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Story.54―――呪術と血盟《Curse V.S. Geis》

「―――この方が、この〈神聖郷ケルト〉を統べる正当なる神霊の後継者にして、極寒の女王―――スカアハ様だ」


 そこにいたのは、傾国の美女であった。

 青みがかった黒髪が、冷風に吹かれ、たなびく。

 白を基調としたスタイリッシュなドレスが、氷とよく溶け合い、異常なまでのマッチングを果たしている。

 クー・フーリンの身につけている黄金の胸当てとよく似た意匠の王冠を身に着け、足を組みながら氷でできた玉座に座っている。

 しかも、あのクー・フーリンと同列かそれ以上の魔力を立ち上らせており、それだけでこのスカアハという女がどれだけの実力者なのかを物語っている。

 そして、そこから数人のメンバーは気がついた。これが―――


(―――神霊、神、というモノ―――!)


 彼らは今は知る由もないが、人類や魔族よりも先に存在していた霊長。〝世界〟が設定した限界値によりこの世界の隅へと追いやられてしまった古の支配者―――それが、神霊である。

 無論、その存在自体が誇る力は、人類で言う聖人や魔族で言う〝魔祖十三傑〟の三人分に相当する。また、聖人や〝魔祖十三傑〟の持つ魔力量は一般の個体のおよそ二十倍であるため、それを加味すると神霊とまともに魔術戦をしようとすると、一般人六十人が必要である。

 また、彼らは独自の戦闘方法や人体では不可能な動きが可能であるので、神霊と戦うとなればそれこそ一国が総力を上げて戦うしかない。―――そんな生物である。

 だがしかし、探索チームは今よりも酷い絶望を、この後に受けることとなる。


「……お前ら、ようやく気がついたのか」


 クー・フーリンが、探索チームの心を見透かしたように言う。

 そしてクー・フーリンの口から放たれた言葉は―――


「だけどよ、今の私やスカアハ様はあくまでも〝神霊〟だ。〝神〟そのものじゃない。神の魂―――それが神霊ってもんだ。完全体の私達は今よりももっと強いぜ」


 ―――今のクー・フーリンやスカアハが、完全体ではないということだ。

 完全体でなくても、この魔力量。

 勝てない。

 そう、探索チームは思った。そして同時に―――

 敵対すれば死は免れない、とも。

 そこで、ニコラ・フラメルが話を切り出す。


「……それで? 先程の話に戻ろうと思うのだが」

「おおっと、そうだったな。忘れてたぜ」

「ちょ、クー・フーリン、あなた何勝手に人類と話をしようとしているのよ。こういうのは私の指示を仰ぐものじゃないの?」

「でもスカアハ様、人と喋れないじゃないっすか」

「はあ? できますけど?」

「じゃあやってみてくださいよ」

「はあ? なんでよ」


 それから少しばかり喧嘩が始まった。

 やいのやいのと、少し騒がしい。

 そして、やがてその喧嘩は収まり、ふぅ、とクー・フーリンはため息を吐く。


「いや、すまんな。少し喧嘩になっちまった。で? 先程の話ってのは―――アレのことだろう? 望みはなにか、ってやつ」

「ああ。あの質問に対する回答を言いたい」

「何だ?」

「……俺達は、仲間を救いたい。〝魔祖十三傑〟第十二座―――『木花咲耶姫』にさらわれたクロム・アカシックという名の少女だ。はっきり言って無事ではあると思うが……それでも、一刻も早く俺達はアイツを助けたい」

「だから協力しろと?」

「―――恥ずかしながらそうだ。今の俺達では、あの〝魔祖十三傑〟を相手取る自信がない」


 しかし、その言葉にクー・フーリンは疑念の念を込めて目を細めた。


「……お前、アレに勝てるだろう? 私に頼る必要もないんじゃないか」

「俺は全力を出せない。だから、今の最高戦力は、俺ではなく―――このカナリア・エクソスだ」

「ふぅん……つまんないやつだな、お前。だけどま、カナリア・エクソスとか言ったか? お前なら、私が協力しても良さそうだ。なんたって―――英雄の素質がある」

「私が、英雄?」

「ああ。私はお前に直接協力はしない。お前は英雄になるべき女だからだ。英雄になるならば、魔性のものぐらい一人で相手取れ。怪物を打ちのめしてこそ、人は英雄と呼ぶからだ」


 彼女は持論を語り、そして槍を突き出す。

 神々しく輝く白銀と血朱の槍。

 唐突に突き出されたそれを見て、カナリア・エクソスは戸惑う。


「……これは?」

「だから、直接協力はしねえっつただろ。だから―――私は、この至宝を預ける。スカアハ様からたまわった一撃必殺の槍―――『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』。使い方は感じろ。考えるんじゃない。多分、お前らにこれの理屈なんかわかりやしないさ」


 カナリア・エクソスは、それ以上何も言わず、『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』の柄を握る。神々しく輝くその槍は、彼女を仮の主と認めたのか、その光を一層強める。

 その様子を見て、クー・フーリンは満足そうに笑った。


「よし! こいつもお前を主と認めたらしい。ひとまずは安心だ。勝手に発動して自らの胸を貫く、なんてことは起こらないだろうからな。

 ……だが、本来の試練はここからだ。私は英雄となるお前に期待している」


 からからと笑っていた彼女は、一瞬にして雰囲気を変えた。

 英雄となる者―――彼女は、それを期待していると。


「英雄となる、私?」

「そう。お前、見たところ『役の位(クラス)』は勇者(レジェンドヒーロー)だな? 英雄と勇者は必ず試練を乗り越えてから人々に尊敬されると決まっている。

 そして、私はここから離れるわけにはいかない。だが、外に私以上の英雄がいるとは思えない。だから―――お前に試練を与える。内容は簡単だ。囚われの姫を、一撃で救い出すこと。さもなくば―――」

「―――まさか、胸を貫くとでも?」

「察しが良くて助かるぜ。そう。そのときは、『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』がお前の胸を貫く。だから―――姫を救い出さなければ、お前は死んで、姫も一生囚われたままだ。そうなるように、『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』は〝血盟(ゲッシュ)〟を立てている。

 だから、こいつを呼ぶときはこう言え。

 ―――『心貫くは我が血盟ゲイ・ボルグ・ゲッシュ』、と」



 ―――パキリ、と『幽離結界』の外殻が割れる。

 白銀と、血の赤。その閃光が外殻を貫き―――一縷の光を差し込む。

 そこにいたのは―――


「カナリアちゃん……!」

「助けに来た。―――クロム」


 ルビーのように、ダリアのように、バラのように鮮やかな赤をたなびかせ―――彼女、カナリア・エクソスは現れた。

 その光景を見て、槍が胸に刺さったままの『木花咲耶姫』は激怒する。


「―――お前ェェェェェェ!」

「悪いな『木花咲耶姫』。君がさらった姫は勇者である私が助けなければならないんだ。……これでいいよな、『心貫くは我が血盟ゲイ・ボルグ・ゲッシュ』!」


 その声に応えるように、声が響く。


『完了。〝血盟(ゲッシュ)〟を、解除します』

「―――とのことだ。『木花咲耶姫』、私が今から君をあちらへ送ろう」

「舐めるなよ、人類。―――『武神刻・葬送楽土』!」


 そう言って、『木花咲耶姫』は『宇治橋鬼切丸縁切参』を鞘に納め―――居合い切りの要領で抜き出す。

 一瞬、私は届かないだろう? と思った。

 当然である。あれが刀だとすれば、刀身はだいたい九十五センチ。古刀だとすれば二尺三寸なので七十センチ前後。腕の長さを含めても、二メートルを超えることはない。対して私達は『木花咲耶姫』から四メートルほど離れている。

 だから、届くわけがない。

 なのに―――


「―――ッ、危ない!」


 カナリアが、私と一緒に倒れ込む。

 その上を、斬撃と称するのがふさわしいであろう衝撃が通り過ぎていった。

 呪力で肉体を強化しただけで、あんなことはできない。

 ならば、何が起きたか。

 それは―――


「……剣身が、伸びたのか?!」

「見切ったとしても無駄だ! もう一度―――『武神刻・葬送楽土』―――……」

「そうだな。見切ったとしても、無駄だ。だから―――こうする」


 パチン、とカナリアが指を鳴らす。

 『木花咲耶姫』が、『宇治橋鬼切丸縁切参』を鞘から引き抜く―――瞬間だった。

 ずるり。

 そんな肉を引き裂くような音が、あたりに響き渡る。


「―――な」


 その音の正体は。


「来い―――」



 『心貫くは我が血朱(ゲイ・ボルグ)』―――!



「これで、『武神刻・葬送楽土』は撃てないだろう? 安心しろ。君の胸の傷は恐らく数年は残るが―――その数年が経過する前に私達がその首を討ち取ってやる」


 不敵な笑みを浮かべ、カナリアはそう言ったのであった。

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