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Story.71―――心臓、決壊。

「―――任せよ、人間。ここからは〝白射手の騎士〟……いや、〝終末の騎士〟トリスタンがお相手しよう」


 以前のものとは違い、金色と黒色という配色になったトリスタンが、マントを翻しながら言う。髪は金色で、そこに白色のメッシュが入っており、額にはバイザーと思わしき黒色の長方形の物体が、堂々と鎮座していた。

 黒色の軍服に金と赤を基調としたマントを羽織っており、その姿はまるで負けなしの将校の様であった。黒と金の、狂気をたぎらせた双眸(オッドアイ)。それは、まっすぐとモルガンの心臓を狙っていた。


「んで、あんたはなんでそんな姿になってるんだ?」

「……少々込み入った事情なの。この局面が終わったら語ってあげる。今は、目の前の相手に集中しなさい、ニコラ・フラメル」

「へいへい……わかってるっての」

「あ、あとこれ」

「ん? なんだ?」


 トリスタンは手に持っていた青いキューブ状の物体をニコラ・フラメルに渡す。その物体を見て、ニコラ・フラメルは不思議そうにつぶやく。


「これ、魔術結晶か?」

「そう」

「一体何の?」

「―――それは開けてからのお楽しみよ。絶対に役に立つわ。保証する」

「へぇ……そこまでとは。期待して開けてみるか」


 ニコラ・フラメルはその魔術結晶を開ける。魔術結晶とは、魔力で編まれたな情報媒体のようなもので、複雑な魔術を他者へ譲渡するために必要なものである。

 そして、その魔術結晶を開けたニコラ・フラメルは不敵な笑みを浮かべる。


「なるほど……たしかにこれは有用だ」

「でしょ? それじゃあ、私先にぶち抜いとくから。あと頼んだわよ」

「おう。任せろ」


 トリスタンはニコラ・フラメルから視線を外すと、バイザーを装着して弓を構える。そして、(ゆみ)に指をかけると、それを勢いよくはじいた。

 〝矢〟が射出される。そのとき、今にも消え入りそうな声で、空間に響く声があった。


 ―――〝直進せよ〟


 その命令通り、〝矢〟が直進する。モルガンの魔力層を、時空穿孔によって強制的に貫いていく。しかし、それの威力も減衰し、モルガンの肉体にたどり着く寸前に消える。それを契機に、モルガンの魔力層も徐々に回復していく。


「やはりダメか。まぁ、想定内。撃ち続ければ良き。さぁ、どこまで耐えられる―――モルガン・ル・フェイ……いや、王妃!」


 ―――〝歪曲せよ〟

 ―――〝砕けろ〟

 ―――〝爆ぜよ〟

 ―――〝散れ〟

 ―――〝交差せよ〟


 あらゆる命令での狙撃の後、その瞬間は訪れる。七弦あるうちの最後の一弦。元は太陽の神殿を開くための鍵。されど今は―――終末を告げる、最期の喇叭である。

 ビィィ――――――ン―――!

 と、弦が震える。本来ならば、空気の振動で自動的に詠唱されるが、今回の制約のため、口頭での詠唱が行われる。


「―――その嘆き、無間なり。悲劇は悲劇。〝幾星霜〟の時を超えようと、喜劇に代わることはなく。

 あらゆる破滅を、この一射に傾ける。

 八百万の嘆き、無数の死の上に立つ。我は支配者に非ず。その支配を(おわら)すもの。

 解放するは我が弓、神が力。ここに幕引きを命ず。

 ―――〝終聖弓〟『終末』の原理フェイルノート・アポリオン!」


 〝終聖弓〟『終末』の原理フェイルノート・アポリオン。それは、〝悲聖弓〟『喜劇』の原理(フェイルノート)の素材となった竪琴の持ち主、太陽神アポロンの反転した姿である悪魔アポリオンの力を宿した〝原理保有武装(ユニークウェポン)〟。アポロンが朝日によって始まりを告げる神なのだとしたら、反転したアポリオンはその逆。圧倒的なまでの闇で世界の終焉を告げる悪魔である。

 そんなアポリオンの権能は『時空蝗喰』。時空そのものを喰らう権能。本来ならば世界をすべて喰らい尽くすほどの範囲であるその権能を、〝原理保有武装(ユニークウェポン)〟とすることで範囲を狭めた。それすなわち、〝終聖弓〟『終末』の原理フェイルノート・アポリオンの〝矢〟が当たった場所は、強制的に孔となる。しかも、これは〝世界〟から感知されるまで時間がかかるので、通常の〝矢〟よりも長く時空穿孔を保持できることになる。

 それは、どのような条件であろうと変わらない。たとえ、モルガン・ル・フェイという魔力の塊のような存在がまとう魔力層であっても、穿孔する。


「開けぇぇぇぇ!」


 トリスタンがそう叫ぶと、それに応えるかのように、モルガンの魔力層に孔が開いた。それはとても小さい―――弓矢や槍が一本入るか入らないか、というほどの小さい孔であったが、それは大した問題ではない。なぜならば……


「あとは任せた、ニコラ・フラメル……。私はもう、魔力切れ、だ……」

「―――ああ、任された。行くぜ、こっからは俺の独壇場だ!」


 帝国一の狙撃手が、あのような孔に弾を通すことができないわけがないのだから。


「さてと、やりますか……接続詠唱―――固有接続(セット)錬金創造開始(ターン・オン)所有武器認識(リコニション)―――〝魔弾の射手(ザミエル)〟。魔術起動(スタート)固有魔術接続(コネクト)―――『錬金創造アルケミス・クリエイト』、接続完了(コンプリート)―――」


 普通ならば、ここで止まる詠唱に、もう一節付け足す。


「―――『錬金創造アルケミス・クリエイト』、魔術結晶開封(サウイング)情報抽出(インストール)情報抽出終了(エンド)―――

 『錬金創造アルケミス・クリエイト』、『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』!」


 〝魔弾の射手(ザミエル)〟の銃口の先端に浮かび上がった魔術式から、ズズズッ……と朱い槍が形成されていく。

 それは、〈神聖郷ケルト〉の門番である神霊、クー・フーリンの持つ一撃必殺の槍。『木花咲耶姫』の最高位の結界である『幽離結界』の外殻を破壊するほどの威力を誇り、その性質上、どのような過程であろうと、絶対に敵を逃さず命中する。それはもはや権能と言ってもよく、〝幾星霜〟の時代に存在した神獣・クリードの持っていた微かな神秘の残滓から形成された新たな権能と言えよう。


「確かに有用だな、こいつは! これが最後の錬金でよかった……もうこれ以上の魔力はないからな。

 ―――射殺せ、〝魔弾の射手(ザミエル)〟!」


 最後の詠唱を終え、〝魔弾の射手(ザミエル)〟から銃弾が射出されるとともに、『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』も勢いよく射出される。

 その弾道は、しっかりと〝終聖弓〟『終末』の原理フェイルノート・アポリオンが作った小さな時空穿孔を通り―――モルガンの心臓へ到達する。

 モルガンの心臓である『終末の心臓炉心(ブラッド・ル・フェイ)』に到達すると、ニコラ・フラメルの口が勝手に動く。


「……ッ! げ……『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』―――特殊形態(モード)移行(チェンジ)―――五一天月・(サミヒテンダー・)天河雨流(ミルキーウェイ)……! ッは、さっきの魔術結晶にプログラムされていたのか!」


 その詠唱の後、『終末の心臓炉心(ブラッド・ル・フェイ)』の内部で、『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』が三十の棘となって破裂する。

 そして『終末の心臓炉心(ブラッド・ル・フェイ)』が、完全に機能停止に追い込まれていく。


『GHAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』


 モルガンの断末魔が響き渡る。反撃があるかと思ったが、モルガンは主力の魔力炉心である『終末の心臓炉心(ブラッド・ル・フェイ)』が破壊されたのか、意識を脊椎を狙う者たちへ向ける。

 反撃がないことを察したニコラ・フラメルは安堵と魔力切れで座り込む。高台が幸いしたのか、そこには龍泥がなかった。


「はー……やったな、トリスタン」

「そうね、ニコラ・フラメル」

「それで、トリスタン。なんであんたそんな姿になってるんだ?」

「ああ、それ聞いちゃう? まぁ、これを持ち出すために必要だったのよ」


 そう言ってトリスタンは〝終聖弓〟『終末』の原理フェイルノート・アポリオンをさす。


「〝終聖弓〟『終末』の原理フェイルノート・アポリオンは〝悲聖弓〟『喜劇』の原理(フェイルノート)を反転させたもの。この〝悲聖弓〟『喜劇』の原理(フェイルノート)は持ち主の存在に影響される。私は基本喜怒哀楽の哀で魔力を回してるから〝悲聖弓〟『喜劇』の原理(フェイルノート)だけど、今は頑張って怒で回していたの。もともと反転しやすい体質だから、簡単だったけどね」

「……普通に言っているが感情で魔力の流れを変えて存在を反転させるなんて技、できないからな。俺でもできない」

「そうなの……ふふっ」

「……なにがおかしい?」

「いえ、私に勝ったあなたにもできないことがあったんだなって」


 風を感じながら、二人は語る。

 心臓は決壊した。もう空間を揺らす鼓動は、ない。

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