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Story.49―――神敵降臨《Ancestor Number:12》

「―――いくら人間でも、魔族にやられているのであれば助けるのが、騎士の役目。さあ、次はその魔核を射抜く!」


 そう言って、トリスタンは壊れかけた〝悲聖弓〟『喜劇』の原理(フェイルノート)を引く。そしてその弓から放たれる〝矢〟は、的確に『木花咲耶姫』を狙う。しかし―――


「笑わせないでよ、人類。そんな〝矢〟、防いで見せる! 『第一呪・風水解放』、『第二呪・陰陽制定』、『第三呪・五行顕現』、『第八呪・呪尊呪縛』、『第九呪・八卦展開』―――『幽離結界』!」


 『木花咲耶姫』は、複数の呪術の重ね技―――複合呪術の一つである『幽離結界』を発動させる。私が発動できるのはまだ『第一呪・風水開放』、『第二呪・陰陽制定』、『第三呪・五行顕現』の複合呪術である『離呪結界』だけだ。

 複合呪術というものは、重ねる呪術が多ければ多いほど呪術としての格が上がり、多大なる効果をもたらせるようになる。だが、その重ねる数が多くなればなるほど、その分難易度は高くなる。そして―――この『幽離結界』はゲームの中の私―――ラスボスとしてのクロム・アカシックが最終盤でようやく使う呪術である。その習得難易度は果てしなく、基本的な呪術を用いての複合呪術では、これ以上の呪術はない。これ以上を目指すとすれば―――それこそ『大呪』などを重ねる他ないだろう。

 そんな『幽離結界』は、当然のごとく〝悲聖弓〟『喜劇』の原理(フェイルノート)の放つ〝矢〟を弾き飛ばす。

 その様子を見て、トリスタンは驚嘆の声を上げる。


「なんで……どうして! どうして『時空穿孔』が起こらないの? ―――こうなったら奥の手でも使うか……?」


 そう言って、トリスタンは自らの魔力を練る。そしてその魔力が最高にまで到達しようという、その瞬間―――


「―――剣技、解業。〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)、一のごう無間の堕天(ヘル・ヘカテー)〟!」


 カナリアが、〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)を持って『木花咲耶姫』へ突撃する。

 一閃、一閃、一閃、一閃、一閃―――一閃。

 その一閃一閃が、確実に着実に、『木花咲耶姫』の『幽離結界』を剥がしていく。……なるほど、そういうことか。

 確かに呪術は強力だ。呪術は魔力を十三倍に濃縮した呪力を媒介に発動される。だが―――結局のところ、呪術というものは消耗品に過ぎない。

 消耗品である限り、この世に唯一無二、換えのきかない一品物である『剣技』には及ぶことはない。技の格として、『剣技』と呪術では幾層もの差があるのである。ゆえに、同じ威力、同じ出力なれば『剣技』のほうが勝るに決まっている。


「すまない、遅くなった! 無事か? クロム」

「……カナリアちゃん……!」

「大丈夫。すぐに片付ける」


 到着したカナリアは私にそうささやくと、目にも止まらなぬ速さで『木花咲耶姫』に接近する。

 そして魔力を〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)へ流し込み―――


「―――剣技、解業。〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)、二の業〝百獣の烈える華(ビースト・フィナーレ)〟!」


 記録されていた技を、顕現させる。

 一閃、一閃、一閃―――!

 一番目の技―――〝無間の堕天(ヘル・ヘカテー)〟よりかは剣筋の数は少ないが、それでも達人が幾年もの月日をかけて編み出した技は、確かにここにある。

 〝無間の堕天(ヘル・ヘカテー)〟が縦方向への六回攻撃なのに対し、〝百獣の烈える華(ビースト・フィナーレ)〟は千差万別の攻撃だ。

 一回目の攻撃で、記録されていたプログラム通り〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)は流された魔力を用いて魔術を発動させる。その魔術は―――『邪道魔術・火遁なりて、我が愛(ダーキン・ヤクシニー)』であった。

 発動された『邪道魔術・火遁なりて、我が愛(ダーキン・ヤクシニー)』は、〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)の軌跡をたどり、炎を描く。―――一閃。

 二回目の攻撃でも〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)は魔術を起動させる。『神聖魔術・糸断ち切るは空の爪(ト・メガ・テーリオン)』―――指定された範囲を何回も、何回も切り刻む『神聖魔術』の中で数少ない攻撃魔術の一つ。その魔術が―――〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)の軌跡をたどり、蹂躙していく。―――二閃。

 最後の攻撃は〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)は発動された『邪道魔術・火遁なりて、我が愛(ダーキン・ヤクシニー)』と『神聖魔術・糸断ち切るは空の爪(ト・メガ・テーリオン)』の余韻を〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)の動きに合わせて慣性により一極集中させる。―――三閃。


「―――なッ!」

「終わりだ。三の業―――〝無威徳無常の伺嬰児便(キリーク・ドゥルガー)〟!」


 『木花咲耶姫』が張った『幽離結界』の外殻を完全に剥がしたカナリアは、三番目の技―――〝無威徳無常の伺嬰児便(キリーク・ドゥルガー)〟を発動させる。

 一閃―――。

 大きな一振りが『木花咲耶姫』を襲う。

 その〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)が、『木花咲耶姫』を肩から袈裟斬りに切り裂く―――ところだった。


「……ッ、はあああああああああああああああああああああああああああ!」

「グッ……な、何が……」


 『木花咲耶姫』の手に、呪力が集まり―――〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)を弾き飛ばした。

 ホログラムが移り変わるように、呪力が剣の形へと変わっていく。―――否、それは剣の形ではなく、日本刀の形であった。


「呪詛詠唱―――四肢を千切り、首をて―――〈根底刀剣〉、顕現」


 思うに、それは刀であって刀ではなかった。

 呪力で編まれたものだと言っても、物質である限りどこかしらその物質の性質を持ち合わせているはずである。刀であるならば、金属光沢がでていてもおかしくない。

 しかし―――あの刀には、輝きがなかった。


「―――〝源妖刀〟」

「なんだ、アレ……―――呪術の中に、あんなものがあったなんて―――」


 私の知らない、呪術だ―――!


「―――宇治橋鬼切丸(うじばしおにきりまる)。……危なかった。けど―――この刀身を見たならば、もう生きては帰れないと知れ」


 煌々と輝く右目―――『超常魔眼・其、自然の意を見る眼(アイ・オブ・ガイア)』の光が急速に失われていく。……もしや、あの〝源妖刀〟宇治橋鬼切丸とかいう武器は、他の魔術と一緒に使うことができない?

 ―――いや、違う。

 あの〝源妖刀〟宇治橋鬼切丸は、そんなものじゃない。呪術と魔術は併用可能だし、恐らく〝源妖刀〟宇治橋鬼切丸は呪術で生成したであろう武器だ。魔術もそうだが、呪術で生成した物品はこの世に一つのモノとして独立する。だから、あれは単純に―――呪力消費が、多い。

 しかも、赤黒いオーラがはっきりと目に見えるほどに浮かんでいる。あの程度のオーラを見せるには私の呪力量の大体二十倍の呪力が必要だ。……つまるところ、『木花咲耶姫』の呪力量・魔力量に関しては―――化け物としか言いようがない。

 あんなものを受けてしまったらどうなるか。想像もしたくないが、カナリアはそれをわかった上で『木花咲耶姫』へ特攻を仕掛けた。


「―――剣技、解業。〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)、四の業〝羅睺阿修羅王の月食(ブラフミン・ラーフ)〟!」


 六本の閃光が、空間を駆け抜ける。

 一瞬、カナリアの腕が六本になったのではないかと錯覚するほどの神速の妙技。体感時間にしてコンマ〇一秒にも満たぬような一瞬が、切り払われた。

 ほぼ同時に、〝六業剣〟妖翼の双剣(ツイン・ファンタズム)が『木花咲耶姫』へ斬りかかる。

 〝無間の堕天(ヘル・ヘカテー)〟のような奇妙な剣筋もなければ、

 〝百獣の烈える華(ビースト・フィナーレ)〟のような魔術を併用した魔術剣士(メイガス・セイバー)のような戦い方でも、

 〝無威徳無常の伺嬰児便(キリーク・ドゥルガー)〟のような荒々しい力任せの一閃でもない。

 それは―――ただ、速いだけ。

 速いだけで―――世界を、置き去りにした。

 カナリアは、『木花咲耶姫』の左腕を切り落とした。普通ならば、それだけでも栄誉なことである。なにせ、相手は〝魔祖十三傑〟だ。傷をつけるのも困難であろうに、さらに一部を切り落としたとなれば、それは英雄と称えられてもおかしくない。

 しかし、カナリアはそれにとどまらなかった。

 恐ろしいほど速く、『木花咲耶姫』の四肢を切り落としていく。


「ガ―――ッ!」

「魔族といえど、達磨(だるま)となってしまうところを見るのは痛ましい。―――早々に、往ね!」


 最後の一閃で、カナリアは『木花咲耶姫』の首を落とした。

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