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Story.04―――魔術の師、そこにあり

「―――はじめまして、だな。クロム・アカシック―――いや、夏目鏡花。私は天津鏡(アマツカガミ)。天津鏡虹龍(コウリュウ)。君たちが〝聖魔の使い手たる隠者(ハーミット・カムラン)〟と呼んでいる、君の求める魔術師だ」


 私は、唐突に後ろへ後ずさる。私は、この男に―――この老人、天津鏡虹龍と名乗るこの老人に恐怖しているのか。それはそうである。何せ―――今の名前のみならず、前世の名前、そして私が彼を求めているということを、十二分に知っている! すると、天津鏡虹龍が、言う。


「驚いたか。私は、特殊な目を持っていてね。名を、『超常魔眼・是、人を透かす眼(アイ・オブ・エゴ)』という。これは人の考えているもの、記憶や、その人の過去を見れる目でね。それを通して、君が来るということを予想していた。これは一種の『超常魔眼・千里眼』の派生だからね。少しぐらいなら、未来も見えるのさ」


 そして、天津鏡虹龍が、それと、と付け加える。


「それと、もし天津鏡虹龍って呼ぶのが面倒なら、これまで通り〝聖魔の使い手たる隠者(ハーミット・カムラン)〟と呼ぶと良い。別に、私はそういうの嫌いじゃないし、むしろ二つ名っていうのは全男子の憧れだよ」


 そういうものなのだろうか。そう疑問に思うと、天津鏡虹龍―――もとい〝聖魔の使い手たる隠者(ハーミット・カムラン)〟は、コトコトと革靴のかかとを木製の床にあて、微妙に心地よい音を立てながら、私のすぐ前に来た。

 すると、彼は言う。


「さて、君が何を求めてここに来たのかは、私は知っている。―――魔術を習いに来たのだろう? それならば、私ほど好条件な人物はいない。あらゆる魔術を修めているし、なんなら私は異世界から転移してきた異世界人だから、それなりに良い能力(スキル)も持っている。しかも一応世界を魔王の脅威から救った英雄だから、〝世界〟から『固有魔術』をもらっている。これを超える人物など、いるはずがない。

 と、言うわけだから私に依頼しに来たと。……ん。いや、これはそこまでの情報を持ってこちらに来ていないな。なるほど親友に私の噂を聞いたと。それではるばるこんな森の中まで。ほうほう、これはこれは。なんとも頼もしい。―――決めた。君を、私の弟子にしよう。私も暇だし、君もはなからそのつもりだろう。ならば、好都合というものだ」


 ……すごい勢いで私の記憶を『超常魔眼・是、人を透かす眼(アイ・オブ・エゴ)』で読み取って話を進ませていく。しかも、彼の弟子になることも決まってしまった。まあ、もとよりそのつもりである。彼の言う通り、好都合というものなのかもしれない。

 しかし異世界人、だと? 妙だな……私以外にも異世界の記憶を持った人間がいるのか。


「そうだな。その質問に答えよう。君は、私の弟子になることを無意識下で承認したな。ならば、君は今から私の弟子だ。この世界最高峰の魔術師の弟子となるのだ。光栄に思うが良い。さて、先程の質問、中々に良い質問だ。新参ながら中々に良い観点。うん、私の目に狂いはなかった!

 その質問の答えは、結構いる、と言っておこう。君のような転生、というケースは珍しいかもしれないが……。私のように異世界から直接召喚される、または何らかの形でこの世界とのパスが繋がってしまって転移するというケースがほとんどだ。私が暇な時間に魔力の反応を見て観測した異世界人の数は、およそ百人程度ってところか」


 そして、彼は続ける。


「異世界から来た異世界人は、この世界に来る時に膨大な魔力を浴びるため、元の世界よりも飛躍的に高い身体能力、魔力、能力(スキル)を持っている。要するに、身体が元の世界と違う質の魔力に順応しようとするから、大きな成長が促される。そして、自らの肉体に秘められていた機能を解放することもある。私の『超常魔眼・是、人を透かす眼(アイ・オブ・エゴ)』がいい例だ。元来、私は人の感情に敏感だった。なんというか、手に取るように分かってしまう。何を見ていて、何を考えているのか。それが道行く人全てのものが見えてしまう。まあ、大半は後からスルーするスキルを覚えて気にならなくなったけど。

 君の場合は、転生する時に君のいた世界からこちら側の世界に来るまでに何らかの通路を通ってきたはずだ。その時、君の魂が通過している、と考えられる。だから、君には―――というかその身体は、他の人を圧倒するほどの魔力を持って生まれたのだよ。君に、君の意識が宿る前から引っ張られていたのさ、その身体―――クロム・アカシックという存在は」


 そう言い終わると、彼はどこから現れたのか分からない椅子にもたれかかる。と、思えば今度は別の部屋へ転移していた。暗い、これこそ魔術師というような部屋である。机の上には怪しく輝く薬品や、大判の書物などが乗っており、まさにこれぞという雰囲気を漂わせている。火の灯った小さなランプが、部屋をそれなりに照らしてくれているおかげで見えているが……これがなければ絶対に何も見えないだろう。


「そうか。暗くてよく見えないか。まあ、小さなランプ一個だしな……そろそろ買い替えようかなあーっていう時に違う魔術をしたいと思って数十年行けてないからな。まあいっか『生活魔術・手元がよく見える(ライトアップ)』」


 すると、部屋が明るく照らされる。あっちの雰囲気も好きだったが、やはり人間、光がある方が安心する。ああ、見えるって素晴らしい。よく見れば、机の上に乗っている大判の書物には魔法陣が描かれており、召喚術などをするための書物なのだという発見があった。やはり光が照らしている明るい空間が一番だな。うん。

 と、視線を彼―――〝聖魔の使い手たる隠者(ハーミット・カムラン)〟もとい師匠に向けたその時であった。え、と私は驚嘆の声を上げた。そこにいたのは―――齢二十数歳の美丈夫(イケメン)だったのだ。先程までいたヨボヨボの老人は、そこにはいなかった。


「じゃーん! どうだい、驚いた? 驚いたか。そうだろう、そうだろう! 何せ、この私の真の姿を見せたのだから! さて、どういうカラクリかを説明しよう。これはこの部屋だけを異界化させているからできる芸当だ。私の年齢が二十そこらだという偽の事実を異界に叩きつけると、なんと驚き、そのとおりになってしまうのだ! そしてこの部屋の外に出たら魔術が解けて元の年齢に戻る、というものさ」


 ……なんというカラクリ。私はまだそんなレベルまで行っていなからあまり良くわからないけれど。と、思っていると、また『超常魔眼・是、人を透かす眼(アイ・オブ・エゴ)』で考えを読み取ったのか、彼は何か首を傾げながら考え始めた。そしてその数秒後、こちらに視線を向き直して、こう言った。


「よし! じゃあ、君には魔術書を与えよう。これを使って、親友と交わした約束の時間までにこの『空間魔術・異界化』を再現してみよう! これができれば、晴れて正式な門下生だ」

「ええ!?」

「うんうん。いい反応だ。だけどね、もう約束の時間まであと三時間ぐらいしかないからね! それじゃ、頑張ってね〜」


 と言うと、師匠はどこかへ消えていった。……どうしたものか。魔術書だけは与えられたが、それを自分の力でどうこうできるレベルまで私は至っていない。―――そうして、大体一時間ほど、そうして考え込んだ。しかし、答えなど見つかる気がしない。やばい! 残り二時間しかない! しかも帰るまで大体一時間かかるから……もう実質一時間しかない! どうしよ。

 と、ここでひらめく。


「そうだ、魔術書!」


 なぜこんな初歩的なことをしなかったのだろうか。理解はできなくとも、少しはヒントになるようなものが書かれているはず、と思い魔術書を開く。そこには題名として、魔術文字で「空間魔術の基礎を埋めるための方法集」と書かれていた。

 基礎か。なら、私にも理解できるはず! と思い、ページを読み進めていく。すると、何も難しい内容ではなく、ただ単に「世界と虚構を切り取ろう」と言っているだけであった。しかも、ご丁寧に呪文まで一緒についている。


「なら後はイメージ!」


 自らの肉体に魔力を流す。あの不快感も、数週間魔術の練習をしていると、慣れてきたがそれでも気持ち悪いのには変わらない。しかし、その不快感に目もくれず、集中する。ハサミか何かで空間を切りとって……いや違う。世界と自分の周りを、完全に断絶する!


「―――それは、数多の先人の跡。その足跡を踏みしめ、私は自らの世界を作り出す!―――『空間魔術・異界化』!」


 すると、一瞬視界が暗転したかと思うと、何やら見たことない景色が広がっている。否、バリバリ見たことがある。それはなんとも悪趣味で―――私のことを一番理解していた。私の、生前の部屋である。

 呆然としていると、そのうちに異界が無くなってしまう。かわりに立っていたのは、師匠であった。


「うん、おつかれ! よくできていたよ。まあ、これで君も門下生だね! それじゃあ、明日から頑張ろうね!」

「あ、はい!」


 と言って、私は何がなんだかわからないまま、その屋敷を後にした。


 ―――視点は、〝聖魔の使い手たる隠者(ハーミット・カムラン)〟に移り変わる。彼は考え込んでいた。クロム・アカシックという名の、若い才能の原石について。


(あの魔術書は、私が数年前にようやく完成させた『空間魔術』に関しての最上難易度の魔術書なんだがなあ……。それのカバーを基礎魔術書のカバーに変えただけで。私でも、あの異界化の魔術には、オリジナル版完成には数十年の時をかけた。なのに、あの少女は、一体……)

「不気味だなあ」


 そう、薄暗い部屋の中で、隠者はそっと呟くのであった。

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