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Story.23―――穿ちの星

「―――見切ったぞ。クロム・アカシック」

「え―――」


 拳は、ランスロットへは届いていなかった。それを受け止めたのは〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)。しかも、血に染まったかのように、赤色に輝いている。


「何―――その姿」

「ほう、この〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)の姿に気づくか。貴様ら人類でも、これぐらいの判別はつくようだな。今の『不壊』の原理(アロンダイト)は先程までの『不壊』の原理(アロンダイト)とは違う! 私の怒りに共鳴して、〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)の『原理』が暴走しているのだ。こうなると、もう私にも制御はできない。

 さらばだ、クロム・アカシック。恨むならば、私を怒らせた自らと、人類という種全体を恨め。行くぞ―――」


 段々と、〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)に魔力が集まっているのをヒシヒシと肌で感じる。

 それはゲームでボスが溜め技を放とうとしてくるのに似ていた。クソ、本来のゲームシナリオには出てこないキャラクターが、どうしてここまで強いんだ! そしてこれを大人はどう対処していた?

 ゲーム内設定では、ランスロット含めあらゆる〝魔祖十三傑〟はほとんどが別の名称で呼ばれていて、ほぼやられている―――つまり、出てこない。あくまでもメインストーリーはカナリア・ヴァルヴァトスコンビの魔王を倒すための冒険譚であり、その前座となる〝魔祖十三傑〟は、別の中ボスなどに置き換えられていた、と考えられる。

 問題は、誰が、どうやって倒していたか? ということだ。確かランスロットはゲーム内では、粛清された、としか書かれていない。粛清された、ということは上の立場の同陣営の身内にやられたということだ。

 そしておそらくゲーム内でランスロットを粛清した人物は今の〝魔祖十三傑〟にいて―――そしてある程度この異世界とゲームは繋がっているだろうから、最も怪しいのは、ランスロットが繰り返し口に出している「あの方々」。

 そして「あの方々」は呪術を扱うらしいから―――弱点は、やはり呪術、もしくは呪力か! ならば―――


「なら、もう一回、拳食らわしてやんよ!」


 拳に、最大限の呪力を込める。

 手が燃えるように熱い。否、呪力をまとった影響で炎のようなエフェクトが漏れ出ているからか。

 その拳を、私は、全力でランスロットに、〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)に叩き込む―――!


「はああああああああああああああああ! 喰らえ! 私の拳―――」

「―――能力(スキル)魅了の昏睡(チャーム)』」

「―――……へ? ―――」


 私は、そこで意識を失った。



 ―――正直に言って、今回の勝負は賭けであった。

 ()()()から聞かされていた彼女の―――クロム・アカシックの魔術・呪術の才能は恐ろしいものであった。あの方さえも、将来的には超えてしまうほどに。

 だから、私は彼女を抹殺し、人類に「呪術師」という本来、私達の仲間になるはずの脅威が現れないようにするために戦っていた。

 この一瞬一瞬の攻撃の、一寸の、須臾の過ち、迷いがあれば死んでしまうという状況。そして、私の意思に関係なく〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)の『原理』―――『壊れてはならない、壊してはならない。壊すものには鉄槌を』という性質が暴走したという事実。

 これだけでも、私は彼女の才能の恐ろしさを理解した。

『原理』というのは〝世界〟から定められた武器―――〝原理保有武装(ユニークウェポン)〟そのものの性質。これが表面的に出るのは、その武器の所有者が望む場合か、武器の本能が危険を察知するときのみである。 

 そして、〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)はその〝原理保有武装(ユニークウェポン)〟の中でも上位に入り、その肝はいつでも座っている。その〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)がここまで過剰に反応するとは、普通思わない。

 私がかけた能力(スキル)は『魅了の昏睡(チャーム)』。相手を眠らせるという単純明快な能力(スキル)である。

 その持続時間はかけた相手の魔力量と魔力抵抗の差に比例する。その定数は〇・一秒であり、この恐ろしく展開が移り変わる戦況では、〇・二秒もあれば〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)の本当の攻撃が火を吹く。

 だから私は、今まで体感した魔術や呪術から魔力量と魔力抵抗を推測して―――その差が2を超えるから、能力(スキル)を使用しても良いと判断した。


「これで、勝ちだ! 〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)―――」


 ―――〇・一秒経過。

 その時であった。

 私の持つ〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)が放つ紫色の光が辺り一帯を照らす時、その目にも光が灯った。

 そう―――クロム・アカシックが目覚めたのである。



 ―――……。


 誰かが、木の切り株に座って俯いている。それが誰なのか、俯いている理由は何なのか、私には到底わからない。

 ふと、唇が動いた気がした。


 ―――……さて、彼女の呪力から反応があった。末席は今、彼女と交戦中らしい。おっと、彼も()()を抜いたか。お互い本気の勝負。勝ったほうが生き延び、負けたほうが死ぬ―――いやはや、なんとも極上の観戦娯楽の一つじゃないか。

 彼女も、教わった術を精一杯行使しているが―――それだけでは、あいつの魔剣には勝てない。あいつの魔剣に勝つには―――そう。『第六呪』ぐらいを使うことしかないかな。


『第―――六呪』? 呪術の系統に連なる六番目の術か。しかし、私はまだ『第六呪』を習得していない。なんでも師匠いわく「技能は良いが、認識が弱い」とのことである。はて、どういうことなのだろうか。


 ―――『第六呪・渾天儀(こんてんぎ)』。本来あり得ざる星の質量―――もちろん仮想だが―――を相手にぶつける、攻撃特化の呪術。しかし、これは呪術ではなく、魔術としてカモフラージュされている。巡る星の最前線。―――『系統別魔術:星廻魔術・廻天する、告終の星(ヘール・ボップゲート)』。それが呪術として成立するためには、条件がある。

 一つは、呪力を流して発動すること。

 もう一つは―――『系統別魔術:星廻魔術・廻天する、告終の星(ヘール・ボップゲート)』が呪術だと認識すること。基本それは魔術として認識されているが、本来は『第六呪・渾天儀』という呪術を魔術へ格落ちさせたものなのだと、認識しなくてはならない。


 その謎の人物Bの独白は続く。それは、私にとっては有益でしかない情報である。なんともありがたい。

 ―――そう思っていると、意識が浮上していく。

 ああ、そうだ。ここは夢の中であった。

 と、その時。謎の人物Bの唇が動く。


 ―――さあ、行きたまえ。そこで見ているものよ。おそらく、君は彼に勝てる。人を呪う呪神の力―――存分に振るってきたまえ!


 見えていた、のか。



 ―――夢から覚めると、目の前には〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)に紫色の光をまとっているランスロットが立っていた。


「……ランスロット、この期に及んで何をするつもり? ―――まあ、いいや。夢の中で教わった『第六呪』の発動法、ここで試してみるのも良いかもしれない」


 私は、手のひらに呪力を込める。赤黒い、どろっとした液体が手のひらからこぼれる。それは、凝縮しすぎた呪力の姿。全てを呪う―――荒神の力。


「呪詛詠唱―――人よ、見よ。それは一夜の悪しき夢。おぼろげに浮かぶは星の厄災。()いて()いて()いて()いて…………星を食らいつくせ、あり得ざる廻る星よ―――! 『第六呪・渾天儀』!」

「〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)原理(ビギニング・)異常暴走(フェイタルエラー)―――『呼びし妃の、泣く声よコール・オブ・グィネヴィア』アァァァァァ!!!」


 高密度の呪力が、一点に集中する―――球体となる。その球体は呪力同様濁っており、その周囲には通常よりも大きな重力が発生しており、今回の戦いで耐久値限界までいたぶられた椅子が、『第六呪・渾天儀』の球体に吸い込まれていく。

 ―――それを、投げる。否、正確言えば球体にはたらく力の向きを指で変えたのである。球体は、弧を描くように、敷かれているレールの上を走る列車のように―――まっすぐと、曲線を描くという矛盾した状況を作り出して飛んでいく。

 飛んだ刹那(せつな)、ランスロットの握る〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)原理(ビギニング・)異常暴走(フェイタルエラー)―――『呼びし妃の、泣く声よコール・オブ・グィネヴィア』が放つエネルギーが、『第六呪・渾天儀』に衝突した。

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