命がけの脱出ゲーム
クリスマスの夜、僕は友達の家で過ごしていた。「お誕生日おめでとう!」と友達(木村カイト)が声をかけながらプレゼントを渡してくる。「ありがとう!!」と僕は満面の笑みで応えた。
そう、クリスマスの日(12月24日)は、僕の誕生日でもあるんだ。僕はこの幸せな時間を大いに満足していた。時計に目をやり、(もうこんなじかんか)と思う。カイトも同じ気持ちだったのだろう。「そろそろお開きにしようか。」と、ため息交じりの声を出した。「家まで送ろうか?」と心配性のカイトの母が声をかけてくる。「いえ、結構です。外は冷えているので。」と遠慮する。「いや、駅まで送るよ。途中でこけて死なないようにな」といたずらの笑みをうかべながらカイトがコートを着る。僕の家は遠く、駅から徒歩で10分くらいだ。僕も笑みを返しながら、「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくな、護衛さん。」とコートを着た。カイトの顔にさらに笑みが広がった。「じゃあ行くか!」と、僕らは肩を並べて玄関を出た。「さ、さっむ!」「そりゃそうだろ。12月の夜だぜ。」「確かに。お前は寒くないのか?」「あんまり。お前がシャツ1枚の上にコートしかきてないだけだろ。」「あ、そっか」とか言いながら歩いていたらいつの間にか駅に着いた。「じゃあね」「たまに遊びに来いよな!」「うん!!」と別れの挨拶をしながら電車に乗り込んだ。窓からカイトの手を振る姿を眺めているうちに電車はゆっくりと動き始めた。5~6分たっただろうか。次の駅に到着し、その駅で降りた。夜でも賑やかな駅を離れるうちにいつの間にか辺りは少しずつ静かになりはじめていて、細い道に曲がった時には自分の靴がコンクリートを叩く音しか聞こえていなかった。いや、聞こえていないと思っていた。僕の足音に混じって、後ろから、他の人の足音がきこえていた。最初はたまたま一緒の道だったのだろうと思っていた。しかし、曲がっても曲がってもついてくるその足音に僕は違和感を覚えたが、僕は怖くてふりむけなかった。僕は人一倍耳がいい。やろうと思えば歩幅の大きさだってわかるだろう。耳に意識を集中させる。その足音は、かなり静かで、忍び足で僕の後をついてきている事を意味していた。少しずつ焦りが募る僕の頭の中に、ふっと1つの仮説が浮かんだ。もしかしたらカイトが僕を驚かせようとしているのかもしれない。そう信じこんだ僕は細い道を曲がった。ここなら曲がってきたカイトを驚かせられる。僕は腰を低くして、もう一度耳に意識を集中させた。カイトが角を曲がるまで、後5メートル。3メートル。2メートル。今だ!僕は足をまげて飛びかかろうとしたが、すんでのところで止まった。僕が驚かせようとしていたのは、カイトではなかった。ましてや見回りの警官でもない。2メートルはある大男が鬼のような形相で僕を睨んでいた。僕は地面に座り込みまるで金縛りにかかったかのように、全身が硬直していた。心臓が高速で動いているのが分かった。なんであの時に振り向かなかったのだろうと過去の自分を責めた。大男はしゃがみこみ、悪魔のような笑みをうかべながら、僕の顔に何かを吹き付けた。次第に意識が遠のいてきた。それが催眠ガスだと気ずいたのは、ロープで縛りあげられて、鍵のかかった部屋で目を覚ました後だった。
何かの騒音で目が覚めた。「がはっ!」呼吸は荒く、体中汗まみれだった。ひどい頭痛がする。まだ朦朧とする意識で周りを見渡す。近くにあった水道を見かけ、手を伸ばそうとするが、体が動かない。見ると、ロープで縛られていた。このままだと脱水症状で気絶してしまうだろう。何としてもロープを外さないと。ロープの結び目はきつく結ばれていて、到底ほどけないだろう。(何かとがったものはないか)と周りをもう一度見渡す。すると、ワインの瓶が隅にあった。(!!これならいけるかもしれない)と、瓶を足元におく。(頼む!!)と今ある力全てを瓶に叩き込んだ。瓶は勢い良く壁までとんでいき、ぱりんと楽器のような音を立てて割れた。「よし!」と声をあげた。早速瓶の破片を使ってロープを切り、自由に動かせるようになった体で水道へ向かった。喉を満たした水は今まで飲んだものの中で一番美味しく感じた。水を飲んで頭が落ち着き始めた時、再び何かをたたくような音がした。見ると、部屋の壁に窓ガラスがあり、向こう側からカイトがこちらに向かってガラスをたたいていた。何かを叫んでいるが、防音でできているのか何を言っているか聞き取れない。こちらに声が届かなことに気づいたのか、カイトは黙ってしまった。とりあえず合流しなければ。そう考えてドアノブに手をかけるが鍵がかかっていて開かない。足元にタブレットがあり、8文字の英語が入力できるようになっていたが、それらしきものは見つからない。とにかく周りを探していたら、いきなり天井のスピーカーから声が流れてきた。『おはよう。気持ちの良い朝だね。僕のことはゼロさんとでもよんでほしい。突然だけど、君たちにはゲームを行ってもらう。ルールは簡単。ここから脱出するだけだ。ただし、暴力は禁止。君たちが眠っているあいだ腕にある装置をつけさせてもらった。反則した場合スイッチが入り電気ショックを食らうから気をつけてね。これから僕が指示したミッションを行ってもらう。制限時間内に成功しなかった場合も同じことが起こる。3回失敗した場合には電気の出力を最大にする。そうするとどうなるかはご想像にまかせるよ。』となりでカイトがわめいている。『騒いでも無駄だよ。木村カイト君。』僕は絶句した。なぜその名前を知っているんだ。最初は子供騙しだと思っていたが、次第に相手が本気なことが分かってきた。『ルールを追加しよう。これじゃああまりに一方的だ。何かこのゲームに対してプラスなプレイをした場合、ポイントを与えよう。そのポイントを獲得した状態でミッションに失敗しても電気は流れないようにする。せいぜい頑張ってね。第1ミッションはこの部屋から脱出すること。制限時間は30分頑張ってね。よーい、はじめ。』僕は部屋の隅にあった防犯カメラをにらみつける。こうして、僕たちの脱出ゲームが始まった。