第三話 異世界の相棒
俺は今、下着姿の美女に性行為をしたいかどうかを聞かれている。ーー意味が分からない。
「ま、まま待ってくれ!言ってる事がよく分からない!ちゃんと説明してくれ!」
「ーーそのままの通りよ。私はあなたに少なからず助けられた。だから、そのお詫びとして私と性行為をする権利をあげる、ーーという話」
「もう質問じゃねえけど!?」
実際に言うと助けたというより助けられたという方が正しいのだ。だからお詫びもくそとないし、助けてなんていないのだ。しかもたかがお詫びに性行為は理解できなかった。
「ーー、自分に正直になっていいの。今、ここはそういう場所。私も、覚悟は出来てるわ。あなたに、ーーー初めてをとられるのは」
頬を赤く染めて、自分の体を誘っているかのように撫でている。かなりの誘惑的な行為に動揺してしまう。しかも初めてを奪うことになってしまう事はかなり罪悪感に襲われる。
「いや、だから」
「いいよ。きて。はやく」
思わず直視出来なかったものがいつの間にか目の前まで近づいていた。ーー言ってしまうと、谷間がはっきりと見えていた。
「いや、俺は、ーーお詫びなんてーー」
「嫌なの?私って、そんなに魅力無いかな?ーーそれじゃあ、仕方ないよね」
「違う!そういう事じゃ無くてーー」
「じゃあ、その証拠に、私を汚して。私、貴方にそれくらいされるのは仕方のない事だと思っているもの」
誘惑。誘惑。誘惑。ーー
吸い込まれるその体に、無意識に手を出してしまいそうになる。ーーしかし、ここで俺は気付いた。
俺が気絶する前、彼女に弱いと言われたのだ。
だから少なくとも、彼女に感謝の気持ちは無いのだろうと感じ、その上、そんなちっぽけな存在にここまでする事がそもそもおかしいのだ。その瞬間、彼女の真相に理解する。さっきの質問からも含めて、ーー
「俺を、試しているのか?ーーお前は」
「ーーーえっ?そんな事はないです。私は確かにあなたに救われた。なのに差し出すものが手持ちに無いので、体をーー差し出しているのです。ですから遠慮は要りませんよ。どうぞ、私で満たしてください」
俺に都合のいい事ばかりを押しつけ、誘惑に負けさせようとしている。ーーなるほど、確かに質問としては成立していた。
「もう演技はいらないぞ。俺はそんな事しない。そんなに心は汚れていない」
「ーーー」
「ーーー」
「ーー、よくわかったわね。その通り。あなたがクズかどうかを調べたのよ」
「クズって、酷い言いようだな」
「クズはクズだもの。しかし、あなたは私の思惑に気づいた。欲に支配されなかった。だから、あなたはちゃんとした心をもってる事が証明されたわ」
ーーと、その質問、というよりは試験だが、それには俺は合格したらしい。ーーしかし、何故俺はこんな事をされているのだろうか。そんな疑問が湧いてきた。
「ーー、そもそもなんで俺にそんな事を試したんだ?別に俺に興味無いんならあそこで放っといてもいいだろ」
「それは嫌よ。少なくとも、私を助けようとしてくれたみたいだしね。恩を無かったことにするのは、私がクズになってしまうわ。ーーそうね。私が何故試したかはさっきの質問で言ったわ。助ける行動をとったあなたがどうも不思議でならなかったの。もし私を救うためだけだったら、あまりにも優しすぎるから、必ず何か思惑があると思っていたのよ」
「あぁ、まあ、ね」
強制的に助ける状況になったから思惑は特に無いのだ。まあ彼女に何も起こらなかったのは普通に安堵をしていたが。
「後々、何か必ず要求してきそうな気がしたから、私から先に問い詰めた。ーーそれで、最後に性行為に持ち込もうとした。そうすれば男の深層心理なんてあっさり暴露されるわけだからね」
「ーーお前、男を性欲の塊と勘違いしてないか?」
「ほぼ、そんなものでしょう」
否定は、ーー出来なかった。確かに気付く事が出来なかったら、俺は彼女を大胆に襲ってしまったのかもしれない。
「ちなみに襲うとどうなる?絶対お前ならそのまま襲われるわけないと思うのだが」
「殺すわ」
「即答!!」
改めて、気づけてよかったと心底ホッとしている。せっかく死を免れたのに、すぐ殺されてしまったら、それこそクズすぎる。いろんな意味で。
「まあ、あなたはちゃんと優しかったのだから、それでこの件はおしまい。あっ、そうだ。胸くらいなら、ーー触ってもいいよ?」
「さっき殺すって言われたのにそんな手に引っかかる奴いねえよ。どんだけ殺意高いんだ」
「ふん」
その件が済んだ途端に服に着替え出した。まさか、その為だけに下着姿にしたというのか。どこまで誘惑に気合いを入れているんだ、と、ひそかに恐怖する。
「まあ、あなたが優しい人なら、話は変わる。ーー頼みがあるのよ」
「え、まだ何かあるのか」
「これからあなたは私の『相棒』になってほしいの」
ん?
「おい、また誘惑してんのか、お前。どんだけ抜け目ねえんだよ」
「ーーっ!流石にそこまで男性不信じゃないわよ!」
ーー充分、男性不信だと思う。
「これが誘惑じゃないとしたら、ーー『相棒』って、どういうことだ?」
「その単語の意味通りよ。私とともに人生を生きて、私と一緒にいろんなところで試行錯誤してほしいの」
「おいなんかプロポーズみたいな感覚なんだが、何、俺の事好きなの?」
「殺すよ」
「いやだって明らかに文面がそれじゃんか!!」
「別に結婚とかそんなんじゃないわ。簡単に言うと、死ぬまでついていく『仲間』という感じかな。私も流石に一人だときついの。いいわよね?」
「まあ、俺にとっても助かる事柄だ。でもお前の『相棒』って事は、お前の行動通り全て動かなきゃならないのか?」
それだとかなり、異世界の救済に支障が出る。ただでさえ、切羽詰まっているのに、そんな自由に動けない環境になってしまったら、もう何もやりたい事ができなくなってしまうかもしれないのだ。
「いいえ、私は特に行くあてが無いの。だから、好きにこき使ってくれていいわよ。ただ、性的な事だったら殺すけどね」
「え、本当か!それならめっちゃ助かるよ!ありがとな!!ーーでもなんでそんなお前は目的とかもってないんだ?」
そんな疑問が湧いてきた。今の会話からも分かるが、彼女も俺に似た状況にいるのだ。まさか同じ異世界救済、という事は目的がないのであり得ないのだが。
「私、昨日家出をしてしまったの。特に計画も無く、ガーネット王国を彷徨うくらいしかする事が無かった。でも、家にはもう戻りたくないの。だから、ああいうクズとかに慰み者にされたりした方がマシだった。まあ、それくらいまでは追い詰められてしまっちゃってね」
「ーーー」
「そんな時、あなたと出会った。ーーだからあなたは私の恩人。それは確かだわ」
「その、お詫びってことなのか?」
「いいえ、お詫びでは無いわ。私がそうしたくてそうしてるの。だから、なんでも申し付けてくれていいわ。でも、性的なーー」
「さっき聞いたよ。とりあえずわかった。あと、そうだよ。あと最後の質問が終わったわけだし、ーー名前、教えてくれよ」
「ーー、ルーフレア・フローライト」
「ーー、ルーフレアか。俺は石垣 龍太だ。石の垣根と書いて、龍が太るで石垣 龍太」
「イシガキ、リューター?」
「最後伸ばす必要はないぞ。さて、早速『相棒』よ。頼みがある。ーーこの世界についてを、教えてくれないか?」
異世界救済にはまず、この異世界についてを知る必要があるのだ。その為にペリドット中心街に来たのだ。
「そう、ーーね。いいわよ。かなり長くなるけど。大丈夫?」
「あぁ、承知の上だ。無知が一番嫌なんでな。」
「では、コホン。ーー」
そうして、異世界についてを全て話してもらうことになった。
今回は短いですが、次回は多少長くなります。