重ね着した夜の帳
重ね着した夜の帳を海に沈めた
暗い暗い波打ち際は
月が唯一の明かりだった
微かに照らされた白い砂浜
私は静かに足を動かす
夜の帳はずしりと重たかった
それは私の周りに一重二重と絡まっている
一つはがすのもやっとで
全て解けるのはいつになるのか
解く私にはさっぱり分からない
息苦しさを感じながら
ぐるぐると巻きついた一つをはずした
私の手につかまれた夜の帳
今は不思議と軽かった
薄く空気に溶け込みそうなお前
いつからこうして重くなったのか
答えるものは誰もいない
悲しさを隠して手を伸ばす
さざなみが冷たく押し返して
そうっと夜の帳が動いた
ひらひら流れては
さらさらと水にかえっていく
何度か波の音がして
気がつくと私だけ
海には何もなかった