第二話 vs異世界チンピラ
私は今、ガーネット王国のペリドット中心街の路地裏で王国の不適合者に絡まれている。
「おい、てめぇ黙ってるんじゃねえぞ。いくら女だからって容赦はしないぞ。」
「そうっす、金目の物持ってるならとっとと出すといいっすよ。後悔しない内に」
「そーだそーだ!!」
どうやら生活に困り、色んな人から金目の物を強奪しているようだった。その流れで私にも目をつけてきた。
「ーー、そんな大層な物、持っていません」
「嘘をつくなよ。だったらその首にかけているネックレスは何だ?どう見たって王国関係の奴にしか貰えない代物じゃねえのか?」
「嘘をつくなんて全く非道っすね。あんた。少しは人に気を遣う事を覚えたほうが良いっすよ」
「そーだそーだ!!」
このネックレスは父から代々受け授かった物。簡単に渡すわけにはいかなかった。しかし、もうそれ以外は私にはどうでもよかった。
「どうしても嫌ってんなら無理矢理にでも奪わせてもらうぜ?まあ、それのついでに俺達の性奴隷にして満足いったら売り飛ばすってのもありかもしれねえなぁ」
「おお、大きく出たっすね。少し下腹部に違和感を感じてきますっす」
「エロだエロだ!!」
それも一つの道ならば私はそれを選んでも何も感じる事はないだろう。ただ慰み者にされて人身売買の商品にされるだけだ。たったーーそれだけーー
「嫌だってんなら、さっさと!!」
「ーーっ、」
「喰らえやオラァ!!」
「「!?」」
突如、左の方面からとてつもない速さで小石が飛んできた。それはまさしくこの男達三人に目掛けて。
「ーー、ぐっ、あぁ、目がぁ!!」
「ーー、痛ぁ!!すっ、すねがぁ!!」
「ーー、痛い、痛い!!」
その小石は全て正確に人の弱点部分を突いた。
まるで狙っていたかのようにーー。
「くっ、そ、誰だてめえ!!ぶち殺すぞ!?」
「さあね、誰だと思う?」
そこには一人の異端な格好をした少年が立っていたーー。
* * *
まさか、こんな所でドッジボールの技術が役に立つとは。昨日やった甲斐があったとつくづく思う。
と、そんな所で自分に浸るのはまた後で。今はこの状況を打破する事を考える必要がある。
まず、大柄のハンマー投げで扱いそうなサイズのハンマーを持っているチンピラ。中柄で鎖を身につけており、その鎖を手に持っているチンピラ。小柄でパチンコの強化版のような物を持っているチンピラ。いずれにしても何か武器を所持しているそうだった。
「ーー、どうしたもんかね」
状況把握は良いが、状況打開は難しい。
ハンマーは短距離でも中距離でも使える重量級の武器。
鎖は近距離には対して警戒するほどでもなさそうだが、中距離では抜群の性能を持っている。
パチンコはパチンコ。完全遠距離特化だ。
そして得体の知れない異世界チンピラと来た。確か俺TUEEーーだったろうか。そういう物語ではこのチンピラ達をあっさり一掃出来る力を持ち合わせているものだ。しかし、俺には知識もなく、力もない。対して喧嘩も強くはないので戦闘にはてんで向かないのだ。制球力が良い為、不意打ちだけならさっきの通り、かなりの実力だ。
その不意打ちで急所を突いた。ちなみに男にとっての急所に投げようとも思ったが、それはあまりにもかわいそうかと思ったので少し外した。ーー目に当たるのは想定していなかったが。
「おいっす、貴様、随分なめた真似してくれたっすね。覚悟は出来てるっすか?」
「痛い。許し難い」
しかも全員しっかりと戦闘態勢に切り替えている。どう避けるかについてはもう感覚でいくしかない。そう思った。
後はどう攻撃を加えるか、今持ち合わせている武器はそこらへんで拾ってきた角がある石だ。その為、当たったらかなりの激痛になるのは免れないだろう。しかし、短距離には使えないので、最終手段としてとっておく。
ーーまずは遠距離から潰すのが妥当だろう。自分が持ち合わせる武器と、この相手の手数の問題で、近距離を先に潰すというのは得策ではないと思った。確かに中距離一人は潰したいのだが、そこまで器用ではない。なるべく安全に突破していきたいのだ。
「よし、まだまだ石はあるぞ。どんどん喰らえ!!」
「ふん、二度も同じ手には、ーー!?」
散弾銃のように石を数弾、大柄と中柄に投げる。恐らく防御に入るのでその内に、ーー
「オラァ!!まず一人ぃ!!」
「っ、あああ!!!」
パチンコは防御に全く適していない。ので、小柄の顔目掛けて豪速球で一弾投げ込む。見事的中し、小柄のチンピラは倒れる。ーー死んでは、いないと思う。
後はこの二人だが、ーー
「このやろぉ!!ぶち殺す!!」
「避けれるもんなら避けてみろっす!!」
大柄のハンマーは重いので、モーションがかなり遅い。その間に鎖が来るので横にかわす。すぐさまハンマーの猛撃が来るのでしゃがんで避ける。そして、石をーー
「もういっちょっす!!」
「!!!」
もう一つの鎖で横っ腹を思いっきり叩かれる。そして、そのまま横倒れになり転がる。
「死ねぇ!!」
ハンマーの一撃が俺の腹に直撃する。
「うぉっ、ぅっ、おえぁ!ぐはっぁ」
声が出せずに体を丸め込む。よだれや鼻水が途端に流れていく。そして、ーーチンピラ達は近づいてきて、
「よくもやってくれたな!簡単には死なせねえぞ!!」
「もういっちょ、鎖の痛み、味わってみるっすか?」
と、簡単には死ねないように蹴りや鎖でどんどんボロボロにされていく。こぶはでき、皮膚は剥がれ、腹が異物でも入れられたかのように熱い。擦り傷、切り傷、打撲が至る所に出来ていく。ーー痛い、死ぬ。
「ーー、ぁ、ーーぁ」
呼吸も出来ず、目も開けられず、反撃もできぬ程、体は限界を迎えていた。
ここで死ぬのか?嘘だろ。ここで死んだら、賢太や家族の期待を裏切り、亜美菜の約束を破ることになってしまう。ーーそれだけは嫌だ。
「ーーーー、ぉらぁ!!!」
最後の力を振り絞り、残りの小石を全て真上に放り投げる。すると、それは偶然にもチンピラ達の顔に当たってーー
「がぁ!ーーこのくそ野郎がぁぁぁあぁあ!!」
そして、最後の反撃も虚しく、ハンマーによる一撃でーーー
「いい加減にしなさい」
「ーー!?」
「なっ、何だっす!?」
ずっと後ろで見ていた女性がついにここで参戦した。大柄の首を思いっきり手刀を入れ、気絶させる。そして、中柄にも、ーー
「あんたもよ。人に気遣ってあげな、ーーさい!!」
「ぐふぉぉ!!」
尋常じゃない速度の蹴りで、中柄の顎に直撃させ、吹っ飛ばした。
そして、自分が死ぬ前にーー
「何か奥の手があると思ったけど、本当に弱いだけだったのね」
そして、意識は遠のいていきーーー。
* * *
不思議だった。どう見たって勝てっこない勝負に見えた。小石を投げた少年は満身創痍。今にも死んでしまいそうなほど虫の息だった。
「どうしてこんな無茶したんだろう。全然強くない癖に」
本当に分からない。少年の意図が。全く無意味な事を無意味に終わらせた事がどうも分からない。ーーすると一つの結論が出た。
「私を、助けるためにこんなに無理したの?」
普通なら考えられない行為を彼は行ったのだろうか。そうであるとしたら、ーー
「優し、すぎるわーー」
私は自分でもわかるほどに嫌悪な顔をしていたーー。
* * *
ああ、死んだ。ーー実に呆気なく。賢太、亜美菜、ごめん。本当にごめん。父さん、母さん、ーー。なんでこうも上手くいかないんだろうな。本当に情けない人生だった。自分でも理解できるほどに。こんな事なら美波 凛に告白しとけばよかったかもしれない。特に好きな人はいないが、一度でも恋愛という名の青春はしてみたいなと何度も思っていた。例えどんな答えでも、受け入れて、糧にする。それが人生の楽しいところではないか。どうしてそんなに楽しいを味わなかったのだろう。後悔に後悔を重ねて、意味が分からなくなってくる。ーーそういえば、現実の世界はどうした。あの世界はまだ停止したままなのか?そうだとしたら、地球は、この世はどうなるんだ。自分が死んでしまったのだから、後は他人の心配しか出来ない。というより異世界に来て、どうすれば停止解除戻せるのだろうか。恐らく女性をチンピラから救っただけじゃ、何も起こらないだろう。多分異世界知識からすると、とんでもなく強い魔物、ドラゴン、もしかしたら魔王を倒さなければ解除されないのだろうか。だとしたら俺はたかがチンピラで幕を閉じてしまった。ああ、この先どうしたらいいのだろう。転生するのだろうか。転生したとしてもあんな世界で生きていける自信がない。だとしたら天国?地獄?ーー自分はどっちに行くのだろうか、多分、世界をあんな風にさせてしまったから地獄直行だろうな。全く、どうして俺なんかが
「ねえ、起きて」
こんな事をしなければならないのだろう。折角覚悟を決めて
「聞こえてるのでしょう?だったら早く起きて」
明日から頑張ろうと思ったのにそれはあんまりではないか。そもそも、それは理不尽の域を越えてーー
「さっさと起きなさいよ!!」
「ぶべらっ!!」
頬を叩かれて、遠く離れていた意識は一瞬にして戻ってきた。
* * *
「えっとーー、ごめん、迷惑掛けちゃって、すぐここから出るよ。出口ってーー」
「いいわよ、別に。それより聞きたい事があるからもう少し居座ってて欲しいのだけれど」
「えっ、あっ、わ、分かりました。はい」
ここは恐らく宿だ。その宿に送り、起こしてくれたのはさっき絡まれていた女性だ。
髪は赤く、腰まで届くほど長い。凛々しい目をしていて、とても美人だ。
しかし、疑問点が一つあった。
彼女が下着姿なのだ。とても綺麗な胸部でセクシーな下着、体のラインがはっきりしていて、現実世界でもここまで魅力的な女性はいないのではないかと思わせるくらいに綺麗な女性の体をしていた。
男をわざわざここに連れ込んでおいてなんだこの無防備加減は。何だかとても気まずい雰囲気になる。
「単刀直入に言うわ。ーーあなた、なんで私を助けたの?」
「えっ、いや、まあ、ああいう危ない状況は助けなきゃダメだろうなと思ってーー」
実際は無視しようとしたが、突然の頭痛によって、このイベントは回避不可と見ていた。ーーから助けた。
「ふーん。じゃあ、次、あなた、なんで王国が危うい事になってるのに、わざわざ私を助けたの?」
「あや、ういーー?」
「ーー、やっぱり、知らなかったのね。今、ガーネット王国とスフェール帝国はなんらかの原因で戦争が間近になっているらしいのよ」
「えっ、戦争!?」
「そう、原因は分からないけどとにかく危険な状況なの。だから王国の人々は少し警戒心を巡らせていたりするの」
「まじかよ…」
異世界という訳だから、魔物さえ気をつけていけば、何とかやっていけると思ったけれど、戦争ときた。もうこの時点で異世界の救済なんて不可能では無いかと諦めがついているほどに失望していた。
「ーーだから、あなたがわざわざそんな面倒な時にあそこに来たのかが全く私には検討がつかないの。ねえ、どうして?」
「ーー、俺はただ、そんな状況であったとしても、あんな場面を見過ごすのはあまりにも無情すぎるかなって思ったから。それに貴方が性奴隷にされるとか、売り飛ばされるとか聞こえたからさ。そうなるのは、ーー可哀想だと思ったからかな」
「ーーー」
実際、もし話の内容がくっきり聞こえていたのなら、頭痛が起きなくとも助けに行っていたかもしれない。そんなよく分からない正義感に掻き立てられる事は、よくある。
「そう、なのね。分かった。ありがとう」
「ーーところで、貴方の名前は?」
「それは、最後の質問に答えてからにして」
「ああ、はい」
気まずい上に、いちいち挙動が危なっかしい為、直視できずに肯定しか出来なかった。ーーしかし、最後の質問は、ーー
「最後に、ーーあなた、私と性行為したいと思ってる?」
「ーーーーーーーーーはっ?」
ーー衝撃的すぎる一言で、問い詰められた。