Story.68―――モルガン討伐作戦、開始/視点・翅 その①
「……よし、彼までそろったということは、これからの作戦を始めることができるというわけだ」
私の身体に憑依しているマーリンが、ようやくと言った感じにしゃべる。
ここは〈キャメロット王城〉。〈文明異界領ロンドン〉の中央にある〈アナザー・トラファルガー〉でマーリンから作戦の要と称されていたオーベロンを見つけた私たちは、協力してくれるオーベロンを連れて一旦拠点としている〈キャメロット王城〉に帰ってきたのである。
「それにしても、本当にマーリンが憑依できるなんて。その子、なにかの器だったり?」
「それは言えない。私の立場上な」
「ケチ」
「ぶー」とオーベロンが頬を膨らませてマーリンに抗議する。やはり言えないのか、私が〝世界〟の器だっていうことは。まぁ私もよくわかってないんだけどね!
そうしてオーベロンへの説明も終わると、マーリンは作戦の采配を開始する。
「では作戦の詳細を伝えよう。
まず前にも話した通りモルガンの弱点は主に三つ。翅、心臓、脳髄。それぞれの部位を破壊する班に分かれてもらう。
まず、翅はモルガンの周囲に『妖精結界』を展開している。ここを破壊しないことには討伐作戦自体始まることはない。ここにはオーベロンと妖精の魔力出力を大幅に底上げできる聖人の三人をここに配置する」
マーリンはノア、シュトロハイム、ミッシェルを順々に見る。それぞれ納得したように首を縦に振っている。
「次に心臓。ここはモルガンの体を構成している魔力が絶え間なく生み出されている『終末の心臓炉心』だ。これはペンドラゴン家の家宝である〝神代の遺物〟の一種、〝古龍の炉心〟と同等の魔力生成量がある。ここを叩けば、すぐにでもモルガンの攻撃力・防御力共に落とすことができる。
ここにはニコラ・フラメル。君一人だけでいいだろう」
「おい、ちょっと待てよ。そりゃあ不公平ってもんじゃねえのか?」
「安心しろ。君にはとっておきの助っ人を用意しておく」
ニコラ先生は「はぁ~っ……」とため息をつきながら顔を手で覆って階段の上に座り込む。ストレスで胃に穴が開きそうだね、先生。
「最後に脳髄。ここは正確に言えば脳髄ではなくその少し下に位置する脊椎―――つまり首を切り落とせば勝ち、ということ。ここを落とせばモルガンは自分の存在が証明できなくなって本当の終末が来るまで〈理想郷アヴァロン〉で眠り続けることになる。
ここにはニーナ・サッバーフ、フランソワ・カリオストロ、私の依り代であるクロム・アカシック、そして後に帰還してくるであろうカナリア・エクソス。この四人で攻略してもらう」
ニーナとフランソワが互いに顔を見合わせてぎょっと驚いたような顔をする。
「え、僕たち?」「私たち?」
「そう。君たちだ。私の計算上、君たちが最後の仕上げをするのに必要になる。
また、アリス・アーゾット・パラケルスス。君は後方支援の要だ。負傷者が出た場合直ちに現場に急行して回復魔術を施せ」
「は、はい!」
マーリンはそう言い終わると、少し気配が薄くなる。
おそらく魔術に使った魔力が切れかけているのだろう。徐々に身体の支配権が私に戻りつつあるのを感じる。
「ふむ。私はどうやらここで退去らしい。では諸君、モルガン討伐作戦頑張ってくれよ」
その言葉を最後に、マーリンが退去する。
身体の支配権が移り変わった衝撃で、私は前みたいに倒れ込んでしまう。
「……っは!」
「クロム、大丈夫?」
「……うん、大丈夫。ありがとう、ニーナ。―――それじゃあ、先生」
「ああ。わかっている」
ニコラ先生は咳払いをして、高々と告げる。
「では、これよりモルガン討伐作戦を開始する! 全員、先ほどマーリンが指示した班に分かれろ。ここからの戦い、本土からの援軍は期待できないし、俺たち以上の戦力もこの島にはない。ここで俺たちが、あの災厄を食い止める!」
『はい!』「おっけ~」
「では全員、出撃!」
バッ、とニコラ先生は手を前に出して出撃の合図をする。それと同時に、私たちの―――ブリテン島での最後の戦いは幕を開けたのである。
―――〈人妖協同戦線ロンディニウム・キャメロット〉、それを取り囲む城壁の上に、四人の人影があった。
一人は浮いており、どことなくろくでなしの雰囲気を感じる。
そして残る三人はどこか神聖さを感じる気配を残しているが、そのうちの一人は禍々しい気配を、その神々しさを上回るほどに迸らさせている。
「ほんで、上方らは何をすればええの?」
「今は待機だよ。こちらの術式の起動が終わったら合図を出すから、君たちが持っている魔力を、現れた術式に流し込んでくれ」
「わかった。どんなことをするのかはわからないが、まぁ取り合えずやればいいんだろ?」
「ああ、頼んだよ。それじゃあ、術を起動する準備をする。
―――出てきていいよ、ニア」
オーベロンがそう言うと、何もないはずの空間から歪みが生じ、そこからおおよそ八歳を超えたぐらいの外見をした少女が現れた。彼女もまた、オーベロンと同じく翅をもち、白く銀色を帯びた神秘的な髪をハーフアップにしている。
その少女がオーベロンに「ニア」と呼ばれていた存在だと気づくのに、そう時間はいらなかった。
「人前で愛称で呼ばないで。初めて会った人にはそう認知されてしまうでしょう?」
「悪い悪い。君たちにも紹介しとこうかな。彼女が朕の伴侶にして化身の―――」
「ティターニアよ。よろしく、若い人たち」
―――そこまで聞いて、ノアは気づいてしまった。
オーベロンが、目の前の少女を自分の伴侶呼ばわりしていたことを。それすなわち―――
「て、てめぇ! ロリコンか?! ロリコンなのか?!」
「ちょ、誤解だ! 朕は別に幼い女児に発情するような変態じゃない! あんなやつらと一緒にするな! しかもニアは朕より年下とはいえもう百は優に超えて―――」
その時。
「……! 後ろ!」
「え?」
遥か前方に立っている、それまではただ龍泥を吐き出し続けるだけだったモルガンが、オーベロンの気配に気づいたのか高濃度の魔力放射を行う。その魔力濃度だけで道中にあった龍泥が消し飛び、その下に隠れていた生気のない草花も完全に生き返る機会を失った。
そして―――その魔力で構成されたビームがオーベロンとティターニアのいるところに直撃する。その衝撃は、〈人妖協同戦線ロンディニウム・キャメロット〉をぐるりと取り囲む結界全体を揺らし、ロンディニウムで建造されている城壁の一部を破壊した。もしロンディニウムが魔力を吸収し、蓄える性質が無ければ〈人妖協同戦線ロンディニウム・キャメロット〉の城壁はすべて崩壊し、龍泥が流れ込んでいたことだろう。
そんなビームが直撃した場所を、その場にいた三人は信じられないと言った具合で見つめていた。
なぜならそこには―――
「危ないなぁ。実の息子に向かってなんたる仕打ち! 母さんとは言え、許しては置けないな」
「ウソだろ……」
平然と、何事もなかったかのように立っているオーベロンとティターニアがいたのだから。
ノアが驚愕しているところで、ミッシェルがよく目を凝らすと、オーベロンの周りには多くの妖精や精霊の魔力反応が確認できた。
(なるほど。自然発生した精霊や妖精の魔力を使ってあのビームに対抗できる結界を張った。恐らく彼の能力は―――)
「ええ……はい……妖精や精霊を操ることができる能力、ですか」
「お、せいかーい。朕がこの術を使って母さんを叩くから、君たちにはこれの威力向上をしてもらいたい」
「なるほどな、やることはわかった。後のことは任せてや」
「了解だ。タイミングになったら言ってくれ」
その言葉を聞いて、オーベロンは笑みを浮かべる。
「ああ、安心した。んじゃ、早速やろうか。―――ティターニア、準備するよ」
「わかったわよ、急かさないで、オーベロン」
ティターニアはオーベロンの腕に抱かれると、目の色が変わり、呪文を唱え始める。
「呪文詠唱―――能力範囲拡大のため、キャラクターシークェンス『ティターニア』を停止。聖霊執行権の譲渡を開始。対象:オーベロン―――」
「……ありがとう、ニア。―――妖精の祖にして女王、モルガン・ル・フェイの御子、〈妖精郷ブリテン〉を統べる者、オーベロンの名において告ぐ。〈ブリテン〉に住まう全妖精、全精霊は、朕に魔力を譲渡せよ。これは命令である! 従え―――【聖霊執行・妖精女王】!」




