもはや妖精という枠にとらわれてはいない。妖精、というよりも神霊、もしくは神そのものと言える。もう何をしても絶対に傷一つつかない、というようなスゴ味を感じるッ!
「では開始しよう! 全員で撃ちまくれ!」
そうして私たちは魔術や呪術をモルガンに向けて撃ち込んでいく。極大魔術や『第六呪・渾天儀』をところどころ入れてみるも、当たった瞬間から再生されていて効いているのかどうかもわからない。
だが、私が撃った攻撃だけは少し再生が遅れているのはどうしてだろうか。今は全然〝源古刀〟九字斬刻兼定も抜いていない。神秘に攻撃する系の魔術も発動していない。そもそも習得すらしていないはずだ。
「……やっぱり、硬い!」
「それはそうだろう、ニーナ・サッバーフ。奴は吾輩たちとは違う次元にいる生物なのだ。古来より形を変えて語り継がれてきた終末、それそのもの。あるときは神々の争い、ある者たちにとっては天の最終審判とされてきた最強の恐怖。
唯一理解できるのは、奴は未だ妖精や精霊の類の枠にとどまっているということだけ。本当ならばこのようにチマチマと耐久力を削るよりも一発、妖精の力を封じるような魔術や能力があればよいのだが―――そんな都合のいいものなど、持っていないし、まだ習得できる段階に吾輩たちはいないのだ」
そう、〝誑かす虚像を覗く者〟を身に着けてイラつく話し方になったフランソワが語る。モルガンってそんな奴だったのか。めっちゃでかい妖精ぐらいにしか認識してなかったけど、終末そのものって。やばない?
しかし私はそのセリフの中に違和感―――否、既聴感を見出す。
〝妖精の力を封じるような魔術や能力〟―――そこに、私は「ん?」ってなった。よし、よく思い出してみよう。私の能力を。
確かサターン神父ことランスロットは私に入学式の時にこう言っていた気がする。
『……君、これは冗談が過ぎるというものだ。まさか精霊に祝福されながら、精霊を敵に回すような能力―――異端にも程がある、というものです。―――恐れ多くも、その名を言いましょう! 君の能力は―――「霊封抑止執行者」。それは、霊体や魔力を拠り所とする生命や術に対して、あらゆる封印とその解除を行う……精霊と妖精が、最も恐れる能力です』
……確定だ。
「あの……」
私はおずおずと手を上げる。
「何だ、クロム・アカシック。そんな手を上げている暇があったら魔術を撃ち込め。それとも厠か? それなら諦めろ、今はそんな時じゃ……」
「いやちょい聞いてや。……その、私―――妖精に特攻の能力持っているかもしれない」
その言葉を聞いたとき、フランソワが固まる。
「え? いや、え? は? なに? 持ってる? 何を?」
「妖精特攻」
「―――先に言えよコンチクショー! 僕らが撃ちに撃ちまくったあの魔術は一体……」
おっとフランソワが素の口調に戻るほど衝撃的だったようだ。彼はがっくりとうなだれ、地面に膝をついている。
しばらくするとすっくと立ちあがり、私に振り返って言う。
「よし、疾く発動せよ。吾輩は今、そうとう頭にきている。とりあえず何でもいいから速くせよ!」
「りょ、了解!」
フランソワに涙目で叱責されると、なんか悪いことをしている気分になってしまったのでさっさと能力を発動することにする。
―――私は目を閉じ、初めて発動する能力に思いをはせながら、魔力回路を開く。
「―――魔力回路、接続。魔力注入……!」
私は心のもっと奥、自分を形作っている「我」に根付いている何かに集中し、魔力回路を接続するイメージをする。すると、少し肩が軽くなり、縛っていた何かを開放した気がする。
続いてその何か―――能力に魔力を注入する。……おえっ! これは久々に感じる感覚! 魔力回路の中を異物が駆け巡る感覚。最近は感じないと思っていたが、それは慣れていただけだったのか……。う、意識するとめっちゃ気持ち悪い。これを魔術世界では「生まれたばかりの小鹿状態」というらしい。無駄に茶目っ気出すのやめてほしいんやけど!
「ふぅ……よし! 能力、『霊封抑止執行者』発動。対象設定、対象:モルガン・ル・フェイ!」
そして気持ち悪さが退くと、私は『霊封抑止執行者』を発動させる。すると一瞬、モルガンは動きを止めるも、それを継続させることはできなかった。
「なら、もうちょっと出力強めで行くか!」
もう一度、私は魂に根付いた『霊封抑止執行者』に接続している魔力回路に意識を向ける。流れている異物である魔力を呪力に切り替える。こちらは先ほどとは違って「生まれたばかりの小鹿状態」にはならなかった。よかった。
十三倍に濃縮された魔力が、一気に『霊封抑止執行者』に流れ込み、先ほどとは文字通りけた違いな出力でモルガンに襲い掛かる。
「出力最大……『霊封抑止執行者―――十三梯』!」
私の魔力回路から伸びる幻想を縛る仮想の鎖は、先ほどのどこまでも無色透明なガラスのような色合いから一変、血液のような赤黒い色へと染まっていく。それは、魔力ではなく呪力が流れ込んでいるという証明。十三倍にも圧縮された魔力が、次々と雪崩のように入っていく。
「くぅ……! 縛り上げ……ろっ!」
『霊封抑止執行者―――十三梯』の象徴である鎖がモルガンに巻き付くほどに増していく抵抗を、気合で押し切って鎖を締め上げる。すると、鎖で縛りあげると同時に、私の魔力回路に膨大な魔力が入り込む。一気に失った分の呪力すら補充され、魔力回路が悲鳴を上げる。
「! これは……モルガンの魔力か!」
鎖を通して、モルガンの魔力が絶え間なく魔力回路に流れ込む。それはつまり、術の使用をやめればその場で魔力暴走によって死に至る、ということに他ならない。私はより集中して『霊封抑止執行者―――十三梯』の制御と魔力の循環を心がける。だってそうしないと死ぬってコトでしょ!?
「ねぇクロム、大丈夫?」
「大丈夫じゃ、ないけど、今集中してるから、話し、かけないで……!」
ニーナの心配の声すら、今は雑音。邪魔にしかならない。―――もっと、もっと! 速く回せ! 魔力は術に、思考は手綱に。締め上げろ、締め上げろ、締め上げろ、締め上げろ―――!
鎖が、さらに強化される。それに比例して、モルガンから受ける抵抗も強まる。それでも、私は締め上げる腕をやめない。
さらに強く、さらに速く! もっと馴染め、私の魂! 抑えろ、制御しろ!
「―――自分の、能力だろ!」
そう強く叫んだとき、魂の奥底、根付いている能力の脈が、どくん、と鼓動した。もちろん、本当に感じたわけじゃない。けど、私には、不思議とそう思えた。
脈が鼓動したことで、初めて能力は目を覚ます。産声を上げる。産声を上げて、蕾を開き、花弁を散らせ、実を結ぶ。―――至った。
〝世界〟と思わしき者の声が、初めてはっきりと聞こえた。
〝能力開花、其被呼異能『幻想封印』也〟
―――能力は開花した。それは異能『幻想封印』とよばるるなり。
ざっと訳すならこんなものだろう。つまり、私の能力である『霊封抑止執行者』は、たった今、異能『幻想封印』へと進化したということである。
それが原因なのか、鎖はさらにきつく締まり、モルガンの体をすり抜けた。
そして、私が締め上げると、それはがっちりと締まり、遂にモルガンの魂を捕らえた。
「やった!」
「おぉ! 周囲の魔力濃度が下がっていく!」
それに呼応するかのように、モルガンから発されていた膨大な魔力が、プレッシャーが、減少する。
「よし、今のうちに『守護魔術』を―――」
そう、思った時だった。
モルガンは、私に向かって魔力を放出した。先ほどのビームのようなものだ。とっさに腰から〝反聖剣〟『不壊』の原理を構えて『是、死すること勿れ』を発動させる。
両刀で受け止めるが、その威力は減衰しない。それどころか。
―――〝反聖剣〟『不壊』の原理が、木っ端みじんに砕け散った。
「は?」
〝反聖剣〟『不壊』の原理はその名の通り壊れることがない。なぜならば「そうあれかし」と〝世界〟に定められたからである。ならば、これを破壊するのにはどうするのが良いか。
答えは単純。「破壊」という原理を持ち合わせていればよいのである。
即ち―――
「モルガンの攻撃には、全て『破壊』の原理が付与されているということか!」
そう言ったとき、再度、私に向かってビームが飛んできた。




